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第86話 出発

翌朝、宰相のマーレさんが王宮騎士を引き連れて陛下を迎えにやって来た。


ジュリエッタもマイアも起きたばかりで朝の支度が終わっていなかったので、先に一人でエントランスに向かう。


元々王家の人たちは昨晩に帰る予定だったはずが、どんちゃん騒ぎの挙げ句酔いつぶれ、誰も帰ることができず屋敷に泊まっていた。


陛下なんて二日酔いでヘロヘロだ。普段の威厳はどこへやら…ソファでぼーっとしている姿はただのポンコツだ。その様子を見て王妃様と側妃様は気まずそうだ。


「ヴェル殿。旅立つ前にひと手間掛けてすまないが、陛下は今日も大事な職務を控えている。二日酔いを治してもらえないだろうか?」


「迷惑を掛ける」「お願いできるかしら」と声が聞こえて来るな。


いや、確かに治癒魔法や解毒魔法が使えるようになったけどまさか第一号が陛下とはw。

しかも二日酔いだ。いや待てよ、と言うことは自分を解毒しながらなら俺もワンチャンあるんじゃね?

ほろ酔いを楽しむことはてきなくてもエールの喉越しと場の雰囲気は楽しめるじゃないか。


いや、違う。これは魔法への飽くなき探究心と聖属性魔法の発展のためだ。尊い犠牲に躊躇うこともない。俺の身体を使ってでも試さざるをえないだろう。


内心のニヤニヤを表情に出すことなく陛下の二日酔いを治すと、着替えを済ませた二人が寝室からやってきた。

なぜか陛下がマイアに説教しようとしている。陛下、それは流石にやめた方がいいと思いますよ。


結局俺たちの朝食は陛下達をお見送りした後になった。朝からドタバタしてたけどようやくひと段落したので3人でコーヒーや紅茶を飲んで一服していると、レリクさんから声を掛けられた。


「ヴェル様。お嬢様からお預かりしました魔物の素材の処理と換金が完了致しましたので、こちらをお受け取り下さい」


レリクさんはそう言うとギルド発行の明細書と金貨の入った袋をオレに差し出したので、お礼を言って受け取る。


興味があったので俺も一緒に魔物の解体をする予定だったのが、レポートに忙殺されていたので全く参加できなかった。

なのでレリクさんと従者達が処理をしてギルドでの手続きまで済ませておいてくれた。まあ、これから旅立つわけだし嫌でも解体の機会はあるだろう。


それにしても、メイドさん達まで魔物の解体が出来るとは何気に凄い。流石は陛下のお墨付きだ。とは言えこれってメイドの職分を超えてるんじゃないか?


金額を確認すると魔石を換金して得た金額よりも若干だか多かった。二人に使い道を相談するか、と思ったら先にジュリエッタが聞いてきた。


「結構な金額になったわね。ヴェルは何か使い道でもあるの?」


半分は旅費に充てて、もう半分は作業した従者に渡したらどうかと軽い気持ちで言ってみた。が…


「う~ん、私は反対かな」


「そうなの?」


「言いたい事は分かりますが、今回のように就業時間中に仕事の一部して解体したときに特別給を出すと、携わっていない従者からみたら不公平だと思いませんか?」


「私もマイアの意見に賛成かな。解体作業をしている間は本来の仕事を他の従者がやるわけだしね」


ほほーう。一理ある。なるほど。

「今日は締めなのに、あの人が急に休んだからって、私達が残業をしてまで終わらせないといけないなんて納得いかないわー」ってごく当たり前の主張をすまんな…助かるよと宥めていた会社員時代がふっと頭をよぎる。


じゃあ、と言うことで従者みんなにボーナスを出すか、美味しい物でも食べさせると言う事で話が纏まる。じいやさんに趣旨を話して金貨の半分を手渡した。


さあ出発だ。


「シャロン殿、レリク殿、姫様達の事をくれぐれも宜しくお願いします」


「ああ。任せてくれ。精一杯尽くさせてもらう」


相変わらずシャロンさんてば、女性なのに言葉や態度はイケメンだなあ。


「それでは皆さん。屋敷の事は宜しくお願いします」


「じいや。後は頼みますね」


「お任せくださいませ。皆様、ご無事のお帰りを従者一同心よりお待ちしております」


家宰のじいやさんが頭を下げると、従者達も一斉に頭を下げる。


「折角だから貴族門を越えたら王都の街並みを見てみたいのだけどいいかな?」


実のところ、王都に来てから貴族門から外に出た事は一度も無かった。


籠の鳥と言うほど制限があった訳ではないけど、姫君であるマイアを預かる身だったからな。マイアを置いていくわけにもいかないし。


結局生活の全てが貴族街で解決していたのでわざわざ門の外に出る必要も無かったし、観光や娯楽については混乱を避けるため自粛をしていたんだ。


「そうね。このタイミングならいいかも。マイアはどう?」


「かまいませんががっかりしないでくださいね」


がっかりか。なんだろうね。あまり見せたくない光景でもあるのかな。


正面の吹き出し窓から、マイアの指示で竜車は町の中へと入る。


貴族門を出て坂を下り始めると町全体が見渡せる。貴族街と一般区域には砦だった頃の名残りで高い壁があり、王都の大きさを改めて知ることが出来た。


街灯に取り付けられている案内板には商業区域の方向が書かれている。商業区域に近づくにつれ、どこからこんなに人が集まるのかと不思議に思うほど人通りが多く賑わっていた。


屋台や軒下にオーニングと昔テレビで見た東南アジアの街を思い出す。雑多な喧騒が生々しい。


「二人とも王都の町を初めて見てどう感じましたか?奥にある屋台は何を売っているのか分かりません…ひとつ言えるのはどの店で売っているものも貴族街よりもグレードダウンした物ばかりです。そして、見てのとおり人はものすごく多いんです。正直言うと貴族がわざわざ町に来る必要が無いのです。なのでがっかりさせてしまうと思いまして」


「がっかりなんてとんでもない。活気があって雰囲気は好きだな。生活力を感じるよ。時間があれば歩いて店をまわりたいし屋台で買い食いもしたいところだ」


「ヴェルにそういう趣味があるなんてちょっと意外ね。この賑わいの裏にはスリとか誘拐、迷子といった治安が行き届いてない側面もあるの。そう考えると、住み慣れた地元の町の方が過ごしやすいと思うわ」


なるほど。でも俺は知ってるんだよ。台湾や香港、タイベトナムフィリピンに旅行に行った人たちはみんな楽しそうにその話をしてくれた。

もちろんここが必ずそうとは限らないけど、雰囲気が地球への郷愁をそそるのは間違いない。屋台で適当な物を食ってハラを壊すまでがデフォだろう?

それこそ貴族としての生活しか知らない2人には年齢的にもそういった遊び心と言うか、余裕を持てってのも難しいんだろうな。


街の喧騒をぼんやりと眺めながめていると、レリクさんが、道が混んできたので空いている道に行ってもでいいかと声をかけてきた。


町のメインストリートから外れ、数本の道を進むと衛兵の宿舎があり大きな公園がある。それを過ぎるとさっきまでの喧騒が嘘のように閑静な住宅街へと入る。


小さいな屋敷が並び治安も良さそうだ。マイアの話では町の約2割を占める貴族街には住めない富裕層が住む区域だと言う。先ほど通り過ぎた衛兵の宿舎は、富裕層の治安維持の為にあると説明された。


門へと到着するとそのままスルー。街道を進み一気に宿場町であるサンジュ村を目指す。

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