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第83話 レポート

迷宮を攻略した晩、王城へ提出する魔王軍対策のレポートを書き上げるため机に向かう。


シャロンさんも同じような報告を課せられていたようだけど、オレ達が迷宮に入っている間に索敵魔法について書き上げて陛下に提出済みなのだとか。流石騎士団長である。と言うか、ついでにオレのレポートの素案も任せたかった。


「レポートを仕上げてから寝るから、先に寝てていいよ」


「あまり無茶しないでね」


「そうですよ。出来なかったら出来ないで言えば、お父様もいくらかは猶予をくれるでしょうし」


「大丈夫。無理はしないから」


とは言え明後日から旅に出るから焦ってるんだよ。二人が寝入ったのを確認しレポートに取り掛かる。


なぜこんなギリギリになったのかと言うときちんとした理由がある。サボってたわけじゃない。


この1年の間、魔王軍対策をずっと考えていたのだけど、冒険者ありきでの戦術については未だ答えが出せていなかったからだ。


神様の所で見た、ジュリエッタの記憶の映像を見る限りでは、冒険者の協力無しで国防するのははっきり言って無理だと思っていた。戦いは数だよアニキ。


かつて、近い将来悪魔が魔物を従えてやってくることを前提に、騎兵団と冒険者との合同で迷宮攻略をするべきではないのかと、ジュリエッタとマイアに提案した事がある。


その時はマイアに「騎兵は対人戦や大量の魔物対応に特化した戦術で、冒険者は極地的に優位に立って大型の魔物に絞った戦い方になり、それぞれストロングポイントが違うのです」とダメ出しを食らったものだ。


騎兵の集団戦術と冒険者の得意分野である小集団での戦闘とは、そもそもカテゴリーが違うってことだ。


国民の税金で職業として鍛えられた正規騎兵は民の暮らしを守る為にその力を発揮すべきであり、あえて冒険者の領分を奪う事はしないものらしい。


ならば王侯貴族がレベリングする時もギルドに手続きが必要なのかと尋ねると、学園迷宮に限って言えば冒険者ギルドへの少なくない援助の対価として国が借り上げているので、そこは問題ないとの事だった。


なので、逆に騎士団長のシャロンさんがもし迷宮攻略をするなら冒険者ギルドで正式な手続きを経てから許可を貰うという流れになっている。


提出するレポートにはその辺を理解した上で書き纏める必要があったのだ。


平和な世の中ならともかく、魔王が攻めてくるとなると話は別なんじゃないか。国とギルドの関係に子供の俺が口を出す事ではないのは重々理解はしているが、このままだと尻すぼみになるのは目に見えている。


まず対策として、騎兵団と冒険者の合同演習をするのはどうかと提言する。これなら角は立たないはずだ。


俺が合同訓練を推す理由は、昨日今日で実感した魔物を倒すことで目に見えて実力が伸びた事にある。


迷宮が望ましいが、最悪迷宮では無くても魔物はいるだろう。兎に角、魔物を倒すべきだと書き記す。


エビデンスを積み上げるのはこれからになるが、そこは陛下に知恵を捻って貰おうと思う。


それから、官と民、それぞれ適材適所での対応を前提に色々プランを書き始めると小説を書いていた時の事を思い出す。


「まさかここにきてラノベ作家として、詰め込んだ知識が役に立つとはね。魔法の世界で理屈や根拠、エビデンスがどれだけ必要かはともかく、日本のおっさん時代にあれほど叩きこまれたんだ。プレゼンのつもりでがっつり論陣を張っていかないとね」


採用されるかどうかは別にして、結界を破られたときの保険で急速冷凍技術を使った強化ガラスの製造方法。


また、壁やガラスに魔法ダメージ軽減や、魔法を跳ね返す魔法を付与してはどうか?そういった魔法が無いなら俺が魔法創作してみてもいいと言う提案。


たぶんこの世界でも採用されているであろう見張り櫓や壁道からの攻撃ではなく、日本の城の様に壁に鉄砲櫓をつくり、時間差で途切れないよう弓や魔法を放ってはどうか?など物理的な提案。信長はこれで武田を滅亡に追いやったわけだし。


王城の平地やそれぞれ川上にダムもしくは池を作り、水攻めしてはどうか?など戦術的トラップの提案。日本で読んだ兵法の知識を知る限り明確に書き綴った。


ただ、鉄砲や砲弾などについては技術には可能だが魔法がある世界に銃砲を持ち込んで、いらんブレイクスルーにを生むのはまずいだろうとそこは自重した。


諸葛孔明先生や高校生の時に夢中で読んだ銀英伝の黒髪の提督のように知識の泉でもあればいいのだが、俺の泉は枯れている。と言うか元々持ち合わせてない。


ミラクルな戦略など俺が考えられるものは所詮パクリ。でも大丈夫。ここでは初見だ。


苦笑いしながらも何とか書き終えると、カーテンから漏れる日の光が目に入る。いつのまにか夜が明けていた。


「もう夜明けか」


椅子の上で体を大きく伸ばし、大型のベッドを見るとすやすやと寝息をたてて二人が眠っていた。眠りを妨害しないように、少し開けた布団を被せると大きな欠伸が出た。


ベッドインする事を諦めてソファーに腰掛けて、レポートの誤字脱字をチェックしているといつの間にか意識を手放していた。


 どれだけ時間が経っただろうか?床に散らばっていたレポートを拾い集めるジュリエッタとマイアの姿が目に入った。いつの間にかタオルケットが掛けられていた。


「ああ、ごめん。いつの間にか寝ちゃったみたいだ」


「もぅ。どうせまた無茶したんでしょ?」


「まあね。陛下に頼まれていたレポートを1年放置していたからな。自業自得ってやつだよ」


「毎日の鍛錬で疲れていたし、実戦経験は昨日が初めてだったのだから仕方が無いじゃないの。よく書き上げたものね」


「ジュリエッタの言うとおりです。もし、眠くなったら遠慮しないで言って下さいね。私の膝はいつでも空いていますから」


「私のも空いているからね」


へいへい。10年経ったらそのときはよろしくね。

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