第71話 魔石に魔法付与してみる
敷に戻り迷宮行きの準備に取り掛かる。
「ジュリエッタ、何かアドバイスある?」
「そうね。物凄く弱いけどアンデッド系のモンスターも出るから聖属性の魔石を装備したほうがいいわね。魔法で倒せるのだけど魔力もったいないし、時間がかかって効率が悪いから」
「けど購入した魔石に聖属性なんてなかったんじゃ?」
「さっき買った魔石を持ってきて。教えるから、ちゃちゃっとやっちゃいましょう」
「ちゃちゃっとできるもの?」
「魔法の付与は普通は教会で大金を払って付与をして貰うのですよ。もうなんでもありですね」
レリクさんがジト目でぼやく。シャロンさんは達観したように遠い目をしている。
苦笑いしながら武器屋で購入したばかりの魔石を机の上にそっと広げた。
落として割ったら目も当てられないのでそのままジュリエッタに目を向ける。
「それじゃ魔石に指を置いて、ターンアンデッドと念じながら詠唱して」
「そんなに簡単なのか?」
「普通は簡単にはいかないわ。そもそも聖属性のスキルを得る為には、聖属性スキル持ちの家系に生まれるか聖職者になるしかないし、魔法付与のスキルを得る為には、冒険者になってレベル5以上の魔法を習得しなきゃならないのよ。それで16歳の成人の儀を迎え魔法付与師を選択。それから師匠について何年も修行すればってレベルよ」
「ジュリエッタの言うとおりですわ。この国でも聖属性持ちの魔法付与師なんて片手で数えられる人数ですから。聖属性スキル持ちの付与師を他国に行かないように、どれだけ国の予算を取って囲っていることか。って、ごめんなさい。これは言ってはいけない事でした」
なるほど。レリクさんがぼやくわけだ。
「さ。とにかくやってみましょ。頭に聖属性のターンアンデッドの魔法陣を浮かべてみて」
「ちょっと待った。もう一つ教えて欲しいのだけど、ターンアンデッドの意味は分かるけど、単体魔法しか付与できないの?」
「魔石を装備するなら単体魔法を付与するのが常識なの。魔石は消耗品だから長く使うなら余分な魔法は付与しない。これも学園で習うことだと思うけど覚えておくといいわ」
「なるほど。それではやってみますか。魔法陣を思い浮かべるんだね」
「ええ。聖属性の魔法が使えるなら、頭の中でイメージするだけだから難しくない筈よ」
言われたとおり、目を瞑って頭の中でターンアンデッドをイメージすると真っ白な魔法陣が浮かび上がった。なんだこれは。すげーな。魔法がある異世界って素晴らしい。
「ジュリエッタ、魔法陣出てきた」
「でしょ。今度はその魔石に指を置いて、ターンアンデッドって詠唱して」
「やってみる」
すると指先に白い光が現れ、そのまま魔石に吸い込まれるように消えていった、魔石が一瞬白く光り元に戻る。
「うん成功ね。さすが勇者は違うわね」
茶化すようにジュリエッタが言うと全員頷いている。
なんでも、魔法付与のスキルを持っているという条件で、魔力量が足りていれば知識とスキルさえあれば魔法付与は使えるようになるのだとか。
普通はそのあたりの知識は学園で習うらしいけど、これまでだいぶ早送り人生を送っているので知らないままだ。実家にもそんな本は無かった。まあ学園の教科書なんか本棚には不要って考えらしい。それはわかる。
で、シャロンさんとレリクさんの手持ちの魔石にも聖属性魔法を付与してから、自分たちの武器にそれぞれ魔石をセットした。
いくら早送り人生とは言え、一般的に習うことがわからないのは不味いと思い、一足早く寝室へと向かい足りない知識を関係書で補う。
まず魔石に魔法を付与する事についてだが、基本はジュリエッタの言うとおり、魔石に付与出来る魔法は属性では無く単体魔法を原則ひとつ。
で、自分の魔法属性レベルの最大値()以上の魔法は発動出来ない。例えば 火(3)なら、他の属性でもレベル3までなら魔法が使える。要は魔石は同じ魔力で他属性の魔法を発現するためのツールってみたいなものだ。だから魔力が伴わない4以上の魔法は使えない。
その魔石も一定の回数を使うとヒビが入り割れたら使い捨て。使用回数は魔石を見れば大きさなどでだいたいわかるようになっている。細かい魔法操作は必要なく魔力切れの心配はない。
武器に装備する魔石は武器自体に単体魔法を付与するに止まり、使用者魔力で発動。体の一部に触れていないと魔法道具として使えない。
結局魔道具も本人の魔力に関係してくるので安全マージンを担保しなければいけないので複数魔法の付与は危険だとか。
こんなところかな。
婚約者二人も寝室へとやってきたので明日に備えて寝るかな。
いよいよ明日から迷宮だ。年甲斐も無くワクワクしている。いや、子どもだからいいのか。どうなるかな。楽しみだよ。