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光の聖女。

 きらきらした王子様のように見える彼、エドワード・テンセントくん。同学年の結構人気者の彼に手を差し伸ばされ一瞬躊躇する。


 あたしがこの手を取っても良いのだろうか? って。


 困った顔をして迷っていると、案の定背後から女生徒たちの声が聞こえてくる。


「あらあら平民風情がエドワード様の気を引こうとわざと転んだのかしら」

「エドワード様はお優しいから。それにつけこもうとする算段ですわ」

「まあいやらしい。だから身分の低いものは」


 嫌味ったらしく聞こえてくるそんな声にあたしは差し出された手を取ろうと伸ばしかけた右手を引っ込めて。

「ごめんなさいエドワードさま。私一人で立てますから」

 とそういうとよっこらと床に手をついてなんとか立ち上がりおしりをはたいた。


 軽く会釈をして急いでその場を離れる。もう少し人が少なくなったらもう一度見にこよう。とてもじゃないけどあたしにはこの人混みをかき分け掲示を見る根性はないかも。そう思い。


 トイレに駆け込んで心を落ち着かせ。手を洗った。まあ別に悔しいとかそこまで思うわけでもなかったけど、それでもやるせない気持ちにはなる。あたしだってお父様が生きていらっしゃったら、あんなこと言われないのに、って。



 あたしのお母様はかつて光の聖女と呼ばれた転生者で、幾度となくこの世界を救った勇者パーティの一人として活躍したのだという。

 でも。

 その活躍は歴史にも人々の記憶にも残ってはいない。

 最後の戦いで滅びゆく運命だったこの世界を救うため命をかけたお母様の大魔法によって、混沌から再生したこの世界。

 魔王による侵略も混沌の闇の世界も全ては無かったことになり、人々の記憶から消え去った。

 この世界そのものがただただ幸せな世界として再生した結果、お母様が光の聖女だったという事実さえあやふやな御伽噺みたいな存在に成り下がったのだという。

「それでよかったのよ」と、お母様は言う。

 自分が光の聖女だのなんだのと崇め奉られる世界はお母様は望まなかったのだ。

 お父様と結ばれ、ただただ幸せな人生を送りたい、そう望んだのはお母様自身なのだと。


 正直あたしも子供の頃御伽噺のように聞かされるお母様のお話を、完全に信じてはいなかった。

 あたしの身に力が発動するまでは、そんな夢みたいな話ってただただ夢見物語だって、そんな風に思っていたのだ。



「あ、いたいたルリア。掲示板見た? 一緒のクラスだったわ。また一年間よろしくね」


「ああニーア。ありがとう。また一緒だなんて嬉しいわ」


 あたしの数少ない友人の一人、ニーア・キャンベル。そばかすのかわいい彼女は商家の娘なんだけど性格が大人しくて意地悪も言わない良い子だ。ほんとまた一年同じクラスだなんて嬉しいな。


 そろそろ予鈴が鳴る時間。あたしとニーアは連れ立って教室に急いだ。

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