第78話 索敵魔法
セーフティゾーンに到着すると、早速テントを張ってみる。広場には予め杭が打たれていたので、そこにロープを張るだけの簡単仕様だった。まんまキャンプ場をイメージだな。
「ではヴェル様。テントを張りましょうか」
レリクさんにレクチャーを受けながらテントを張って見るとサクサクと張り終わってしまった。なので様子見がてら、夕食の準備を担当している女性陣に合流するとそちらも準備は終わっていた。
ま、アイテムボックスに入った料理を並べるだけの簡単なお仕事だからな。しかしアイテムボックスって素晴らしい。だって暖かい食べ物が瞬時に、それも出来立てで出てくるんだもんね。神様に感謝だよ。
手を洗い、他愛のない話をしながら食事が終える。簡単に今日の反省会をしてからテントに入り自由時間になった。お湯で身体を拭いたけどやっぱり風呂が恋しい。
ちなみにテントが黒いのには理由がある。セーフティゾーンと言うのは何故かはわからないけど常に明るい。
なので体内時計を狂わせないために自力で夜状態にする、つまり遮光する必要があるってことだ。その代わり外での野営と違い、焚火の管理や見張りをしなくていいと言うアドバンテージもある。
まだ、時刻は20時を回ったところだ、そんなに眠くはないけど、テントに入りカンテラに魔力を流し光を灯した。
暑くも寒くもないので、寝袋を敷いて、いつも使ってる枕を置いた。枕元に木箱を置いて、吊るしていたカンテラを外してその上に置く。
外套を畳んで寝ころぼうとすると外套のポケットから迷宮コンパスが滑り落ちた。
迷宮コンパスを拾い上げ目をやると、どんな仕組みなのかちょっと気になった。いや、男の子はいくつになってもギミックって大好きなものなんだよ。わかるよね。そんでその、なんでこれが魔素の濃度とか測れんのかな。ちょっと気になるぞ。漠然としてるけどそれだったら魔物が持つ魔力を測れんじゃないかとかさ。
「ん?どうしたの?迷宮コンパスをじっと見て」
「いや、迷宮コンパスって魔素濃度で流れが分かるって言ってたじゃない?その理屈で言えば魔物の感知も出来るんじゃないかと思ってさ」
「あー、えーとね、迷宮コンパスに使われている魔法陣は今では失われた古代文字で書かれているの。なので研究者でも解析出来ないって前世の学園で聞いたわ」
「ジュリエッタの言うとおりです。質の悪い暗号が掛かっているようで、研究者が人生を掛けて何度も研究したようですが、未だに解明されていません」
「失われた古代文字?待って。コンパスって冒険者に行き渡るくらい作ってるんだよね。作るのはできるの?」
「ええ。魔法陣は分かっているから複製して付与しているんだって」
はいはい。それな。前人生で言うところのコピー&ペーストじゃありませんか。コピペって魔法陣でも使えるの?ふふふ。こっちでもコピペってあるをんだな。まあこの場合は、まるパクリとも言うが。
「魔物の感知についてはエルフは耳、獣人族は耳や鼻、人族でもランクの高い冒険者は、気配で魔物を探知出来ると聞いたことがあります」
「5感依存なわけね。それは随分と修練に時間が掛かりそうだな。汎用性を考えるなら、やはり物理的な探知が一番だよな」
具体的には温度、魔力の波動かな。
魔力とか熱を同時に感知するイメージで周囲に撒いてみてはどうか。潜水艦のソナーみたいな。これ、イメージさえしっかりしていれば魔法創作スキルでいけるかもしれない。
ま、何事もトライ&エラーってやつだ。神様も日本にいた時の知識がなんちゃら言っていたから、結構な確率で成功すると睨んでいる。
「ちょっと試したい事があるんだ。出来るかどうか分からないけど、イメージは出来ているからやってみようと思う。魔力使い過ぎて気絶したら宜しく」
「まぁ、布団の上だしね。倒れても問題はないでしょ」
「まあね」
さて。おれは元々地球人だ。その乏しい知識から潜水艦で使うような熱源センサーと中周波音ソナーをイメージ。それから魔力を中周波音に変換して360度広がり流すイメージ(広範囲捜索)を固め魔法を具現化する。いや、成功すれば貰った能力とは言え神様すげー。
目の前に円形陣が顕現。見た事が無い文字が空白の欄に次々と書きこまれていった。
婚約者二人はその光景に目を奪われたように魔法陣を見つめて固まっていた。二人が固まっている間にステータスカードを確認するとしっかりと索敵魔法が表示される。
「成功はしたみたいだけど、効果がどの程度あるのか分かんないや。ちょっと試してみようかな」
そのままアクティブサーチと詠唱する。潜水艦系の映画まんまのピコーン ピコーンと言う小さな音波を射出しその反射波の魔力が回収されるように戻ってくる俯瞰イメージが返ってきた。
周りの人間はサーモーグラフィーのように赤く見える。や。それこそ等圧線みたいなまるまるっとした図形と言うか。沈黙のなんとかそのままだ。
「まじか!成功だ。ここまでイメージどおりだとひくわ」
こう表示されたらいいな~。ひくわと言っておきながら、思い浮かべていたイメージどうりで笑いが止まらない。
「本当ですか?私たちは何も感じませんでしたが」
「聞いたこと無い、ピコーンと言うかすかな音は聞こえたけどね」
それじゃって事で、魔石に索敵を付与してから二人に渡す。二人が武器にセットしてアクティブサーチを発動する。
ピコーン ピコーンと、超音波が流れると瞬時に戻ってくる。
「せ・成功しましたわ!!」
「マイア声が大きい」
「ああ、ごめんなさい」
声が聞こえたのか、天幕を開けて護衛の二人が「騒がしいですが、何かありましたか?」とやってくる。
経緯をシャロンさんに伝えると驚愕の表情を浮かべる。この手の魔法は誰でも使えた方がいいのじゃないかと思ったので、まずシャロンさんに人柱になって貰う。
「シャロンさん、利便性とか確認したいのでまず体感してもらいましょう。この魔石を武器にセットしてアクティブサーチと詠唱してみて下さい」
「えっ!私がやるのか?私は冒険者だが一般人だぞ?」
「何言ってるんですか?私も人です。意味がわかりません」
そろそろ人外認定に対して本気で声を上げるべきかな。人をやめたつもりもないし、やめるつもりもないのだから。
「冗談はさておきレリク、もし私が魔力切れで気絶したら後を頼む」
「はいよ」
「なんだか信用ないのね」
「姫様。それはそうです。私は神から選ばれた人間じゃありません。私がかよわき女性だという事を忘れないでいただきたい」
「「「「かよわき!!」」」
「レリクさんにとって…ひでぶっ」
余計な事を言うなとばかりにお腹に肘鉄を喰らう。
ちょっと待てや!
「それではいくぞ」
おい!と言う間にシャロンさんは目を瞑りアクティブサーチを詠唱した。
「す…凄い。まるで鳥になった気分だ。テントの形までわかるのに地形が透けて魔力持ちがどこにいるのか分かる。これほどとは」
「シャロンさん。魔力消費はどんな感じですか」
「ああ。魔力か。広範囲に振りまかれた後に回復された感じだ。なぜだ?」
ん~これはちゃんと説明しないと。迷宮は4方向行き止まりだけど野外ならロスは否めない。壁に当たって反応を示すだけなので、ちゃんと反射をすれば自分に戻ってくるわけだ。
「割と密な空間であればほとんど魔力を消費しないはずです」
「なるぼどな。いやもう無茶苦茶だな」
「ですね。しかし、これだけ有用な魔法が使い放題なんてありえないくらい革命的ですよ」
「ありがとうございます。では使用感をレポートしていただけないでしょうか?」
「分かった。この索敵が付与された魔石がいかに有用かを今から吟味した上で、必要に応じ私とレリクから陛下にも報告をさせてもらう」
陛下にもか!ちょっとした思い付きが陛下案件まで大袈裟になってしまった。でも気にしない。
もう一度おやすみの挨拶をすると、シャロンさんとレリクさんは自分のテントに戻って行った。
「それじゃ、明かりを消すよ」
枕元にある木箱の上のカンテラを消して、枕に頭を置くと(あっ、そう言えばさ聞きたい事があるのだけど)と何かを思い出したようにジュリエッタが念話で話しかけてきた。
(何かあった?)
(そう言えばさ、重力魔法は使わないの?)
(そう言えば私も気になっていました。使えばもっと楽に戦えるんじゃないかと思っていたんです)
説明をしていなかったな。そう思ったので自分の考えを説明する。
まずパワーライズは魔力消費量は少ないが、あっさり勝負がついてしまうと実践経験って言う意味合いをを考えるならば使わない方向でいいだろう。何しろ連続剣と同様の刀速ならば、今日エンカウントした程度のザコぐらい使う必要性を感じなかった。
それともう一つの重力魔法である、グラビティロードを魔物に使えば、魔物が押しつぶされたように停止して確かに戦いは凄く楽になる。だが魔力消費量も高く、多くの魔物に使うには向いてはいない。
使い過ぎれば魔力の残量が分からないので、最悪の場合は、早い階層で魔力が尽きて気絶をしてしまう。
そうなれば、みんなに迷惑を掛けてしまう。
結果的に言えば、グラビティロードを使うならやはり単体のボス戦だろう。切り札は最後までとっておくべきだと考えて使っていないのだと説明をした。
(なるほど。確かに重力魔法を使うと、今ではわりと平気にはなったけど、普通の魔法よりも魔力をごっそり持っていかれたわね。納得だわ。それにしても色々と考えているのね。でもね、少しは相談してほしいわ)
(本当ですよ。少しは頼って下さい。それと出し惜しみをして怪我をしないで下さいね)
(知識で頼っているから相談しにくいんだよ。だけどこれからは、きちんと相談をするように肝に銘じておくよ)
((うん))
二人は納得してくれたようだ。
念話を切ると目を瞑る。残りの魔力消費をするとあまり魔力が残っていなかったのか、あっさりと眠りについた。




