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第58話 悲しい過去 Ⅳ

 翌日、ヴェルを埋葬しに教会へと向う。せめて葬式だけは誰の手も借りずに私達の手でやりたかった。


埋葬をする余裕の無かった両親を思い出して申し訳ない気持ちになるが、これだけは誰にも譲れない。


私達は、教会に入ると神像に向かって祭壇の前に跪き手を合わせ、ヴェルが安らかに眠れるように祈った。


 すると、目の前が急激に白く光ったので、眩しさのあまり目を閉じた。光が収まったようなので目を開けようとすると、前方から声が聞こえてくる。


「聖女ジュリエッタ。神界へようこそ」


「ここはいったい。いったいどう言う事???」


周りを見ると、そこは見た事のない神殿の中に、老人と美しい女性が立っていた。


「驚いたかね」


「それは驚きます。いきなり世界か変わったのですから」


「うむ。そうじゃろうな。ワシはこの世界の創造神オルディス。こっちの女神はこの世界の時を司る神レリアリーフ様じゃ」


「神様?神様ですか?ちょっと混乱していますがその神様が私に何か御用でしょうか?」


そう答えると創造神オルディスは、ゆっくりと喋り出す。


「本来ならば、勇者と共に呼ぶ予定だったのじゃが、既に勇者の血は失われてしまったので、今回は聖女であるそなたをこうして呼んだのだ」


「勇者の血って?それが失われたとはいったいどう言う意味なのでしょうか?」


「まず、死んでしまったヴェルグラッドと言う青年の話をしよう。彼は本来ならば死んではいけない存在だった。現世の勇者になる男じゃったからな」


「えっ!ヴェルがですか?」


「そうじゃ。あやつが16歳になった時、勇者として神託を与える予定だったのじゃ。あやつは勇者の血を引く一族の末裔じゃからな」


確かに父に幼き頃に聞いた事があった。私の故郷レディアス王国は勇者の末裔が住む国だと。


「ヴェル、いえ、勇者が死んでしまったら、この世界はどうなるんですか!!」


「身も蓋もない言い方をすると星ごと滅びる」


随分と簡単に言う。それから神様は勇者の事について話を始めた。


神様の話を要約すると、勇者、聖女、賢者には勇血と言う血が流れていて、その昔に神と人間の間に生まれた半神半人の神子と言う特別な血筋であるそうだ。


ヴェルの血筋が勇者、私の血筋は聖女、あとは賢者の血筋があって、勇者、賢者の勇血はレディアス王国が滅びて既に途絶えてしまった。


勇血には制約があるようで、勇者は男子、聖女、賢者は女子と決まめられており、16歳を超えると勇者、聖女、賢者にはなれないそうだ。


だから16歳で受ける成人の儀とは、単なる転職の儀式と言う位置づけだけではなく、神の血を引く勇者、聖女、賢者を決定付ける為の儀式だと言う事だった。


よって結果から言えば、勇者の血脈はレディアス王国が滅びた時点で途絶えてしまったので、世界は滅びるしかないと説明された。


「私一人の力では、魔王を討ち滅ぼせれないのですか?」


「それが可能なら勇者などいらぬ。勇者がユグドラシルの剣に勇者の持つ特別な因子を纏いて、魔王の魂を浄化せねば倒せぬのだ」


「そうですよね。安直過ぎました。それではこの世界は滅びるの時を待つしかないのですね」


「そう結論を出すのはない。本来ならワシら神が人類であろうと魔王であろうと手を貸すなどあり得ない事なのだが、今回に限り手を貸す事になった」


「それはどうしてですか?」


「本来ならばじゃ、勇者の勇血が途絶えたとなれば、魔王の魂は永久に浄化はできぬ。魔王が支配する世界でも、それが運命ならワシ達神も受け入れるのじゃが、今回はそうも言っておられなくなった。先ほども申したとおり、今回ばかりはこの星そのものが消えてしまう可能性があるのじゃよ。これを見てみるが良い」


神様は手に持っていた杖を掲げると、迷宮の中で下級悪魔が指示を出して大型の魔物が土を掘る姿が見えた。


「これは何を?」


神様の話では、本来魔素というのは竜脈の地下深くから発生し空気と交わりマナとなる。しかし魔王軍はマナを気化させず魔法で水粒子と結合させる事により、魔素の濃度を高くした液体に物質変換。それを魔王軍は魔力溜りと呼んでいるそうだ。


魔王は竜脈に近い迷宮に穴を掘るように指示をして、地中から湧き出る魔素の濃度を上げようとしているとの事。


魔物の餌は魔素。魔力溜まりから得た液体を魔物のエサである、液体を与える事で魔物は強化されると聞かされた。


「魔王は、そんな恐ろしい事を考えていたのですね」


「そうだ。確かに着眼点はいいがこれを続けるとどうなると思う?」


「どの迷宮もSランク迷宮となり、スタンピードを起こし続け人類が滅びると言ったところでしょうか?」


「半分正解じゃ。魔素を物質変換して液体にするまでは良いのじゃが、水が劣化して再び気化すると人間にも魔物にも毒となる瘴気と化す。つまり人間はおろか魔物もじきに住めなくなるようになる。知らぬとはいえ馬鹿な真似をしおるわい。生き物が住めなくなったら死の星となるのにのう」


「それで神様は、私にどうしろと仰るのですか?」


「魔力溜りを聖魔法で浄化して土魔法で埋め戻して欲しいのじゃが、勇者の血筋が途絶えたのだ。根本的な解決にはならぬ。そこでじゃな。勇者を復活させる為に、そなた達が生まれる前まで時を戻そうと考えておる」


「そんな事が可能なのですか!!」


「そこで私の出番なのよ。時を戻す神力のリソースを得るには、人間界で言うと50年。私達神にとっては瞬きをするような時間だけど、限りある命を持つあなた達人間には途方も無い時間が必要なのよ」


「まぁそんな話じゃ。それに、シルフィスに呪いを掛けられたヴェルはシルフィスの言うとおり、この世界にもう一度転生をしても直ぐに死んでしまうじゃろう。そい言った呪いじゃからな」


「神様でも呪いは解けぬと仰るのですか?」


「死ぬ前ならば出来たのじゃが、死んでしまえば無理じゃ。魂と言うのは、神でも容易に触れるものではない。それに何度も転生出来るほど魂も強くは無い。もし生まれてすぐに死んでしまえば、魂は輪廻に戻る力を失い崩壊して永遠に失われる」


更に神様から更に詳しい話を聞くと、シルフィスが放った呪いには、もし転生して生まれ変わっても何らかの病気で、この世界の医療技術では直ぐに死んでしまうらしい。まったく厄介な呪いだ。


「それでは、あのシルフィスと言う悪魔は、ヴェルもまた勇者の末裔だと知っていて狙ったのでしょうか?」


「それは分からん。何せシルフィスも既にこの世にはおらぬ。じゃが呪いを解く方法が無い事もない」


「どうすればいいのでしょうか?ヴェルが生き返るなら何でもします」


「うむ、殊勝な心がけじゃな。それでは契約をしようではないか」


「契約ですか?」


「そうじゃ。50年もあれば魂の崩壊は防げるじゃろう。それに時を巻き戻せば呪いも失われる。じゃからこの先の50年の間は、ヴェルを異世界の星に転生させる。その星なら呪いの効果はあっても医療が発達した星だから完治は無理じゃろうが生きていけるじゃろうて」


「その異世界でなら、ヴェルの魂は崩壊せずにいられるのですね」


「そうじゃ。それに、この世界が滅びる切っ掛けとなった原因は、元を正せばコレラという菌にある。それを克服した星だと言えば分かるな」


「はい」


「それでは契約の話じゃが、そなたは、神力のリソースが溜まる50年の間、この世界を聖女として守り抜くのじゃ。これは意地悪ではないぞ。星の時間を巻き戻すにしても、星が死んでしまえばもともこもない。この契約を結ぶ気はあるか?」


「ヴェルとまた一緒にいられるのなら、どんな困難にも耐えてみせます」


「宜しい。では契約を結ぼうではないか。ユグドラシルの武器があれば迷宮コアを破壊出来る。剣、槍、杖、好きな形に変幻自在な特別な武器じゃ。そなたに授けよう」


神様から光る木の枝を受け取ると、神様から武器の形はイメージで好きに変えられると言う事で、取り敢えずロッドの形をイメージするとユグドラシルの枝は光を増してロッドになった。原理は分からないが凄い。


この後。神様と契約を交わすと人界へと戻った。



□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■



神との契約から50年、私は迷宮コアを破壊しながら魔王軍と戦った。この間なんとか踏ん張ったものの、竜脈近くのSランク迷宮の攻略が上手く行かず世界の半分は魔王の手に落ちた。魔王は魔素が大量に噴出した所に魔力溜りを作り瘴気に変わるとそこを放棄した。


そこをなんとか浄化して埋め戻そうと迷宮に向かうのだが、Sランク、Aランク迷宮は階層が深く、深ければ深い程、魔力溜りで強化された魔物が強かった。魔物のエサはマナなのだ。強ければ強い程マナの消費が多いのだろう。


なので魔王軍が低ランク迷宮に掘る穴の場所に向っては、それを阻止すると言った具合だ。つまり、魔力溜りを作らせない方向に作戦を変更したのだ。迷宮コアを破壊しないと迷宮が成長し迷宮のランクも上がってしまう。


それに魔王とも二度対峙したが、やつは別格だ。死なない上に魔法攻撃が尋常じゃない。逃げるのが精一杯だった。情けない。


だが戦果も無かった分けではない。Bランク迷宮までの迷宮コアは制覇してし四天王は何度も倒した。だが倒しても倒しても違う上級悪魔が四天王に就任していたちごっこだった。


その途中で共に戦っていた、フェミリエとミラも戦場に散っていった。彼女達もまた、私に付き合って処女を守り通した。処女を守るのは私だけで充分なのに、生涯を懸けて亡くなったヴェルを愛し続けた。彼女達のそも思いに報いる為に、せめての最後はヴェルの傍でと思いで、ヴェルのお墓の隣に埋葬した。


純愛を通した仲間達を思うと嫉妬や独占欲など沸くわけも無く、ヴェルの想いを引き継ぎまっとうした2人に「もし神様との約束が守られたのならまた会いましょう。同じ男を愛した戦友よ」と、祈り願った。


弟のウェールズ、共に戦った戦友と、今生の別れを沢山経験した。過去に戻れば、またどこかで会うことが出来る。その想いだけで生き続けた。


仲間と死別しても涙さえ流さず、ただひたすらに戦いを続ける私のことを人々は冷徹の聖女と呼び敬遠したが、そんなことは私にとってはどうでもいい。つまらないことだ。


聖女は、勇者としか結ばれる事が叶わず、もしそれを破れば、勇血の制約とやらで聖女の力を失うので結婚もせず70歳近くになるが未だ処女のままだ。まぁ、好きになった男もいなかったが。


 約束の50年を迎え、間もなく私は生を受け直すだろう。過去に巻き戻ったら今度こそヴェルに甘えるんだ。嫌がられようが引かれようが今度こそ我慢しない。そう希望を胸にただひたすら頑張り、私は天命を全うした。これは本当の寿命では無いらしいが…やっとだ。やっとなんだ!


私は再び神界に呼ばれると、長年疑問に思っていた事を神様に質問をぶつける。


「なぜ12歳まで魔法を使えないのですか?使えれば魔王軍との戦いで被害もそうとう防げた筈です」


「元々は使えておったのじゃが、物事の良しあしが分からない子供が魔法を使えば、火事で命を落としたり、魔力の暴走で家が破壊されてしまったり、体が耐えられず魔力切れで気絶してそのまま死んでしまうなど色々と事故があったから封印したのじゃよ」


「なるほど、それで神託の儀を受けた後からしか魔法は使えなかったのですね」


「うむ。神託の儀とは魔法の封印を解く儀式。職業スキルはその者の人生。努力を重ねた結果として与え、ジョブとして方向性を示す様にしておる」


「それではユニークスキルとは?」


「ユニークスキルとは前生で功績を残した者に与えておる。唯一ユニークスキルだけは血に刻みこんだ印のようなもので封印出来なかったのじゃが、ユニークスキルの発動には魔力を大きく消費する為、発動出来る子供がいなかったと言う事じゃな」


「ならば、その事実を人類に伝えるえきではなかったのでしょうか?そうすれば救える命もあった筈では?」


「50年前に言ったと思うが、ワシ達神は人間だろうが悪魔だろうが肩入れをする事は無い。禁止をされている訳ではないがな。まあ自力でそこに辿り着くことができればそれはそれじゃ」


ならば、幼い頃から魔力を上げる鍛錬をすれば使えると言う事ね。もし生まれかわったら。やるしかないわね。それで今度こそヴェルを救うんだ。


「では、私にはなぜその理をお教えになったのでしょうか?」


「この50年の間、そなたは契約を守った。聖女としての役割を果たし終えたのだ。その褒美だと受け取っていい。本来なら記憶を封印するのじゃが、勇者が亡くなるまでの記憶は残しておく」


「それ以降の記憶を残すのは駄目なのですか?」


「うむ。それも考えたのじゃが、歴史そのものがやり直しになる過去の記憶が足枷になってもいかん。それに縛られ判断を誤ることになっては本末転倒だしな」


「それでは、一緒に旅をしたファミリエとミラは?!彼女達は死ぬまでヴェルを愛し続け私の使命を果たす為に手伝ってくれたのです」


「よかろう。その件に関しての記憶は何らかの形で残す事にしよう。だが、そなたが転生しても、ヴェルグラッドに転生前の歴史の事や知識ですら、明かしてはならぬ。約束じゃぞ」


私は神様の言う事を受け入れた。死んでいったヴェル、そして家族、仲間、大切な人たちを守れるならそれでいい。仮にこれまでの事を自分しか知らなかったとしても。いずれまた会い共に苦楽を味わうのだ。


「それともう一つ言わなければならない事がある。生まれ変わったら賢者を見つけ出して、その者と合流するのじゃ」


そう言えば、50年前に聞こうと思っていたが、既に賢者の勇血が途絶えていたので聞くのを忘れていた。


「賢者などと言う職業を聞いた事がありませんが?」


「それはそうであろう。コレラで賢者の勇血は途絶えたのじゃからな。詳しい話をするのはやめておくが、その者も勇者と結ばれる必要があるのでな」


「へっ!!結婚するのは私だけでは無いのですか?」


「なぜ、勇者を独り占めにしようとする。人の考える感情は分からん。まぁ、それは良いとしてこれも運命じゃ。お主も確実に結ばれる運命にある。少しは柔軟になるとよい」


「賢者を探すヒントを下さい」


「良かろう。思い出すがいい。勇者の血を引くものはどこの国におったと言われていたのか。そしてその国で早く、そう、神託前からその能力の高さで評判になった者。これ以上は言えぬ」


勇者の血筋と言えば大陸広しと言えど我が祖国にしかない。その中でコレラや魔物で亡くなった傑出した才といえば直接会った事がないが、鬼才と噂されていた王女の可能性が大だ。市井の民の可能性は捨てきれないが、心の内に留めておくとしよう。


「言い忘れておったが、ユグドラシルの武器もまた消滅する。またお主達が12歳になったら、再度新しいユグドラシルの武器を与えよう。それでは時間を巻き戻す」


神様は私が次の質問をする前に魔法詠唱を始めた。


目の前の神界が歪みだす。いよいよ時間が巻き戻りヴェルとまた会える。そう思うと年甲斐もなく心が躍る。そして目の前は暗転をする。


「おぎゃ~ おぎゃ~」


と、何を言葉にしてもそれしか言えなかったが、私は伯爵家の娘としてもう一度やり直す事になった。


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