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第55話 悲しい過去 Ⅰ

―― ジュリエッタSIDE ――


今を遡る事1年、500年の時を経て魔王が復活を遂げた。四天王と称す配下の悪魔達が操る魔物の前に、我が生まれ故郷レディアス王国は亡国となった。


この話は過去に遡る。


私とヴェルの出会いは、ヴェルの父様の30歳の誕生日パーティーに呼ばれて行った時だ。


この頃の私は、上級貴族の娘と言うことで、子供の自分にも媚びたり機嫌を伺うような態度を取る周りの大人やその子供に本当に嫌気が差していた。


そんな時期に出会ったヴェルは常にこちらを伺ってくる周りの子供とは違い控えめで、かわいい弟のようでとても新鮮だった。


私の誕生日パーティーのときも、歳が近い事もあって二人で話すこともあったのだけど緊張しているのか「はい」「いいえ」の返事ばかりだった。それでも次第に打ち解けたようで言葉数も増え、友達のようにいろんな話をした。


少し頼りないところもあったが、何かこの子を守ってあげたい。どことなくそんな気持ちになったと思う。


それからも、遠縁とは言え血縁者で、また私が住む屋敷から近い事もあって、ちょくちょくは交流を持つ事になった。私は友達としてだけではなく本当の弟のようにヴェルを可愛がった。


それから、私が10歳になると、運命の日が訪れる。コレラだ。


コレラが流行り出すと、国中で厳戒令が敷かれ、私は屋敷で一人ぼっちで3ヶ月の間過ごす事になる。家庭教師の文官達も自宅待機で、なによりも母が妊娠中なので実家に帰っていてため、侍女はいたが話をする事もあまりないので、ずっとひとりぼっちだった。


それから3ヶ月が過ぎようとした頃、厳戒令は解かれたが、ヴェルのお母様がコレラで亡くなったと、おじい様に聞かされた。


お父様も単身で王都で対応していてかなり大変だったようだ。なんでも王女殿下であるマイア姫がコレラに感染して薨御されたそうだ。鬼才だとは聞いてはいたが病には勝てなかったようだ。


それからは、ヴェルとの交流が途絶えた。こちらから連絡をしても今はそれどころでは無いらしい。ヴェルのお母様もまたコレラに感染して亡くなったのだ。


「辛い思いをしてるんだろうな。直ぐにでも行って慰めてあげたい」


そう思い父を説得するが、コレラの流行りが収まったばかりのこの時期に、父が簡単に外出を許す筈もなく、会いたい気持ちをぐっと堪えた。


それから12歳になると、私は神託の儀を教会で受けて、めでたく目標としていた治癒魔法師となった。


浮かれ気分で教会から屋敷に戻ると、いつも元気だけが取り得のような祖父が、深刻な顔をして父と執務室へと入っていった。


何事かと思い、従者を言いくるめて離れて貰う。意外に上手くいくものだ。それから扉に耳を付けて、聞き耳をたてて聞いて見る。スパイ活動のようでドキドキする。


「ヴェルが、義母に折檻を受けて重傷を負った。出来る治療は施したが、どうも塩梅が悪い。義母を問い詰めたら教育だと言い張り、重症を負ったのはヴェルが悪ふざけをして階段から落ちた事故だったと申しておる。だが傷跡が多数あるうえに、従者の話と食い違いがありすぎる」


「それで、アルフォンスは何と言っている」


「息子は…アルフォンスは、すでに酒なしでは生きていられない腑抜けになっておった。今は治療所で療養中で、見舞いに行ったが何を聞いても知らんの一点張りだ。グレースがコレラで亡くなってから、ヤケ酒を飲んでいるとは聞いておったが、まさか商売女と再婚するとは思わなんだ。それにヴェルと同じ歳の連れ子は、ヴェルが痩せこけておったのに対してぶくぶくに太っておったわ」


「義母の狙いは、自分の息子を上級騎士にすることなんでしょうね」


「うむ。ヴェルは賢くてかわいい孫だ。何とか助けてやりたいがいい案が浮かばん」


その話を聞いて私は居ても立ってもいられなくなり、叱られるのを承知で扉を開ける。


「お父様。それなら私が勉強を教えると言う事にしてはどうでしょうか?嘘でもいいから、そう言って連れ出さないと取り返しのつかない事になります」


私は無我夢中でそう懇願をする。ヴェルは必ず助ける。なぜかそう思った。


「ジュリエッタ、いつからそこにいたんだ。盗み聞きとはあまりいい趣味ではないな」


「お父様!!真剣な話をしているんです。先ほどの話が本当なら一刻も早く行動に移して下さい」


机を叩いて詰め寄った。これじゃまるで脅しだ。しかし、それが効いたのか、父は驚いた顔をしながらも頷く。


「そうだな。ジュリエッタがなぜヴェルにこだわっいるのかは知らんが、そこまで言うなら助けよう。よし、そうと決めたら、あまり褒められたものではないが伯爵家として要請する。ヴェルを強制的に保護しよう。ジュリエッタ…助ける以上はヴェル君の面倒はしっかり見るんだぞ」


「ありがとうございます。私にお任せください」


そう決まると、行動は早かった。


流石の義母も伯爵家が来たとなると逆らう事が出来ず、父が重症で自室で寝ていたヴェルに治癒魔法を掛け、動ける程度に回復させた。


ヴェルは、また何かされるのではないかと怯えて震えていた。


「それにしてもこれは酷い。よくも子供にここまで酷い事が出来た物だ。貴様達!覚悟は決めておけよ!」


「お待ち下さい伯爵閣下!!これは事故です。そう、階段から落ちたんでございます。ねっ!そうでしょハイド!」


「そのとおりです伯爵閣下」


どう見ても、ヴェルの体に残る傷はそうではない。背中にみみず腫れがありムチに打たれた形跡もある。


「王宮医療技師を舐めるな!!私を騙そうなど不届き千万な親子だ!レリク!こやつらを牢にでもぶちこんでおけ」


「御意!!」


我が父ながらカッコいいと思った記憶がある。


そしてこの事件は意外な続きがあった。


それからほどなくヴェルの父様が衰弱して亡くなった。死因は長期にわたる毒の摂取。本人は気付くことなく療養先で亡くなったという。


父によれば、牢にいる義母を様々な方法で厳しく問い詰めたところ、隣国のアーレン王国の間者だと白状したそうだ。結婚してから少量の毒を盛り続けたと言う。コレラで弱った貴族を内部崩壊させる命令を受けていたらしい。


父の逆鱗に触れた二人は即刻、処刑された。


貴族の一家を陥れたんだ、これは当然だろう。もはやコレラすらアーレン王国仕業なのではないかと疑ってしまう。


この事は父も同じように思ったようで、陛下に詳細に報告して調査を行うと、各領地で見つかった間者がいると発覚したが、証人となる間者達は次々と自害。


アーレン王国に事実を伝え、遺体を突きつけ外交的圧力を掛けるものの間者は全員自害し証拠不充分だと、効果のある追及は出来なかったらしい。弱腰外交にも程がある。


それから1年の間、私はお父様の言いつけどおり、剣術はレリクが、私は勉強をヴェルに教える係を引き受けた。


ヴェルはもの凄く優秀で、剣術はみるみる上達し、勉強も寝る間を惜しんで努力をしていた。ヴェルの父は騎士の血筋なので神託の儀を教会で受けて剣士となった。  


この時点で私はヴェルの事を友達や弟ではなくそれ以上の存在として意識をしだす。


「ヴェル。あまり無理をしないでね」


「いえ。助けていただいたこの命です。お嬢様をお守りするためにはまだまだ努力しなければ」


私はこの言葉に痺れた。天にも昇る気持ちになる。


「ねえヴェル、それなら学園に入ったら主席になって、私の専属騎士になって」


専属騎士。なんとかっこいい響きなんだろう。実は憧れていたのだ。だが、私もヴェルもこの時、専属騎士とは婚約を交わすのと同義だとは知らなかったのだ。


それからヴェルは学園に入り、努力の結果本当に学園の主席になった。容姿もあって身分関係無く、かなりモテていた。


当の本人はまったく恋に興味がないようで「私には既に心に決めた人がいます。申し訳ありませんがお付き合いする事はできません」と、ことごとく断りまくる。


『それって私の事…でいいのかな』


と、私は浮かれ半分に不安半分。


お互いの性格もあり行動や言葉では示していなかったが、私はすでにヴェルの事が好きで好きでたまらなくなっていた。


その頃には専属騎士=婚約と知ってしまった私は、子供の約束でヴェルを縛るのはズルいとは思いつつも、父にヴェルを専属騎士にしたいと話す。が「勝手に私に相談も無く約束するなっ!」とめったに怒らない父が私を怒鳴った。


だが意外だったのは他人を見る目は厳しい母がヴェルの事を認めた事だった。母曰く、なんでも光るものを感じるらしい。皮肉なことにその理由はヴェルが亡くなってから判明することになる。


卒業式を1週間後に控えた私は再びヴェルを専属騎士にするんだと両親の説得を試みた。


この頃のヴェルは飛び級をしてもなお、2年連続で学園主席と言う事もあって説得の末両親に認めて貰える事になった。


ヴェルも嬉しそうにはにかんでいたので、心の底から安心し嬉しくなった。儀式が終ったら今まで溜まっていた思いを正直に話そうと決意する。


これで、本当の意味で恋人となり婚約者となれる。私は浮かれまくる。今思えばこの時が一番幸せだったのかも知れない。


浮かれ気分でヴェルと専属騎士の儀を受けるため王城に向かったのだった。


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