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第七話『招かれざる客』

「魔法少女にならないだって?どうしてさ」


アスカは意外そうに質問した。


「お前は一番大事なことを忘れている」

「大事なこと?ああ報酬のことかな。さっき言ったある人物に言って頼めば必要経費や物資くらいは出してくれるけど、給料と呼べるほどの額は貰えないかな」


「そうじゃない。アタシの気持ちの問題だ」

「気持ち?ああ、魔法少女の格好に変身するのが恥ずかしいのかな。確かに君が変身したらさっき見せたレオナ以上にイタい姿になることは間違いないだろうね」


思い出し笑いをするアスカにレオナが黙って近づき、表情1つ変えずに腹にパンチを叩き込んだ。


「ぶはぁっ!」


アスカは鎖に繋がれたまま抵抗できず苦しそうな声を上げた。

でも今のはお前が悪いぞ。


「あ、あのねぇ、僕、リーダーなんだよ。リーダーの威厳ってものがあるから、人前でこういう行動は慎んでくれるかな。もしもーし、聞いてる?」

「そうだ、威厳だ」

「いや、セイラに言ったんじゃなくて…」

「アタシの暴走族としての威厳のことだ」


呆気にとられているアスカを横目に続けた。


「お前と契約するってことは、アタシがお前の下に付けってことだろ。自分より弱い奴に従うなんざ、このアタシの名前に傷がつくような真似はしたくねぇ」

「ああ、そういうことね。でもさ、僕らが弱いって、まだ本気でそんなこと言ってるのかい」

「なんだと」


さっきまでヘラヘラしていたアスカの表情が引き締まった。


「いいかい、今この場には魔法少女が3人いる。さっき説明しなかったけど変身すれば身体能力が多少強化される。そうなれば君相手だろうとこちらにも勝機は十分ある。君のためにも一度はっきりさせておこうか。この場においてどちらが優位かってことを」

「ほお、魔法少女の力ってのは正義のためじゃなく、私怨のために使っていいものなのか」

「これは私怨じゃあない、ユウウツバエをこの世から殲滅するための第一歩だ。さあレオナ、もう一度変身してセイラを倒すんだ、やれ」

「嫌よ」

「よし行け、ってあれ、どうしたんだよ」

「…もう一度殴ってあげようかしら」

「ああ、お願いするよ。今度はもっと重いのを一発欲しいね」


レオナは呆れてアスカの視界に入らないよう遠ざかった。


「じゃあカザリ、君でいいから相手してやってくれないか?」

「アタイは無理よ、お腹空いてやる気出ないもん」

「じゃあ、ツバキはどう?」

「カザリさんがやらないなら私も」

「ったく、なんだよ君たち。折角僕がやる気出そうとしてるのに。僕ってそんなに人望無い?仕方ない、ヒメ、変身だ」


しかしヒメの返事が聞こえなかった。代わりにツバキが口を開いた。


「リーダー、ヒメさんは魔法少女の契約をしていらっしゃらないですよね」

「ああ、そうだったそうだった。まあいいや、ちょうどいいからパパパっと仮契約しよう。これが仮契約の良いところだよね、必要に迫られたらその場ですぐに契約を結べる」

「そんな簡単に契約してしまっていいものではありません。安易に結ぶと仮契約であっても苦労しますよ。ヒメさんもなんとか反論してください」


ツバキがヒメがいた方を振り返った。しかしそこにヒメの姿は無かった。


「ヒメさん?どこにお隠れになったのですか」


ツバキが倉庫の中を探し回った。ドラム缶や鉄骨が積まれているが人が隠れられるようなスペースは限られている。隈なく探したが結局見つからなかったようだ。そもそも隠れん坊を楽しむ年頃でも無いだろうに。


「見つけた!」


声の主はカザリだった。ドラム缶の陰に何かを発見したようだ。


「そんなところにいたのですかヒメさん。真剣な話の最中に遊ぶのはやめてください」

「ん、何言ってんのツバキ。アタイが見つけたのこれよ」


カザリが見せつけたのはコンビニの焼きそばパンだった。


「一昨日買ったやつをここに隠してたの忘れてたよ。いやぁ、うっかりだわ。げっ、賞味期限切れてるじゃん!火通せば食えるかなぁ」

「はあ…。それにしても、外に出かけられたのでしょうか。迷子になってなければ良いのですが」


その時だった。ドスン、ドスン、という衝撃音がしたかと思うと、アタシが入ったのと別の扉を蹴破って何十人もの男たちが乱入してきた。


「こんな山の中に隠れていたとは。どうりで見つからないわけですよ、ねぇ兄貴」

「ああ。情報提供者に感謝しねぇとな」


アタシたちがいるのもお構いなしに倉庫に全員がわらわらと入って来た。


「何だい君たち。ここは僕達の愛の巣、もとい集会所だよ。勝手に入らないでくれないか」

「おうおう、クソビッチ共!俺たちは百鬼蛮行ひゃっきばんこうだ!んで俺はリーダーの坂本大悟郎さかもとだいごろう様だ。昼間の礼を返しに来た!黙って受け取んな」

「兄貴、今日こそこいつらをやっちまいましょうよ」

「ああ。昼間はこてんぱんにやられたが、今は人数が少ねぇみたいだからな。…ん、見慣れない顔が1人いるが、新入りか?」


兄貴と呼ばれた男がアタシの顔をまじまじと見つめた。


「ふん、男が女の顔ジロジロ見つめるときは、ナンパか芸術家だけだって相場は決まってんだ。てめぇじゃアタシと釣り合わないから、愉快な格好の芸術家で決まりだな」

「なんだと!?てめぇ、新入りのくせに舐めた口聞いてんじゃねえぞ!」

「新入りだと?お前、見たところまだ高校生ってところだろ。アタシにとっちゃ、てめぇの方こそ暴走族の世界の新入りなんだよ!ほら、新入りは先輩に挨拶しろよ」

「ほお、随分なご挨拶じゃねぇか。てめぇらの族じゃ新入りの躾もろくにやってないらしいな。そもそも俺様は23歳だ、お前のほうが年下なんじゃないか」

「…はあ、これじゃ埒が明かないわね」


アタシと男の罵りあいを黙って見ていたレオナが口を開いた。


「どいてセイラ。ちょうどイライラしてたとこだから、私にやらせて」

「おっと待ちな。俺たちだって無策でここに来たわけじゃねぇ。この人数で負けるはず無いが、万が一ってことがあるからな。人質を取らせてもらった」

「人質?」

「ああそうだ。連れてこい」


坂本が部下に指示すると後ろにいた奴が女を連れて来た。


「ごめんなさい、外の風に当たろうと散歩していたら捕まってしまいました!」


情けない声で叫んだのはヒメだった。その瞳から悲愴感が溢れている。

やはりというか、期待を裏切らないやつだよな、ヒメって。



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