魔道士の塔。
右の侍女さんは白いエプロンドレス。左の侍女さんは黒のシックな侍女服。
なんで一緒じゃ無いのかなってそんなことを考えながら馬車のなかでゴトゴト揺られていた。
目の前に座るジルベール殿下は長いまつ毛がふわさって揺れる。もうほんとう耽美な感じの美少年。
何故かずっとあたしを見つめて。
ちょっとドキドキ、ドキドキ、って心臓があぶる。
もう本当に鼓動が早くなってどうかなっちゃうんじゃ無いかってくらいでふにゃぁ。
目の前の人は王子様、目の前の人は王子様。
あたしとは次元の違う偉い人なの。
ダメダメだめ。意識しちゃだめ。
身分違いなんだからそんな風に意識しちゃだめ。
そう呪文のように頭の中でぐるぐると考えているうちに馬車が止まった。
どうやら目的地についたみたい?
王宮のエントランスに続く馬車回しに到着した漆黒の馬車。
ドアが開くと地面にはさっとベルベットの真紅の絨毯がひかれて、そこをしずしずと降りる侍女さん。
あたしもその彼女のエスコートでおろして貰った、というか降ろされた。
待機していたらしい大勢の侍従さんが囲む中あたしは王子についてエントランスを進んでいく。
あたしの両脇は今でもがっしり二人の侍女さんが固めている。
逃亡防止?
だよねこれは。
さっさっと背筋を伸ばしてカッコよく歩く王子の背中を眺めながら、あたしはこっそりため息をついた。
じろっと白い方の侍女さんに睨まれた気がしたけどもうしょうがないよね?
長い渡り廊下を進むうちに、目の前に大きな背の高い建物が見えてきた。
ああ、これ、魔道士の塔だ。
遠目に見るのとはまた印象が違う。
その外壁や意匠にはでこぼことした紋様が至るところに刻まれ、魔術的な何かが施されていることがわかる。
馬車の中でもそうだったのだもの。
転移の防止や攻撃の無効化はもちろん、それ以外にももっと高度な術式が組み込まれているに違いない。そう感じた。
入り口に佇む衛士が王子の姿を見かけるなり敬礼し待機する。
それをすり抜けるように進むあたしたち。
入り口のゲートに差し掛かったところで一旦止まり、ジルベール殿下が振り向いた。
「ここでは魔力紋を登録する必要があるのだけれど、構わないか?」
へ?
構うも構わないも無いよね?
図書館のゲートにあったのと同じ魔力紋ゲートだし。
「学校の図書館と同じ、ですよね?」
「ああ、そうか。そうだな。一緒だ」
にゅう。
ジルベール殿下はご自分で図書館にはいかれないのかな?
だとしたらわかるけど。
「魔力紋を登録するということは君は常に国家の監視下に置かれるということと等しくなる。警護が必要な貴族では当たり前のことなのだが平民の中にはそうしたことを知らない者もいるからな。聞いてみたのだ」
はう。
そっか。そうなのか。
そこまでは考えていなかった。
そうか魔力紋ってそういう使い方もあるのか。
街のどこかに魔力紋の判別装置があれば、本人がどこにいるのかも特定できる?
そういうことなのかな!?
それはちょっと怖いけど。
「ではここに手を当ててくれ」
侍従さんたちの事前準備が終わったのかな。
あたしは言われるまま、操作板の登録用のクリスタルの上に右手の手のひらをのせた。




