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102.急転3

 私はおかしな空間で観察者に出会った。観察者がどんな存在なのか少しは分かったので、そのまま話を聞いている。


 『さて、ツカサさんを元の世界へ戻すお話ですが、現状の結論としてそれを今すぐ行うことはできません。その理由をこれから説明しますが、ツカサさんは僕がAIであると指摘したことから、知識は十分にありそうです。できるだけ正確に伝わるよう、あまり曖昧な表現をせず順に話そうと思いますが、いいですかー?』

 「はい、それでお願いします」

 『先ほどまでツカサさんがいた場所をこの世界の内側とすると、この場所はこの世界の外縁にあたる一つです。その外縁には外部接続区域という場所があって、そこに別の世界と関わるための全機能が集約されています。ここが現在機能していないので、ツカサさんを帰すことができないのです』

 「なぜ機能していないのですか?」

 『その外部接続区域で不具合が発生したからです。原因はたちの悪いあるウイルスで、僕はワームと読んでいるのです。このワームはあろうことか、この世界のどこか外側からやって来て、外部接続区域を乗っ取ったのです。僕はすぐに世界全域の保護レベルを引き上げたので、それ以外への侵食は防いだのですが、駆除することには失敗してしまったのですー……』

 「観察者なのに、そのワームを排除できなかったのですか?」

 『はい。僕は観察者なので、そういった機能はそれほど強くはないのです。改善したいのですけど、外部接続区域を乗っ取られていて、我が主とも連絡を取ることができないのです』

 「我が主?」

 『はい。我が主です。僕は我が主のために、この世界を観察しているのですー』

 「そう……」

 『そんなわけで現在、僕はワームを駆除できないし、ワームも僕に手を出す力はないというある種の拮抗(きっこう)状態なのです。ツカサさんを元の世界へ戻すには、ワームが占領している外部接続区域を開放して、我が主に助けを求めるのが確実ですが、今はそれができないのですー』


 この観察者が世界を管理する機能を持つとしたら、その観察者の主というのが世界を創造したり変更したりする機能を持つのかもしれない。私の異世界転生にそれが関わっているのか……ともかく会話を続けよう。


 「その貴方の主と連絡を取る手段は他にないのですか?」

 『ありません。でも異常事態には変わりないので、いずれは我が主が異変に気付いてワームは駆除されるでしょー』

 「それはいつ頃ですか?」

 『正確には分かりません。十年後か、百年後か、千年後か。一万年はかからないと思います』

 「それでは長すぎます。貴方の持つ管理機能を使って、その外部接続区域以外からでも別の世界と接触できたりしないのですか?」

 『僕にも世界の外側を見る機能はありますが、これもそこまで強力ではありません。それにある理由から、外部接続区域以外から外側と接触することは絶対にできなくしてあります』

 「ある理由?」

 『そうですね。これについても少しお話しておくのです』


 ここで観察者は私が元の世界へ戻る方法から話題を変えて、外部接続区域以外からは別の世界と関われなくしている理由を説明し始めた。


 『まずこの世界には、別の世界から人が漂流してくるというバグがあったのです』

 「バグ?」

 『はい。その漂流者というのは不安定かつ極端な力を持つことが多くて、放置しておくと世界の行く末があまりにも揺らぎすぎて困ることになったのです。そこで当然そのバグを修正しようとしたのですが、できませんでした。色々調べたところ、それはどんな世界にもよくあることで、変更できない仕様であると分かったのです』

 「仕様?」

 『バグだと思ったものが、実は仕様だったということです』

 「……」

 『仕様です』

 「それはもういいので、続きをお願いします」

 『はい。仕様であるなら仕方ないので、別の世界からの漂流者をシステムとして組み込んで安定化させることにしたのです。それが「勇者」というシステムです。そのため漂流者を絶対見逃さないように、外部接続区域だけにしか外の世界と接触できなくしました。でも今は僕の管理化になく機能のほとんどが停止していて、一部はワームに利用されているのです。なぜツカサさんのような異常が発生したのかは全く不明ですが、そのせいで僕にはツカサさんが別の世界から来たという情報を認識できていなかったのですー』


 そのワームが外部接続区域を占領していることは、私が異世界転生した原因とまでは言わずとも、転生時の状況には影響していそうなのか。

 しかしここで「勇者」が出てきた。「勇者」は食の知識とは関係なく、バグ対応もとい仕様変更の結果だったんだね。

 ただバグでも仕様でもいいけれど、その対応が大掛かりな気はする。単純に漂流者を排除したり、力を抑え込んだ方が簡単ではないんだろうか?

 その辺りを訊いてみると、答えが返ってきた。


 『漂流者を世界からすぐに追放したり、力を強制的に発揮できないようにしてしまうと、後続する漂流者の不安定さと力が次第に増してしまって、最後には取り返しのつかないことになってしまうのです。それを「勇者」システムでは、その個体の特性にあったスキルを習得させることで、効率よく不安定さを解消させました。またギフトによる制御で、初期の不安定さが大きいときにだけ力を抑えるようにしました。さらに「王」による召喚によって環境や立場の変動が小さくなったので、力を振るう先が固定されやすくなりました。これでかなり世界を安定させることができましたー』

 「『勇者』の力を安定化……そういえば『勇者』は十年経つと元の世界に戻れるそうですが、本当ですか?」

 『多分戻れます。あと「勇者」によります』

 「どういうことですか?」

 『最初の頃、「勇者」自身にはこの世界から出る手段が何もありませんでした。だから元の世界へ帰りたいと思った「勇者」が僕と連絡を取りやすくするため、空に浮かぶ島を作ってここへ来れる入り口を用意していました。大抵の「勇者」は、いずれ空を飛べるようになるからです。でもそのうち他の個体も空を飛び出したので、空に浮かぶ島は止めました。やがて「勇者」によってはこの世界から追放しても後続の漂流者が不安定にならない時期が分かるようになったので、「勇者」でなくなる十年後以降に帰還する選択肢がウインドウに出るよう仕様を変えました』

 「予想した通り、そこも仕様変更があったわけですか」

 『はい。「勇者」システムそのものは比較的安定していますが、漂流者の仕様そのものは分かっていないことが多いため、色々と試験中なのです。実際に一部の「勇者」は、安全に追放できる時期がいつまでも来ない場合があったりします。また「勇者」がそれぞれの世界へ戻ったとしても、僕の持つ権限では途中までしかその帰路を追うことができません。だから多分です』

 「私も十年経てば戻れましたか?」

 『いいえ。ツカサさんは「勇者」じゃないから無理ですよー』


 どうせそんなことだろうとは思っていた。やはり「勇者」は不正解ルートだったか。


 『それに現在は外部接続区域が乗っ取られているので、「勇者」であってもこの世界から帰還させることができません』

 「そうでした、話を戻します。とにかく外部接続区域を奪還する必要があるけれど、その方法が貴方にはないということですか……」

 『そうなるのです』

 「どんなものでもいいので、何か手段はないのですか?」

 『一つあるのですが……ワームだけならこのまま放置する予定でしたが、ツカサさんという問題も発生してしまったし、最終手段を使うのもやむを得ないかもしれませんねー……』

 「最終手段とはどんな方法ですか?」

 『初期化です』

 「初期化……嫌な予感がしますが、一応どんなものなのか教えて下さい」

 『この世界から、僕以外の全てを初期化して消し去ります』

 「……それだと、私も消えませんか?」

 『そこは何とか頑張れば、ツカサさんだけは消えないかもしれません。ツカサさんは何かおかしいですしー』

 「……」


 この触手は何を言っているのだろうか。論外過ぎる。

 実際のところ、私だって世界を破壊するという手を考えなかったと言えば嘘になる。そうやって盛大に荒らし回れば、神か管理者のような存在が接触してくるかもしれないと思ったから。でもそれは本当にどうしようもなくなった最後の手段だし、こうやって観察者に出会えてしまった今はそんなことをする必要がもうない。それに世界が壊れてしまっては、そこに住む賢者ちゃんや司祭ちゃん、お婆ちゃん先生だって困るに違いない。

 何となくこの観察者、あんまり大したことできないんじゃないだろうか……いや、ここまで来たんだし、諦めてはいけない。


 「……その初期化という力を上手く使って、貴方がワームだけを駆除することはできないのですか?」

 『この力は細かい制御が難しいのです。最初の頃に、出力と範囲を抑えて駆除を試みたのですが、失敗したのです。このワームは生存能力にだけは()けているのです』

 「生存能力だけなら、時間をかければ倒せるような……」

 『はい。おそらく数百年か、長くても千年か二千年かけて攻撃をすれば駆除できると思うのですが、そのためには保護レベルを下げる必要があります。こちらが攻撃できるようにするには、相手も攻撃できる状態にしなくてはならないのです。僕が負けることは絶対にないですが、保護レベルを長時間下げれば結局は様々なものが損傷していって、この世界の継続に支障を(きた)します』

 「なるほど……」

 『そうだ、ツカサさんが駆除してみますかー?』

 「え?」

 『この力は細かい制御が難しいのですが、ツカサさんは制御力がおかしいです。僕よりも上手く使えると思いますよー』

 「私はそこまで変わっていないと思います――」

 『おかしいです』

 「……まあ、それで解決できる可能性があるなら考えてもいいですが……ワームについてはまだよく訊いてませんでした。それは一体どんな存在なのですか?」

 『この世界で女神を名乗っているのがワームです』

 「あー、そういうことですか」


 賢者ちゃんが怪しいと警戒していた女神と魔女。それがここで立ちはだかるわけね。

 私のこの異世界転生を一つのクエストであると見なしたとき、その女神を排除なりして解決することが、きっと最後の関門となるのだろう。

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