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第91話 オレの部屋が…

自分の部屋に入ると呆然として言葉が出ない。

『なんでこうなった…』

そう。自分の部屋が…俺の部屋が俺の部屋じゃなくなってた。


壁は一部取り壊され、本棚が備え付けになっていた。広くなった部屋に置かれたベッドはシングルからキングサイズに。家具も一新されている。


言われてみれば母が何か言っていたけど、すっかり聞き流していたので覚えてない。


俺の幼き日の思い出は残滓も残さぬまま消えていた。もう安息の場はトイレしかないのか。思っていた以上に(以前の)部屋に愛着があったらしい。


空虚な気持ちで落胆していると、ジュリエッタとマイアがベッドに腰を下ろす。


「へ~。これがヴェルの育った部屋なのね。広いし本が沢山あっていい部屋ですね」


「いや。この部屋、本当ならここに壁があったんだ。本棚はこっちに」


「義母様はホントに変えてしまったんですね…」


元の部屋を知るジュリエッタも部屋の変わりように表現のしようのない複雑な顔をしていて、マイアは部屋を見渡している。


するとマイアが立ち上がり本棚に手を伸ばす。


並べられた本は、異国の文字で書かれた英雄譚や子供向けの本ばかり。


オレが異国の文字で書かれた本を読めたのは、特に言語が理解できるようなスキルがあったからじゃない。単純に日本に転生する前のヴェルが習得していた言語だと分かったのはつい最近だ。


一応、父と母に異国の文字は読めるのか聞くとさっぱり読めないとのこと。父が冒険者をやっていた時に異国の仲間に貰った物ばかりだってさ。


ま、結果的にそれが良かったんだろう。俺がこれまで披露した日本での知識は異国の本から得た知識だと言い続けてきたんだし。


マイアは綴り紐で縛ってあるだけの、オレの書いた備忘録を取り出した。


『ピンポイントでそれを取るか』マイアは何とも言えない複雑な表情を浮かべる。


「これは、どこの国の文字ですか?大概色々な国の書物を見ましたが見た事のない文字です」


(残念ながら、それはこの世界の文字じゃないよ。異世界の文字で書いた俺のメモだよ)


ここからは誰かに聞かれちゃまずいので念話に切り替える。


(それにしても、随分と大量に書いたわね)


(そりゃ3歳からだからな。この世界にない知識はそうやって書き留めておかないと、いざって言う時に忘れてたりあやふやだったりして使えないからね)


漢字でもそうだが、どれだけ一生懸命覚えても、使わないと自然と忘れていくものである。


当時、記憶が上書きされるのを恐れていたオレはひたすら、物理、化学、冷害対策や地震の仕組みなどの自然災害、ものづくりの知識など、異世界で役立ちそうな知識をとにかく書けるだけ書き残した。


(それで、見た事のない文字なのですね)


(そうだよ。両親は落書きと思ってくれたけど、捨てられていなかったから助かったよ)


(どんな内容が書いてあるのか興味をそそります。旅の最中に空いた時間に読んでもいいですか?)


(いいけどってどうやって読むの?)


(空いた時間に異世界の文字を教えて下さい。私には瞬間記憶と言うスキルがありますから覚えるには時間が掛からないかと)


ああそうだ。マイアにはこっち系のチートスキルがあったな。


うーん、ひらがな、カタカナ、英数字は一応昔作った変換表を使えばなんとかなるだろうけど…でも漢字は無理だな。

そもそも一つの文字がいくつもの読み方といくつもの意味に化けるのでどう教えたものかイメージわかない。地球でさえ、漢字があるから日本語は難しい言語だと言われていたのに。


PCがあるわけじゃないし、いちいち置き換えるとなると時間も掛かるうえに、全部教えるとなると中々骨が折れそうだ。


(ジュリエッタも覚える?)


(なんかついで感が半端ないけど、そうね。マイアみたいにはいかないと思うけど、がんばってみようかしら)


二人の向上心には頭が下がる。でも、俺が言うのもなんだけど大変だと思うよ。


とりあえず、大事なメモは捨てられたり劣化で読めなくなったりする前に、アイテムボックスに収納した。


マイアのスキルで何とでもなるのかな、いくらマイアのスキルでも文字や言葉を読み書きするのは無理だろう。まあとりあえず、やる前にやる気を削ぐ必要はないのでおいおいな。


さて。今はそれより先に道中でまったく出来なかった、エリザベートさんの職務代行クエストを片付けてるか。


作業内容を確かめる為にアイテムボックスから書類を取り出して確認すると、計算して書き込む作業は指折り数えられる程度だった。


残りは収支報告書の数字が合っているか確かめて合っていれば押印するという、確かめ暗算するだけの簡単なお仕事だ。


(結構簡単な作業だけだから先に終わらせるわ。二人はこの変換表を見て、異世界の文字を覚えてくれてもいいよ)


二人が「「是非」」と口を揃えて言うので、まずこの世界に一番近い文字で、しかも文字数が同じである英数字から覚えて貰おうと思う。ちなみにこちらの世界の言語は文法も英語に近い。


それから約30分経過する。時々質問がくるのを丁寧に答えながら、作業も終盤になると夕飯の支度が出来たと声が掛かった。


「とりあえずご飯だ。みんなの所へ行こうか?」


「「はい」」


机の上を少し整理してからみんなの集まるリビングへと向かうと、既に全員が席に着いていた。


田舎の下級貴族では使用人達と一緒にご飯を食べるのが一般的なんだけど、席に着くと住み込みじゃないパートさんみたいな人も座っていたので驚いた。


テーゼがオレ達のイスを引いて全員が腰掛けたところで父が口を開く。


「まず今夜は、こうして久しぶりに家族全員が揃った事を嬉しく思う。ヴェルが姫様と伯爵家の専属騎士になった事、シェリーが生まれた事、そしてテーゼとデリックが結婚した事とこの1年間本当に色々とあった。それらを祝って今夜は皆で料理や酒を楽しもうじゃないか。ささやかだが存分に飲んでくれ」


父がそう挨拶をすると、今度はエリザベートさんが立ち上がり、乾杯をした。


食事が終わり、片付けが始まる前に「みんなに受け取って貰いたい物かあるんだ。ちょっとした王都のお土産だよ」と引き留めた。


テーゼに結婚祝いとご祝儀。他のみんなに土産を渡すと、喜んで貰えると思ったのに全みんな気まずそうに俯いている。え?なんで?


「私達、ヴェル様の婚約祝いも、叙爵祝いも用意していなかったのに、こんな高価な物を頂く事なんて出来ません」


テーゼが悲しそうな顔をしてそう言った。なんだ、そんなことか。全く大したことじゃないな。良かったよ。意図しない粗相とかじゃなくて。俺はみんなに笑顔を向ける。


「何を言ってるの?ここまで何事も無く成長出来たのはみんなのおかげじゃないか」


「みんな、ヴェルの言うとおりだ、遠慮なく受け取ってやってくれ」


父がそう言うと、最後はみんな喜んで受け取ってくれた。めでたし、めでたしと。

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