第89話 急な話
「ヴェル。久しぶりだな。居てもたってもいられなくてつい迎えに来ちゃったよ」
子供かよ。いい歳こいたおっさんがてへぺろなんてするな!
「お父様、相変わらずお茶目でかわいいです」「ええ。顔とのギャップが最高です」
なぜか二人が赤面する…え?ギャップ萌え?…自分の親に対して言うのもあれけど、確かにイケオジではあるんだが…
「お父様も、お元気そうで。会えて嬉しいのですがお母様は?」
「家で留守番だよ。まだシェリーの首が座ったばかりだからな。それより、相変わらずの冷めた反応だな。ここはお父様って抱きついてくる場面だと思うのだが」
父はそう言うと手を広げるが、おっさんがおっさんに抱きつくなんてありえない。事情を知るジュリエッタとマイアも苦笑している。
抱きつかれる事を諦めたのか、しょんぼりした顔をしていた父はウォーレスさんたちに挨拶する。おい、順番も逆だぞ。
「ふふふ、相変わらずヴェルのお父様は、喜怒哀楽がはっきりして面白いわですわね」
「そうね。ヴェルも少しは甘えたら」
(オレの前世を知っていてそんなこと言うな)
と、なにやら父達は話があるそうなので、大人たちを置いてオレ達は部屋に戻る。スライムに水を与えていると、コンコンとドアがノックされる。
ドアを開けると、話を済ませた父がジュリエッタ一家と一緒にやってきた。
みんながソファーに腰掛けると、メイドさんが飲み物を置き、退出したところで「お父様。話と言うのはシャロンさんとレリクの話ですか?」と、ジュリエッタがいきなり切り込んだ。
おおい。勇み足だろ!!思わず飲んでいたコーヒーを吹きそうになったじゃないか。
「ああ。結婚を前提に正式に付き合う事が決まったと報告があった。知っていたのか?」
「いえ。シャロンがレリクの両親とお話をされていたので、てっきりすぐにでも結婚するのかと」
マイアもぐいぐい乗っかってくる。
「本人達からも報告があるまで、そう急かさないでいただきたい。まあここだけの話、君たちとの旅が終わったら結婚をすると聞いてますがね」
「「まぁ」」
と、二人は声を揃えて嬉しそうにしている。シックスパックだろうが関係ないよね。でもこの手のフラグはヤバいやつじゃないの?「俺、この戦争から無事帰ってきたら彼女と結婚するんだ」的な。
ま、今回は離れ離れになるわけじゃないし、俺たちも一緒だから大丈夫か。状況が変わるなら旅の途中で結婚してもらってもいいし。こちらの世界で、披露宴的なものがあるのかどうかは知らないがね。
「ねぇ、あなた。レリク達の話も大事だけど本題にいきましょう」と、エリザベートさんがウォーレスさんに声をかける。
「ああそうだった。いかんな。めでたい話はついつい長くなってしまう。改めて相談と言うか報告になるが、マイアがこの屋敷に来ている事が近隣の貴族達にバレた」
聞くと、マイアの存在に気付いた貴族達が挨拶をさせてくれとうるさいとのこと。マイアの要望で今回はプライベートだからと断っているが、なかなかしつこいようで閉口しているようだ。
まあ、この屋敷自体が役所の機能を備えているので貴族達が気付くのも時間の問題だったわけで。それはしょうがない。で、その結果予定を前倒ししてウチの実家へ向かう事になったそうだ。
「ゆっくりしていってもらいたかったんだけど、騒ぎが大きくなってしまって…」
エリザベートさんはとても残念そうだ。
「いえ。ただでさえ多忙な時期なのに、皆様にご迷惑を掛けて申し訳ないです」
マイアが残念そうな顔でそう言うと、ジュリエッタが、ひらめいた!的な顔をする。
「ねえねえ。いっそのことお母さまも、一緒にヴェルの屋敷にお邪魔しちゃいましょうよ。ヴェル、いいでしょ?」
「おいおい。簡単に言うけど、さっき多忙な時期って言ったばかりじゃないか」
「あら、ここまで暇そうにしてたじゃない。おうちに着くまでお母さまのお仕事を手伝ってもらえない?」
ジュリエッタがニコニコと言うと、エリザベートさんは手を打って期待を込めた視線を送ってくる。
「私は人と会わないといけないので一緒には行けないが、お願いしてもいいだろうか」
ウォーレスさんの申し訳なさそうな顔を横目に、父を見ると笑いながら頷いている。エリザベートさんの仕事は…まあなんとかなるだろう。話は決まりだ。
そうなるとみんな行動も早い。ウォーレスさんたちは忙しそうに部屋から退出し。父は実家に伝書鳩を飛ばすため行ってしまった。
「ヴェル、ありがとう。義父様にも迷惑かけるかなとも思ったのだけど、こうするのが一番いいと思って」
「ウォーレスさんだけ貧乏くじ引くことになっちゃったけど結果は悪く無かったんじゃない?父のことも気にしなくていいよ。ジュリエッタの家にはお世話になってきたし、何よりレリクさんがシャロンさんを両親に引き合わせるって言う一番大事なイベント(知らなかったけど)はクリアしたんだから」
ちょっと慌ただしくなったけど、レリクさんをこっそり冷やかしてやろうと心に決め、出発の準備をするのだった。




