第56話 悲しい過去 Ⅱ
専属騎士の儀式を受ける為に、朝早くから王都の屋敷を出て、馬車に乗って王城に向っていると「お嬢様。王城の様子がおかしいです」と御者が言うので窓から顔を出して見てみる。すると、王城から赤い狼煙が上がっているのが見えた。
「赤い狼煙って、敵襲?訓練?何かの間違いかもしれないわ」
「訓練なら連絡があるでしょう」
「そうね。馬車を止めて!王城に向かうわ」
私とヴェルは馬車に積んである武器を取り出し準備を整えて、御者が用意した馬に跨り城門に着いたが、いつもなら居るはずの門兵が1人もいない。
「お嬢様!あれを!やはり敵襲です!!」
ヴェルが指差す方向を見ると、兵士が何者かと交戦している姿が見えた。メイドや従者達までもが武器を取り戦っている。所々で倒れている人もいるようだ。やっぱりただことじゃ無い。
「お嬢様は、ここにいて下さい。私が助けに向います」
「何を言ってるの!私も一緒に行くわ」
「分かりました。後方支援をお願いします!」
それから馬に乗ったまま戦っている兵士の所へ向かうと、上空後方からいきなりファイヤーボールが襲ってきた。
「マジカルシールド」
何とか直撃は防いだものの、馬は驚いて私達は振り落とされ地面に転がった。
ヴェルは転がった勢いを利用して立ち上がるとそのままジャンプ。
「エアカッター」と、上空にいる敵に向って魔法を命中させる。落ちてくる敵の正体を見て目を疑った。それは下級悪魔だったのだから。
「下級悪魔だと!まさか!!魔王軍が!!」
この世界には、魔物はいるが悪魔はいない。いや見た事が無かった。なぜなら悪魔とは魔王に仕える存在であって、魔王が500年前に勇者に倒された時に全てが倒された筈だ。
その悪魔が現れたと言う事は魔王が復活する前兆であることを意味する。
それからヴェルと私は、次々と襲い掛かって来る下級悪魔を次々と倒して王城内に向かい、ヴェルは傷つき倒れている兵士を見つけて声を掛けた。
「大丈夫か!しっかりするんだ!いったい何があった!!」
「突然王城に悪魔達が現れ…陛下のお命が…」
兵士は、そう言い残しガクっと力が抜けるように絶命した。
私とヴェルが急いで城の中に入ると各所で兵士が悪魔と交戦をしていたが、仮に王族が討たれたとなると一大事だ。そこで王族がいるはずの執務室に走る。
通路を走っていると兵士があちこちに倒れている。助かる命なら救いたいがどの兵士も体が引き裂かれていて一目で助からないことがわかる。
謁見室に到着をすると、鎮火はされていたが王国旗は既に灰になっていて、周りにはそれを守るように兵士が沢山横たわり地獄絵図となっていた。玉座近くの短い階段には血が川のように流れていて、既に陛下を含め王族は悪魔に皆殺しにされていた。
「酷い!!何てことだ!!」
ヴェルは儀式用に用意をしていた純白のコートを陛下に掛けると、怒りながら涙を流す。すると執務室に繋がる通路から交戦する音が聞こえてきた。
私達は通路で悪魔と交戦する兵士と合流し撃退し。2時間もすると王城にいる悪魔達を全て撃退した。
不幸中の幸いと言うべきであろう。ケガをしつつもマーレ宰相が何とか生き残っていた。
「マーレ宰相!よくご無事でした!」
「すまない。君達のおかげで助かった。しかし陛下達が…」
マーレ宰相は涙を堪えながら、王都にいる私を含めた上級貴族を会議室に集めて緊急会議を開いた。
その結果、王族の代役を立てる事になったので、各公爵に伝達をしようと準備を指示しようと立ち上がった。その刹那、会議室に兵士が血相を変えて飛び込んでくる。
「大変です!!魔王軍が!魔王軍が、西の迷宮都市バーレンより、この王都に向って侵攻を始めました!!」
「なっ!何だと!もっと詳しい情報は無いのか!もう一つの北の迷宮都市ラロッカはどうなっておる!」
「ラロッカについては、未だ情報はありません。ですが、迷宮に張ってある結界石が悪魔に壊され、迷宮から次々と魔物が溢れかえりバーレンは陥落したと!!」
「それで数と距離は!」
「数は推定5万、魔王軍の第一陣は、既に時間にして約1日の距離だと!」
「そんな数の魔物がこの王都に向っているとは!!こうしてはおれん!緊急の狼煙を上げた後、各領地に迷宮の結界を守る様に指示を!各公爵閣下達に連絡をしつつ、武器を取れる冒険者や民は武器を!戦えぬ女、子供達は直ぐにこの王都から他領に退避させよ!ここにいる上級貴族と専属騎士は、直ぐに自領に戻り兵を挙げ町を守れ。いやそれじゃ間に合わぬ。直ぐに伝書鳩を飛ばして町を封鎖するのだ」
「しかし、それでは民達がパニックになります!王都はどうなるのですか!!」
「王都は、王都に残る私達が下級騎士と学園の者達を引き連れる。このままでは、王都は陥落をするやも知れぬ。陛下達は崩御されたが城は無事だ。学園迷宮の封印の魔石を守るために、守りを固め最悪な事を考え従者達は篭城作戦に備えよ!」
私とヴェルは命令に従い竜車に乗り、体制を整える為に王都を出た。宿場村はまだ無事だったので、大きな町に避難するように指示を出しながら竜車を飛ばした。
だが街道に張ってある結界は全てとはいわないが結界石が壊されて、ジェントの町に近づくほど魔物が増えていく。
最後の宿場村付近に差し掛かると、夜なのに人々が走って逃げてくる。
「助けてくれ!!宿場村とジェントの町が魔物に襲われている!!」
「遅かったか!!あなたたちは一刻も早く他領の大きな町に行くんだ!!」
宿場村の門に辿り着くと、兵士と冒険者はコボルドやオークと戦い、門にいる下級悪魔が魔物を従え人々と戦っていた。その数見た目だけでも100体以上。
私とヴェルは見捨てる事が出来ず、門の入り口の下級悪魔を排除。人々を村から逃げるように誘導した。
それから、兵士や冒険者と共に戦い、なんとか魔物から村を救うことに成功した。
「すまない。あんた達のおかげで助かった」
「いいさ。それじゃオレ達はジェントの町に向う。あんた達も食料を確保して他領の大きな町に行くんだ」
ヴェルがそう言った瞬間、ジェントの町の方向からカンテラランプで道を照らしながら、大勢の人々がこの村になだれこんできた。
「どうした!何があった!」
「大変だ!!ジェントの町が魔物に!!」
私とヴェルは顔を青くして竜馬と竜車を外して、竜馬に跨りジェントの町へと急いだ。
『なんとか間に合って!!』
神様にそう願う。だが、その道中も悲惨であった。傷つき倒れている人々、既に息絶えた遺体、それらで道が道でなくなっていた。
急いではいるが、竜馬から降りて私達は竜馬の手綱を引き、魔物を倒しながらジェントの町へと向う。町にたどり着いた時には既に門は完全に破壊され、建物からは火炎の熱が町を覆いつくし、人々の遺体がそこらじゅうに散乱している。既に町は魔物に支配されて陥落していた。
「そんな!!お父様達は!」
私は、この状況に絶望しているとヴェルは涙を堪え怒りを顕にしていた。
「兵士達はどうしたんだ!こっ・こんな事が許されてたまるか!!お嬢様!屋敷に急ごう!」
ヴェルは剣の柄を握り締め、歯を食い縛る。
「ええ。屋敷にはまだ私の家族3人が残されている筈!!」
ヴェルは、待ち構えるブルーコボルド、レッドオーガなどのCランクの魔物の軍勢に飛び込んで行った。
下級悪魔や魔物を排除しながら町へと入ると、ブルーコボルトと戦う冒険者達を見つけたので声を掛け、一緒にブルーコボルトを殲滅した。
「ありがとう。命拾いをした。あなた達は騎士ですか?」
4人パーティの冒険者の若者は私達の姿を凝視する。
「ああそうだ。状況を聞かせてくれないか?」
「王都から連絡がありこの町の門も封鎖されたんだが、いきなり悪魔が大量の魔物を引き連れてこの町を包囲したんだ!!緊急事態用の鐘が鳴ったからギルドへ行ったらギルド長直々に緊急依頼が出んで、門を守りに兵士達と向ったんだが、門は瞬く間に破られて魔物と戦ったが、倒しても倒しても次々と魔物が沸いてきてこのありさまだ!」
冒険者のリーダーぽい若い男は悔し涙を流しながらそう説明した。
「くっそ!ここも王都と同じか!それで住民達は?」
「住民達は、逃げれる者は地下の下水道から逃げたが、この有様だ。何人生き残っているのかは把握出来ない」
「分かった。とにかくここは危険だし時間が無い。君達も早く他の領地の大きな町に行くんだ。国軍と冒険者で協力して軍を再編成をしなければ国が終わってしまう」
「ああ、分かった。生まれ故郷を守る為だからな。冒険者を集めて軍に協力しよう」
ここで魔力を使う余裕がなかったので、ポーションとレーションを渡すと冒険者パーティは私達に礼を言って去って行った。
それから、竜馬に跨って兵士や冒険者を助けながらも急いで何とか屋敷に戻った。だが、屋敷の扉は破壊され、レリク達護衛兵士は玄関前で既に事切れていた。
私は涙を堪え、手を合わせ冥福を祈る。
「みんな。屋敷を守ってくれてありがとう。このままでごめんね」
「お嬢様!ここは私が食い止める。屋敷の中へ!」
「ヴェルありがとう。行ってくるね」
私達は竜馬から降りると、ヴェルは屋敷の門の付近に聖水を撒き門を閉めた。
涙を堪え私の家族を守ってくれたレリク達に感謝してから屋敷に入ると、従者達はあちらこちらで息絶えていて、父もまた魔物との戦いで亡くなっていた。
母はなんとか息はあるものの片足失っていて、治癒魔法で出血は止まったが失った血が多すぎて顔が青ざめていて意識が朦朧としている。
【ガタ】
「だっ、誰!!」
「僕だよおねえちゃん~!!」
隠し部屋に隠れていた弟のウェールズは、、私の顔を見ると泣きながら胸に飛び込んできた。
「無事で良かった!!」
母は私達に気付いたのか、涙を流しながらその姿を見ていた。
「お母様!!しっかりして!!」
私とウェールズは、お母様の傍に駆け寄ると母は小さな声で、
「二人ともよく聞いてちょうだい。私はもう駄目よ。魔力を使い果たしてしまったし、片足を失ってしまったわ。ジュリエッタよくお聞きなさい。ウェールズを連れてこの国を離れ安全な国へ逃げて」
「お母様と一緒がいい」
「ウェールズ、それは無理な相談よ。お兄ちゃんとお姉ちゃんが必ずあなたを守ってくれるわ。一生懸命に生きて幸せになって」
母は僅かに微笑みそう言い残すと息を引き取った。
「「お母様!!!」」
号泣する弟のウェールズを抱え屋敷を出ると屋敷は魔物に囲まれていた。
「お嬢様。早く竜馬に乗るんだ。ここを突っ切るしかもう助かる道は無い」
「もちろん、ヴェルも一緒だよね!」
「ああ。俺は君の騎士だ。君達を残してこのまま死ねるものか!」
ヴェルは、任せておけと胸を叩く。何と頼りがいのある騎士なんだろう。私達は竜馬に騎乗すると、ヴェルは最大火力で魔法を放つ。
「ファイヤストーム」
ヴェルがそう詠唱すると門ごと魔物炎に焼かれて消滅。竜馬は跡形も無くなった門をくぐりぬけ、魔物との交戦をしながら何とか町の外に出た。
それから、私達は、魔王軍の目をくぐり抜けて何とか自領を出ると、朝日が昇り始め王都から逃げてきた兵士と鉢合わせた。
兵士の話では私達が旅たった半日後に、空中から下級悪魔が操るワイバーン達が現れ、学園迷宮の結界石を破ると一斉に魔物が攻め込んできと言う。
王城は篭城作戦も出来ぬまま落城。学園で一緒に学んだ多くの友人、先生もまた魔王軍と戦って学園ごと壊滅したとのことだ。私達は言葉も無くし、ただ涙を流すことしかできなかった。
それから数日後、国境付近の村や領地も迷宮から現れた魔王軍に落とされて、上級貴族も全滅。ひと月もかからぬうちに私達の祖国は地図から消えることになった。
泣きじゃくる私はヴェルに肩を抱かれながら、近くの村の宿屋に入り、ウェールズと一緒にヴェルの胸と背中で泣いた。いつの間にかヴェルの体はお父様より大きくなっていて、少しだけ心が落ち着いた。
私達は街道を迂回しながら、ギルディス帝国に向うことになった。小さな村で聞いた噂だが、アーレン王国も魔王軍に滅ばされたようだ。中央に位置していた2国が滅亡したことにより大陸は分断され、各国が連携をとるのは困難になった。
魔王は最初からそれを狙っていたようにアーレン王国の王城を魔王城に作り変え、人類に宣戦布告。このままでは世界は滅亡を免れない。私達は魔王軍に復讐を果たすべく旅に出る事を決意する。
1ヶ月掛けてなんとかギルディス帝国に到着すると、幼いウェールズには悪いが足手まといになるので、教会の孤児院に預ける事にした。
「僕もお姉ちゃんと、お兄ちゃんのように強くなって、必ず一緒に戦うから必ず生きて戻って来てね」
「分かったわ。あなたもちゃんと教会の人の言う事を聞いて、がんばるのよ」
それから、活発に動き始めた魔物とそれを操る悪魔と戦いながら、各国の精鋭達と連携する為に各国を巡る旅を始めたのだった。




