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第87話 伯爵領へ

 二回目の街道となると、やっぱり初めての時と違って景色に騒ぐ事もなく暇な時間も多くなる。


流石に「暇だ」とは言えないので「ちょっと鍛錬の為に走ろうかな~」言ってみるが「どこの世界に人と竜馬と並走する子供がいますか?ダメですからね」と止められた。


ここにスマホがあればなあ。せめてトランプでもありゃ良かったんだが。あー、トランプくらいなら作れば良かった。ホントこの世界に娯楽が少ない。あとで作るか。


つらつらと思考を飛ばしながら、御者台に移動してシャロンさんに話しかける。


「シャロンさんとレリクさんはBランク冒険者ですよね?その上は目指そうとは思わなかったのですか?」


そう聞いた途端にシャロンさんは表情を曇らせる。


「実は私には二人兄がいるのだが、下の兄が冒険者として生業を立てていた時にだな、無茶をしたんだろう。ショックのあまりか、詳しくは話してはくれなかったが、片腕を失ってしまったんだ」


聞いちゃいけなかったか。そんなことを思っていると…


「だがな。反面教師というのか…その一件をきっかけにいろいろ考えてな。冒険者の道を進むことよりも両親と同じ王宮騎士を目指す事にしたんだ。その結果レリクやヴェル殿達に出会えたのだ。間違っていなかったと思うよ。今では兄にも感謝している」


シャロンさんは笑顔になる。前向きだ。いやイケメンだ。


「それはそうと、私の書いたレポートは読んだか?」


「いえ。陛下からは受け取ったので、早速試してみたとお話がありましたが」


「そうか、実はヴェル殿が作った索敵魔法は、例えば常に気を張っていないといけない衛兵には有用だと思うが、その反面、発動し続けなければならないと言う欠点があると報告したんだよ」


索敵の恩恵は、常時発動にこそ有効だ。スキルでなく魔法である以上、魔力の垂れ流し状態になるのは小さくない短所と言えるだろう。


「やはり高ランクの冒険者には有効性は低いですか」


シャロンさんの話では、王宮の団長クラスやAランクの冒険者の一部は気配察知と言う、パッシブスキルを取得しているそうだ。


ただ王宮騎士でも取得している者は少ないようだ。単純に取得難易度が高く訓練が地獄らしい。


地獄と聞いてどんなものかと訓練内容を聞いてみると、Bランク以上の迷宮に目隠をした状態で放り込まれるのだとか。控え目に言ってドM仕様だ。

死ぬぞ。そんなことに挑戦しようなんて、どこぞの殉教者か余程の理由がある者だけだろう。


あれ?シャロンさんがいつかはやるぞと目で訴えてくる。いやいや、俺はやらないよ?やりませんとも。膨大な魔力で索敵常時発動の方が、精神衛生的に余程マシですから。ヤダ、なんか悪寒が…


シャロンさんの視線に気付かない振りをしつつ、前方に視線を向けると湯けむりが見えて来た。サンジュ村だ。


村に入ると新緑が心を癒し、いかにも温泉街っぽいと独特の雰囲気に心を躍らせる。温泉は正義だ。


暖かい日差しが差す景色を楽しみながら、今日も前回お世話になった貴族専用の宿に竜車を停める。


玄関先では大層な歓迎をされたがあまり目立つわけにもいかない。混乱を避ける為、食事は部屋食にして貰った。

個人的には旅行と言えば温泉の有無に関わらず宿のメシは常にビュッフェスタイルを選んでいたのでちょっと残念ではあるが…                            


部屋に通されると、しばし休憩。夕方になるとジュリエッタとマイアが先に露天風呂に入る。温泉から出てきた二人の浴衣姿もまた似合っていた。


「うん。ジュリエッタも浴衣姿が似合うけど、マイアも似合うね」


読んでいた本に栞を挟みつつ、そう声をかけると、二人とも恥じらうように照れている。実際に似合っているから何の問題もないな。


それからゆっくり一人で露天風呂に浸かりながら、ジュリエッタが寄り添う様に並ぶ月を見て泣いていたことを思い起こす。涙の理由を自分に置き換えて、ちょっとセンチメンタルな気分になりながら存分に温泉を堪能する。


露天風呂から出ると、女将さんに許可を貰ったので源泉から湯を樽に詰めると、ジュリエッタのアイテムボックスに収納した。これで10日は戦える。


目的のひとつである湯をゲットし、ホクホクで夕食を済ませると3人だけで町に繰り出した。温泉卵を食し、土産などを買いつつ何事もなく優雅な気分で一日を終えた。


早めにゆっくり休んで、翌朝早くに宿を発つ。


竜馬2頭引きで休まず移動し、今日中にはジュリエッタの屋敷に着く予定だ。


前回野盗に襲われた場所をすんなり通過、ジュリエッタが当時の事をマイアに話している。マイアが食い入るようにそれを聞ているのを見ていると、なんだかこそばゆい気分になるな。


それから、王都に向かう途中で買い食いした、もち麦団子を食べたりしながら道中進んでいくと、夜分にすいません、て時間にジェントの町に到着した。


「流石は竜馬だな。あっと言う間に着いた」


道中は暇だったので体感時間は結構遅く感じたが、腰とお尻の痛みをヒールで無かった事に出来た事もあって、そこまでのストレスは無かった。


それにしても竜馬にもヒールが効くのには驚いたな。目からウロコだ。もっとも、ヒールを連発して強引に走り続けさせるのはストレスも高いそうで、多用はできないんだとか。


なんにせよ、頑張って走り続けた竜馬には美味しいエサを与えて労ってやらないとね。


途中の宿場から伝書鳩を飛ばし、今晩にはお邪魔をすると伝えてあったので、ジーナス家では遅い時間にも関わらず大層なお出迎えがあった。


竜車からマイア、ジュリエッタをエスコートして降りる。


「ようこそ、皆様。長旅お疲れさまでした」


伯爵家の者たちが一斉に腰を折り、頭を下げると、従者達も全員一斉に頭を下げる。相変わらず圧巻だ。でも、何度も言うように結構遅い時間なんだよ。夜にやる娯楽が少ない異世界ではね。


「義父様。夜分遅い時間に恐縮です。でも私たちに大仰なお出迎えは不要です」


「言いたいことはよくわかるが、姫君の出迎えにはそれなりの形式が必要なのだよ」


あーー、そうか。お転婆なお姫様なので、ついつい忘れがちになるけどマイアは王族だ。TPOだ、それじゃ仕方ない。そうだったね。


そのまま屋敷の中に通され軽食をいただき、食後はコーヒーなんかを飲みながら迷宮の話など、王都での話に花を咲かせた。


ジュリエッタも久しぶりに会う家族に終始笑顔で話してる。


改めてこの生活は守らなきゃいかんと誓うのだった。


いつもお読みくださりありがとうございます。

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