第93話 旅を楽しむ
出発した俺たちは一路交易都市セイリヤ侯爵領を目指し北へ向かう。
念のため交易都市の性質と概要を聞くと、文字どおり各都市の交通を結ぶ商業都市だとか。いわゆるハブ都市だな。領主が上級貴族だから、さぞかし賑わっているんだろう。到着が楽しみだ。
街道は整備されていて道中は快適だ。ただ、風景を楽しもうと何度も窓に視線を向けてもひたすら穀倉地で同じところをぐるぐる走っているようで退屈この上ない。どっちを見ても地平線なのはそれはそれで雄大ではあるんだけど世界が空の青、小麦?の黄色、道の茶色と三色しか無くなってしまったかのようだ。
風景を諦め二人にひらがなを教えようと備忘録と変換表を出してみたが、竜車の中でこれをやるのは思ってた以上にやりづらい。すぐにあきらめた。
なので、読み聞かせる様に文字を指でなぞる形で、二人に説明をしながら読む事にした。
開いたページは【自然災害の対応について】日本にいた時に経験した阪神淡路や東日本の大震災、御嶽山や白根山の噴火の記録や記事をまとめ、こっちの世界でも起きそうな他の災害も想定しながら考察を加えたものだった。
「これでいい?それとも他のにする?」そう聞くと二人は「その題名がすごく気になります」と興味津々だ。
まず、地震のメカニズムを図を使って説明をする。それから防災訓練からの避難経路の策定や災害時のトリアージの採用など、いざ起こってしまったときに施政者としてどう取り組むかなどは詳しく説明をした。
(ここまでで、質問や意見はあるかい?)
(とても参考になりました。しかし、地震の主な原因は火山の噴火や岩盤のずれですか~。この絵で何となくは想像はつきますが、異世界ではそこまで詳しく研究がなれ解明されているのですね)
(この世界には地震は無いんだっけ?そう言えば、オレがこの世界に転移してから一度も地震無いかも)
(地域性もあるかも知れません。北方では地震は珍しくないそうです。ただ、この国だけで言えば家が潰れる程の大きな地震はこの何十年単位で観測されていません)
(私の前世の記憶では他国で迷宮が生まれる時に大きな地震が起こったわ)
(オレ的にはそっちのメカニズムが気になるよ)
例えばこの世界にもダイヤモンドはあるが、俺の知ってるダイヤモンドは、炭素が地下200kmほどで相当な高温下で高い圧力を加えられ、それがマグマと一緒に一気に地表近くまで押し上げられて初めてダイヤモンドになると言う自然鉱物のはずだ。
なんというか、そういった地球でのセオリーを無視して同じダイヤモンドが存在している。
地球ではどうやってできた、起きたを解明されていても、それが当てはまらないところで同じ物が存在し、同じことが起こる。まるで結果だけを模倣したかのようだ。
まあこの世界にも温泉があるから火山の噴火はあるんだろう。それにしても迷宮が出来る時に地震なんてミステリーじゃないか。興味はそそるが因果関係をスルーしている以上調べようもないわな。
対策を読み終わると「参考になったわ。お父様にも提案してみていいかしら」と一旦終わらせてオレの作ったトランプで楽しむ事にした。
やってみると二人は大喜び。最初にババぬきを覚えると、シャロンさんやレリクさんも興味深そうにこっちをチラチラ見るので適度に交代する。
「これは売れるな~」と言った言葉が聞こえるけど面倒くさいから教えるつもりも売るつもりはない。
旅を進めながら、意外な楽しみとなったのは宿場村や町の屋台でのジャンクフードだった。もちろん知ってはいたけど期待以上とは思わなくてね。
昔々、ジュリエッタは俺とのデートで食べたことがあるけど、マイアは食べた事がない。果たして想像どおりの反応を示した。
「市井の民はこんなおいしい物を食べていたのですか。誰も教えてくれないなんてひどいです。人生損した気分です」と、10年しか人生を過ごしていないマイアが笑顔で食べまくる。
油っぽく、味が濃い食べ物ほど美味しく感じるのはどの世界でも共通だな。体に悪い?それがどうした。俺たちはドッグの結果を見てため息を吐いてる中年じゃなく超健康優良児なんだから。そう。美味けりゃ正義なのだよ。
「ほれ、口のまわりにタレがついてるぞ。慌てなくても誰も盗らないから。まず落ち着け」
ポケットからハンカチを出して口を拭いてやると、マイアの顔が耳までまっかっかにして照れている。
ジャンクフードを気に入ってくれたのはいいのだが、お姫様がこんな姿を見せるのはあんまりだ。
ジュリエッタは「それ、無意識にやってるから始末に負えないのよね。私もそれぐらい甘やかして欲しいものだわ」とすねている。
それもよくわからん。むしろ子供扱いするなと怒るところじゃないの?だって、完全にうんと年下の姪っ子気分だったんだが?
その後も休憩する度に、ご当地グルメに舌鼓を打つ。美味しかった物はガンガン買ってアイテムボックスに入れといた。
竜車の中ではトランプで盛り上がり、他愛もない会話を楽しみながら天候にも恵まれ、そのまま3日間の旅程を楽んだ。
さあロディウス侯爵領、交易都市セイリヤが見えてきたぞ。




