第95話 薬草とポーション
オークションは月に一度開かれる。と言うことは、着いたら終わったばかりってことも考えられるのだけど、なんと今月は明日開催だそうだ。うひゃひゃひゃ。ラッキー。
いやらしい笑い方のが顔に出たみたい。集まる視線が痛い。
客室に通されると、まず窓からだだっ広い農園のような庭を見てみる。庭師が木のバケツと杓子を使って水を撒いていた。
メイドが飲み物を持って入ってきたのでいろいろ聞いてみた。
「それにしても随分と広く綺麗な庭ですね。侯爵さまは植物鑑賞がご趣味なのですか?」
「いえ、この庭に植えられている植物は鑑賞用ではなく、ポーションなどの薬品の素材となるハーブや薬草を育てているのです。ここから見えるあの建物が薬剤調合施設となります」
それからも話を聞いていると、どうやらカトリーヌ様が薬師のスキルを持っているのだとか。興味が湧くのは好奇心と言うより、もう趣味のレベルだ。ぜひ話を聞いてみたい。
しばらく経つと昼食の時間だ。席に着くとカトリーヌ様がやってきて「ご一緒にさせて頂いてよろしいでしょうか?」と声を掛けられる。
緊張はするが断る理由がない。
「ぜひご一緒させてください。作法など至らないところは、目をつぶっていただけるとありがたいです」
「本当に子供だとは思えない言動ね。そんなに背伸びしなくてもいいのよ。子供は子供らしくしている方が可愛げがあるってもんでしょ。気楽に普段どおりに話すといいわ」
うん。なんだか久しぶりに真っ当な大人の意見を聞いたような気がする。普通こうだよな。まあ今さら無邪気な子供を演じるのも嘘くさいから素でいくけど。
「そう言っていただけると気が楽になります」
俺がそういうとクスっと笑う。いや、オトナの余裕だ。カッコいいなあ。陛下も側妃様のこういうところに惚れたんかね。双子だし。
食事が順に運ばれると「どうこの屋敷の庭は?一風変わっているけど綺麗でしょ?」まるでこっちが興味ありありなのを見透かしたような会話だ。
この庭で薬品の材料が育てられていると聞いたことを伝え、薬品の製作方法に興味があると答えると「そう?それじゃ昼食のあと案内してあげるわ」と花が咲いたような笑顔を向けてくる。
きっとメイドさんから「興味があるみたいです」みたいな報告でもあったんだろうな。でなけりゃいくらなんでもピンポイントでそこ聞いてこないと思うんだ。
それから薬草の説明を受けるために庭に出る。
薬草が植えられている庭に入ると、畝には均等に植えられた薬草がずらりと並んでいる。抜けが無いのは苗が別管理されているからだろう。
「なぜ、盛り土されたところに、薬草が均等に植えられているのか分かるかしら?」
カトリーヌ様は三人に話しかけている風だけど視線は俺に向いている。もしかして試されてるのかな?ま、いろいろ噂は伝わっているようだから自重しないでガチで答えるよ。
「この形の盛り土は畝と言って水はけを良くするために盛ってあります。薬草が均等に植えられているのは日光をムラ無く当てるためですね。見た感じおそらく直に種を撒くのではなく、発芽するまで個別で育てて苗として植えていると思うのですが、鳥に種を食べられるリスクを減らし品質を揃えるのにも効果的でしょう。極めて効率的な栽培方法だと思います。こんなところでしょうか?」
そう答えると、カトリーヌ様は目を丸くしている。マイアが補足するように
「ああ、この前ヴェルが教えてくれた、光合成と土の栄養が偏らないよう間引きをするって話は、こういうことなんですね。実際に栽培しているところを目の当たりにするとすんなり入ってきます」
「いやだわ。噂以上の子どもたちね。まさかここまでの答えが返ってくるとは思ってなかったわ。その分だと私の知らない事まで知っているようね。詳しく聞いてもいいかしら?」
どうやら間違ってなかったみたいだ。ただこの手の話は人を選ばないといけない気もする。カトリーヌ様の場合は、俺たちを試すと言うか期待されていたと言うか望んだ答えだったみたいで結果オーライだけど。
この国は農業中心とした文化。地球で言う漢方の役割をしている薬草となれば、人々の生活に直結する事になる。役に立つなら俺の知識は活かして欲しい。
もちろん、コレラのときみたいに緊急事態だったら伝えない手はないけど、それでも人によってはガキが賢しげにみたいに受け取られるとめんどくさい。そもそも知識の前提も違うわけだし。
(マイア、こういった異世界での知識と言うのは、どの程度伝えるべきだと思う?こっちの常識の延長ならいいんだけど、コレラの時みたいにふり構わずやらかして、ブレイクスルーを起こすような知識はどうなんだろうと思って)
(そこはヴェルの判断にお任せするしかありません。ただ、個人で言うなら私もヴェルの知識によってコレラから救われた一人ですし、この国の王女の立場として言うならば、そこは是非とも国のため、世界のために広めていただきたいと思っています)
(私もマイアに同感よ。それで儲けようと言うわけじゃないんだから、感謝されても恨まれる事はないんじゃないかな。ま、心配しなくていいわ。もし仮にそうなっても陛下もいらっしゃるしね。ね、マイア。こんなこと言うのはどうかと思うけど、マイアの命を救った時点で陛下もヴェルに頭が上がらないはずよ。おほほほ)
悪い顔するな!そうね、陛下ね。二人とも随分なリアリストだな。ジュリエッタはともかくマイアはホントに10歳か?腐女子モードと随分キャラが変わるものだ。
よし。ケースバイケースってことで。その時が来たら考えよう。理由のある先送りは間違っているわけじゃないからな。言い訳じゃないよ?
それから回復や解毒などに使われる薬草の説明を受けながら、窓から見えた薬剤調合施設に入る。
1階はガラス張りで温度調整がしてあるとのこと。苗床は見当たらないのでビニールハウスに近いイメージだ。
ガラスの値段が異常に高いこの世界で全面ガラスを使っているのを見る限り侯爵が力を入れていることが窺える。
温室から2階へ上がったとたん、何とも言えない臭いが鼻をつく。
あっちこっちで研究者と助手?が数人固まって薬草が入った寸胴を温めながら攪拌している姿が見受けられる。研究室とか実験室と言う言葉がぴったりだ。
「ここは、庭で取れた薬草を使い、ポーションや解毒薬が作られている場所です」
と、本当に簡単に説明をされた。
カトリーヌ様に許可をもらってビンに入った完成品のポーションを鑑定してみる。
ポーション100ml
効果はヒール同等クラス
価格 小金貨1枚
ヒール1回で1万か。高いのか安いのかよく分からんが、回復魔法が使えるのが、聖属性持ちだけだと考えると良心的な価格なのかな。
製作手順を聞くと、薬草と井戸水を混ぜ合わせ魔力を流しながら煮詰めるのだとか。薬師のスキルを持っている者が作った物は100mlでヒールと同じ効果を得るそうだ。
ちなみに、薬師のスキルを持っていない者が作ると、同じ効果を出すのに倍の材料が必要なのだとか。
一応作ることはできるみたいね。ちなみに、ここには薬師のスキル持ちが5人と、鑑定持ちも1人いるそうだ。
鑑定スキルは血筋に依存することが多いレアスキルだけど、それでも血筋に依存せずに発現する者もごく少数だけどいるみたい。ただスキルレベルは一定では無いみたいだ。
鑑定スキルは勇者には必ず発現するそうで、ついでに言うと光属性、闇属性、重力魔法が勇者だけに発現するスキルと言うのは間違いないらしい。
それにしても鑑定一つで全然違うもんな。よくチートスキルと言われていたことも頷ける。
オークションで偽物をつかまされることなんて絶対ないだろうし、毒殺しようとしてもその前に気付いちゃうだろう。




