第80話 最下層
結果から言えば、ちょっとびびったくらいで何事もなく吊り橋を渡り終えた。何かある!と思ったのにただの安全な橋だった。ちょっと気恥ずかしい。
気を取り直して索敵すると複数の魔物の反応がある。目視は出来ないが森の木の裏や上、岩の陰に潜んでいるようだ。
「取り囲まれているな」
「待ち構えているところを見ると、魔物でもここから落下するのが怖いのかしら?」
渓谷を背にして警戒しながら歩くと、野猿と犬系の魔物が姿を現す。出てくるなら隠れてなくても良かったんじゃないか?
ちなみに鑑定するとワイルドウルフ。犬じゃなくオオカミだ。俺と同じぐらいでかい。
「猿が5匹にワイルドウルフが3匹か。正面のワイルドウルフ3匹は俺がやる。野猿は任せるよ」
「了解。無理しないで」
マイアは魔物に視線を向けたままそう言うと、俺は刀の柄をギュっとにぎり締め一歩踏み出す。刹那、タイミングを合わせたように、先頭のワイルドウルフが襲い掛かってきた。
正面のワイルドウルフを斬り伏せると同時に、後方の死角から残り2匹が襲い掛かってくる。避けた左腕に牙が掠るが外套のおかげで傷ひとつない。一旦距離を取り仕切り直す。
黒い3体が襲ってくる。そう、おれはこの攻撃パターンをよく知っている。頭の中で「マ、マッシュのド〇がや、やられた」と言うセリフが響いた。さ、おまえらを踏み台にしようじゃないか。
隙を見せればまた襲ってくるだろうから、柄を改めて強く握りしめて2匹のワイルドウルフと対峙する。
半身の構えから攻撃を仕掛け、正面で威嚇をしている一体を縮地+居合で瞬時に右薙ぎ。
残された一体は、それを見て俺には敵わないと考えたのか苦戦をしているマイアに向かって走り出した。
「させるか!」と縮地発動の後方から刺突。そのまま、横から野猿を袈裟斬りで倒した。
「ヴェル!助かりましたありがとう」
「まさかそっちに逃げるとはね」
他のメンバーをみると、あちらも戦闘は終わっていた。その後は猿と狼の連携パターンに慣れるとさほど苦戦することはなくなった。
そして最終階層である10階層へと続く階段が見えて来た。
階段を下りると5階層と同じボス部屋の扉が目に入る。
「いよいよここのラスボスね」
「ああ。何かいい作戦はある?」
そんなやりとりをしていると護衛の二人がやってきた。
「ここまで2日とは大したものだ。ここのボスはアルケロスなんだが何かアイディアはあるのか?」
アルケロスとは、日本で言うウシ型のミノタウルスで、オーガより大型で物理攻撃耐性に特化した魔物だそうだ。
「さてどうするか。閃光を使ってオーガのように暴れられると厄介だし、剣を交えれば吹っ飛ばされそうだ。安全策ならここは魔法攻撃でちまちま削っていくべきかな」
「まったく。謙虚なんだか自覚が無いのかわからんな。ここまで危なげなくきたんだ。今のヴェル殿の実力ならアルケロス程度なら、剣で打ち合っても問題ないだろうよ」
「シャロンさんの言うとおりよ。控えめに言っても打ち負けるわけないわ」
そんなものか?まあ確かに二人の言うとおり、Dランクのボス程度で苦労していては、この先が思いやられるし、パワーライズでバフっとけばいいだろう。
とりあえず経験値は均等に分けたいので、軽く二人に魔法攻撃で1発づつ当てて貰い、その後は単独で戦う事にした。
「我々二人は向こうで見てます。ヴェル殿、今回のまとめとして思う存分力を見せて下さい」
「がんばります」
シャロンさんレリクさんと拳をぶつけ合うとボス部屋へと入った。
ボス部屋に入る。「おおっ、ほんとに赤黒いミノタウロスだ」2mを超える筋肉隆々のアルケロスが大きな斧を肩に携えて待っていた。
横幅がなんというか、身長140mのオレからしてみれば実際の身長差よりもずっと大きく見える。
「よしそれじゃ行くぞ!!」
「「はい」」
二人がサンダーナイフで先制攻撃を行ったあと、俺はバフを入れた刀で巨大な斧と打ち合ってみる。
打ち合う音が大きく響きアルケロスは後ろへ吹っ飛んでいった。
吹っ飛ばされたアルケロスは立ち上がると雄たけびをあげながら斧を振り上げ突進してくる。気分は闘牛士だ。そのまま縮地で避け、斧を持つ手首ごと斬り落とす。
すると反対の腕でフックを放ってきた。え?手首斬り落とされてスルー?痛くないの?
そのままカウンター気味に刀を切り上げ腕を斬り飛ばし、そのまま逆袈裟で手首から先の無いもう片方の腕を斬り飛ばす。
両腕が無くなって何もできないアルケロスに一閃。首を刎ねるとそのまま地響きを立てて倒れる。自分でやっといてなんだがやり過ぎかな。なんと言うか瞬殺してしまった。
と、顔を紅潮させたマイアがこちらに向かって飛びついてきた。
「惚れ直しました」
「みんな見てるぞ!!」
「ヴェル、マイアの言うとおりよ。恰好よかったわ!!」
ジュリエッタまで飛びついてきた。ちょっと大袈裟だろう。念話で自制するように促す。
(ジュリエッタ、君は大人だっただろう!冷静になろう)
(嫌よ。我慢しないって言ったじゃない!)
後ろから咳払いの音が聞こえたので二人が抱きついたまま振り向く。
「仲がいいのは羨ましい限りだがその辺にしてくれるとありがたい。しかし実際素晴らしかった。一連の攻撃テンポは我々が見ても美しいかった」
「ですね。流石は勇者様というべきでしょう」
「褒めすぎです!Dランクじゃありませんか」
護衛の二人は何も言わず微笑ましい笑顔で見守っている。何の羞恥プレイなんだか。恥ずかしいったらありゃしない。




