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第97話 祝い事

交易都市を出て2週間経った。結構時間がかかっているのはその距離が理由じゃない。実にわかりやすく王都から距離が離れるほど道の状態が悪くなるからだ。


竜馬のストレスと御者でもあるシャロンさんとレリクさんの疲労を考え、余裕のある日程にしてあるのでさほど疲労も感じなかった。


シャロンさんの実家のあるロレント伯爵領に入りしばらく進むと、オレの実家と瓜二つの建物が見えて来た。並んで建ってたら建売じゃないか。一般貴族用のモデルハウスとかあったりして。


明らかに違いは蔵があることくらいだ。


「この地域では冬になると積雪がかなりあるので食料や薪を保管しておく必要があって、それであちこちに蔵があるのです」


興味深く蔵を見ているとシャロンさんが教えてくれた。


シャロンさんの実家に到着すると、時代劇の殿様か!と思うほど丁重に扱われた。


「普通にお話しするわけにはいきませんか?」


「いえ。これでも足りないくらいです」


そこにはなぜか領主であるロレント伯爵もいる。

なぜだ?ゴマの擦り方も半端ない。


と言うか、本題(シャロンさんとレリクさんの結婚の件)に関係ない俺たちが二人が使うべき時間を無駄にするわけにはいかない。さっさと客室に案内してもらい引き籠る事にする。


客室に入ると間もなく扉がノックされた。ドアを開けるとシャロンさんの両親だ。


「皆様、本日は娘の為にこんな遠くまでご足労頂き感謝します」


「いえ、シャロンさんにはお世話になっていますから気にしないでください。それよりも、お話があるんですよね?」


さっき挨拶をしたばかりなのに部屋まで来たのは、何もただ礼を言うためじゃないだろう。


「はい。実は、レリク殿がどんな方か教えて頂ければと。娘が家を出てから家ではこの手の話は一度もして無かったものですから。娘が決めたことなので反対しても最後は必ず結婚するでしょう」


と軽く肩をすくめながら


「私たちの家族になるのだから良好な関係を築きたい。なので私たちより長く一緒に過ごしたあなた方からお話を聞いておきたいのです」


おおっ。そんな話だったらいくらでも援護射撃するよ。それから一番縁の深いジュリエッタがレリクさんの事を饒舌に語り出した。盛ってはいないがあんなことそんなこと…いいのだろうかと思うくらい全部…


最後に「レリクさんは僕たちの頼れる兄貴のような存在です。シャロンさんがレリクさんを好きになったのは長い付き合いの中でゆっくり、徐々になのかなと思います。だからシャロンさんのご家族ならきっとうまくいきます。良い息子さんになりますよ」と締めくくった。


すると扉の外からむせび泣く声が聞こえた。


ドアを開けると泣いているレリクさんの背中をシャロンさんがさすっていた。盗み聞きしてたんかよ!!


「随分長い時間戻らないので、ロレント伯爵から見てくるように言われたのさ。盗み聞きするつもりは無かったがついつい聞き込んでしまった。すまなかったな」


シャロンさん。あなたも兄貴のようにカッコいいよ。イケメン過ぎるぜ。


レリスクさんが感極まって抱きついてきた。という事はなかったが「そんな風に思っていてくれたなんて、お仕え出来て幸せです」と泣きながら手を握られた。


「お幸せに」そう言葉を掛けるのが精一杯だったよ。


そんな訳で、俺たちはロレント伯爵の相手をする事になった。むこうはもう心配ないかな。


「からの駆け落ちなんてのもドラマチックですわね」


やめろマイア。教科書読みすぎだ。みなさーん、ここに頭のおかしい10歳児がいますよー。カトリーヌ様のところで見せた凛々しい王族はどこへ行った?

ジュリエッタも言ってたろ?そこはスーパー切り札「陛下」カードを切るところだよ…て、んな話があるか!

違う、そうじゃない。全てうまくいくに決まってるだろ!


気を取り直してロレント伯爵に索敵の魔石と手紙を預け簡単な経緯と概要を説明する。


程なくレリクさんが戻ってくるとこっちに向かってピースサイン。


良かった。あの、機会があればシャロンさんのいる王都にと、涙ぐましく頑張っていたことを思い出し、報われて本当に良かったと思う。


2週間ぶりの歓迎会(むしろ祝賀会)が始まると、最初にレリクさんから報告があった。


シャロンさんとレリクさんは、この旅が終わったら王都の教会で式を挙げる事に決めたようだ。


「俺たちに気を遣わないでください。早く二人の式見たいです」と謝ると、シャロンさんはそれはそれ、俺たちの護衛となったのがきっかけだから充分さと笑い飛ばす。

やっぱりイケメンだ。でも、それはいろんな場面でレリクさんがシャロンさんとの縁が切れないよう頑張っていたからだよ。それも二人らしくていいけどね。


それからはマイアの独断場だ「二人の出会いのきっかけは?」「プロポーズはどこで?」と、あれやこれや芸能レポーターばりの10歳。まあ「現場のマイアです」と言い始めたら流石に注意しよう。


冗談はさておき、周りは楽しげに祝い酒を煽っている大人ばかり。こんな祝いの時ぐらい飲ませろよ。


「お祝いだしお酒飲んでもいいよね」


「ダメよ。神託の儀が終わるまでは。それでも12歳で飲んでもいいのはハチミツ酒だけよ」


ハチミツ酒…酔えるのかな…まあ飲めればそれでもいい。あと1年半の辛抱か。普通に飲酒が解禁されのは16歳らしいけどね。日本じゃ20歳からだから8年早く飲めるだけでも日本よりマシだ。


それにしてもカパカパ飲みやがって。


次の日、二日酔いのロベルト伯爵が、ヘロヘロでかわいそうなのでヒールをかけようとすると、マイアに止められた。


宴会の終盤でロベルト伯爵が上半身裸で騒いだ事が怒りに触れたらしい。めでたい席で羽目外したっていいじゃない。人間だもの。


ヒールじゃなければ自然治癒かポーションなんだけど、二日酔いにポーションはヤバい。


青汁なんてかわいいもの。例えるならパセリを濃縮したくらい苦い!俺なら二日酔いで飲んだら吐く自信がある。前に陛下が魔法で治して欲しかったのはポーション飲みたくなかったからだと思う。


とは言ってもマイアの機嫌をこれ以上損ねると旅の道中差し障りがあるので、二日酔いの大人を無視して迷宮都市ラロッカへと向かう。


「ラロッカでは1日くらい迷宮探索に潜れるといいね」


言ったとたんシャロンさんがニヤリと笑う。それを見て思い出した。失言だ。俺のバカ!


「丁度いい機会です。前に話をした気配察知を是非ゲットしましょう」


「いやいやシャロンさん。あれはBランク迷宮でやるものでしょう?」


「あくまでも目安ですよ、め・や・す。Cランク迷宮でもら下層ならばBランク迷宮の上層階と魔物の出現する条件は一緒なので大丈夫」


「いやいやいやいや。だっ駄目だよ?やらないですから。必要ないし。時間が限られてるし。なっ!二人ともそう思うだろ?」


「ヴェルならいけるんじゃない?勇者だし。男の子だもん」「がんばってください。イザと言う時は私たちがフォローしますから!」


「最悪だな」


なんだかんだ言って、もうやらせる気いっぱいのシャロンさんから、次の迷宮でやれと言われる気はしていた。でも、もっと後でいいじゃん。迷宮都市なんだから迷宮を楽しませてくれよ。


それから竜車に乗ること半日。夕方には迷宮都市ラロッカが見えて来た。

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