第75話 不意討ちされる
先に進むと、そこはファンタジーと言うよりまさにバイオハザードの世界だった。
ボロボロの農民の服に鍬を持ったゾンビが1体、破損した武具を身に着けた冒険者風のゾンビが2体武器を携たずさえて待ち構えていた。当たり前だけど映画でもゲームでもないのでスメルもきつそうだ。
組み合わせがいまいちわかんないが、見た目は骨も見えるし腐った感じなのでお近づきにはなりたくない。婚約者の二人は気持ちが悪いのか、顔が引き攣っている。
【鑑定:グール 魔物ランクE
特徴:攻撃を受けると低確率だが毒に掛かる】
(ねぇ、とりあえず聖属性魔法で浄化しようよ。魔法の有効射程距離範囲に入ってるしあまり長い時間かかわりたくないわ)
(いいんじゃないかな?それで片付くのなら実働としては美味しいし)
さっさと片付けようとグールが待ち構えるフロアに入る。グールはこちらに向って動き出すと同時にターンアンデッドをぶちかます。
グールは光に包まれ浄化されていく。ちょろいな。と魔石を回収に行こうと歩き始めた瞬間、フロア後方の死角から、ジャイアントバットがオレに向かって襲い掛かってきた。
即座に切り伏せ、真っ二つに切り裂かれた1.5mぐらいのジャイアントバッドをみて思わず。
(あぶね~!!こりゃ油断できねーぞ。しかしでかいコウモリってのもなかなか見た目が…)
「ヴェル、大丈夫?怪我してない?」
婚約者の二人が青い顔をして駆け寄ってきた。
「ちょっとびっくりしたけど大丈夫。あぶないあぶない」
「ほっとしていた隙をつかれてしまいました」
「私も。ごめんなさい」
「死角からの急襲だししょうがないよ。ぶっちゃけ俺も油断していたし。でもこれからは油断せずに行こう。怪我しちゃ元も子もないからね」
「「はい」」
二人は反省していたが、こればかりは仕方が無いと思う。そのうち嫌でも慣れるだろう。とりあえず簡単なルールは決めといた方がいいかな。
「これからどうする?舐めきって突っ込むと今回のように不意打ちをくらう恐れがあるから、ざっくりとした役割ぐらいは決めておいた方がいいと思うんだけど?」
結果、俺が飛行系の魔物を警戒して、足の遅いアンデッド系は婚約者二人が聖魔法で攻撃する事になった。もちろん、ジャイアントバッドがいない時は俺も攻撃に参加する。
護衛の二人も話を聞いて頷いている。どうやらアドバイスをしてくれる腹づもりみたいだったが、話の内容を聞いて必要は無いと判断したようだ。
それからは遠距離攻撃は聖魔法、撃ちもらした魔物はオレが引き受けると3階層に降りる階段が見えて来た。
「やっと3層目に降りる階段が見つかったよ。お腹が空いてきたからお昼ごはんを食べないか?」
「そうね。セーフティゾーンもあるからそこで食べましょ」
「賛成ですわ」
セーフティゾーンに足を踏み入れると、さっきと同じように充分な明るさが保たれている。なんでだろ。灯りもないのに。
入り口に近い場所にアイテムボックスから出した机と椅子、食料を並べて、樽に革袋に入った水をはり手を洗う。
「普通の冒険者は水を革袋に入れて持ち歩くのが普通なのかい?」
「水はですね、迷宮内の川で補充もできますし、飲み水や少量の水なら水の魔石を利用するんですよ」
水質検査とか、色々とつっこみたいが、まあ腹を下したとかそんなトラブルは聞いてないのでそういうものなんだろう。
昼食を食べ終わり、1時間ほど休憩する事になった。
「それにしても、後ろから見ていましたが、通常に掛かる攻略スピードより早いし楽勝ですね」
「そんな事無いですよ。魔物のランクが低いとはいえ、数も多いですし気が抜けません」
「普通の学生なら、6人パーティに上級生が援護してこの迷宮をクリアするのです。誇っていいですよ」
護衛の二人は褒めてくれるけど、まず勇者の力がチートなので実感がない。油断は禁物だ。スキルにしても魔法にしても発動まで短いとはいえイメージしたり詠唱しなければならないし。
ここまではフロアの後方にしか魔物がいなかったので準備さえ怠たらなければ危険はないが、さっきのコウモリみたいにいきなり攻撃されると魔法は使い物にならない。
剣技のスキルはともかくとして魔法はあくまでも遠距離攻撃に特化しているに過ぎないし、ウエイトタイムがあるので連続しては使えない。
もしスタンピードのように魔物が溢れかえればスキルや魔法を準備する暇もないと思う。知能が低く、ただ命を刈り取ろうとする魔物にたいして、果たして止まって悪魔や魔物と対峙するなんて余裕があるんだろうか?
今はエアスラッシュならば纏めて倒すことは可能だろうけど、刀で纏めて斬り伏せるっていうようなマネは出来ない。
ならば安全マージンを担保した上で、出来るだけ魔法やスキルに頼らずに刀だけで進むのが上策だと思う。
そんな事を考えていると休憩も終わり、3階層に向けて出発した。




