第46話 3人一緒
帰りの馬車はマイアも一緒だ。今日から突然同居する事になったのだからジュリエッタもさぞかし驚くだろう。
じいやさんだけマイアと一緒に寝泊りをする事になったので、後からマイアの分のお泊りグッズを持って来る事になった。
王宮の外に出ると、マイヤ専用の馬車が扉を開け待っていた。
マイアの手を引いて馬車に乗り込むと「それではお母様行ってまいります」と挨拶を済ませる。
「ヴェルさん。この娘はこう見えても言い出したら聞かないから、ご迷惑をお掛けしますが宜しくお願いしますね」
と、王妃様がそう心配そうな顔をして耳打ちをする。
『はっはっは。こう見えても?言い出したら聞かないところしか見たことありませんぜ?奥さん。普通のお嬢さんは初対面で結婚を決めたり3回目には同棲するとか、そういう事は無いのですよ』
苦笑いをしながらそう心の中で悪態をつく。
「ワガママばかり言うと、専属騎士を解消されても文句は言えませんからね。そこだけは気を付けなさい」
「もちろんですわ。出戻りなんて最悪ですもの。がんばりますよ。それではおやすみなさい」
「「おやすみなさい(ませ)」」
王妃様と護衛の兵士達に見送られながら、馬車は王宮から離れていった。
馬車が走り出すとマイアがやたらとくっ付いてくる。悪魔が急襲してきたから怖いのかな?
「今日の事をまだ引きずってる?」
「いえ、そうじゃありませんよ。わくわくが勝ってしまって、テンション上がりまくりです」
「それにしてもヴェル。本当にカッコいいです。同じ歳なのに上級悪魔を倒せる程強いなんて、まるで英雄譚のお話のようですわ。今までも、さぞかしおもてになったでしょう」
「いや、君とジュリエッタだけだから。言い寄ってきたの…そもそもジュリエッタ以外、同年代の知人ていなかったし」
「そうですわね。ヴェルとつりあいが取れる女性などそうそういませんわね。失礼をしました」
ちょっと先走り過ぎるなあ。思い込み激しいし。ひとつ言ったら2つも3つも考えるんだ、この娘は…
「それにしても、9歳なのによく魔法を覚える気になったね」
「当然ですわ。ジュリエッタもすでに使えるのなら、私も負けてはいられません。あっ、これは競争意識では無いです。ヴェルをお守りしたい一心なので勘違いしないでくださいね」
ちょっ、ちょっと疲れるよマイアさん。そう言いたいがマシンガントークは止まりそうも無い。じいや早く帰ってきてくれ。
それからもマシンガントークは屋敷に着くまで続いた。当然そうなると屋敷へ到着をする頃にはオレはぐったり疲れきっていた。おっさんはもう駄目だ。疲れちゃったよ~
屋敷に到着をすると、着替えを済ませたジュリエッタが待っているのが見えた。馬車が到着するとレリクさんが馬車の扉を開けてくれた。
「ただいま。あれ?お風呂はどうしたんだい?」
ジュリエッタを見てみると、着替えはしたものの、風呂に入った感が見受けられない。
「それがね。お湯を抜いちゃったから、またお湯を張りなおしているのよね。あら、マイアも来たの?」
「ええ。計画前倒しって感じですかね。そんなわけで、今日からお世話になる事になりました。よろしくど~ぞ」
なんだか喋る度に、マイアの言葉とイメージが崩れていくような気がする。今までよほど自分に合う友達がいなかったのだろう。疲れるけど釘を刺すにはまだ早いか…
「そっか。どうせ、あと何日かしたら一緒に住む予定でしたからね。前倒しぐらい気にしないわ。それじゃ中に入りましょうか?」
「はい。これからお世話になります」
ジュリエッタもあっさり受け入れた。レリクさんに後から来るじいやさんのための部屋の用意を頼むと、快く引き受けてくれた。物分りのいい人達ばかりで助かる。
屋敷に入ると、ウォーレスさんとジュリエッタに今日陛下に話したを伝えると「やはりな。マイアが来るのは想定内だったよ」さすが閣下。察しがいい。っていうか読みすぎだろ。
それから、ジュリエッタは陛下の会合の内容を聞いて終始驚いた顔をしていたが、王室典範に書かれている勇者や魔王の話になると険しい顔になった。何か思い当たる事でもあるのかな?口を開かなかったので敢えて聞きはしなかったけど。
部屋着に着替えるために客室に戻ると、スラすけに水をやる。まるで花に水をやる感覚だ。
「ほ~ら。よく飲むんだぞ~」
スラすけはぴょんぴょん跳ねる。なんだか癒される。
部屋着に着替えるとノックをする音が鳴った。誰かはなんとなく予想できるけど、いきなりドアを開けれれるよりましだな。
「ど~ぞ」と返事をすると、二人が「へへへ。来ちゃった~」とにやつきながらやって来た。予想どおりだよ。なぜにやけているのか分からないけど、嫌な予感がする。
「どうしたんだい?2人揃って」
「部屋を移って。この部屋じゃ3人寝られないわ」
「えっ、3人で寝るなんてむ、あちゃ~っ」
無理だと言いかけると。再びお尻を抓られる。もうそろそろ学習しようぜ!オレもよ~
そんな痛い目にあいながら、スラすけを連れて部屋を移動する。
「へ~ これが清流スライムでリン・イン・シャンの源になるのね。かわいいい~。ちょっと触ってもいいでしょうか?」
「かまわないよ。ちなみに名前はスラすけって言うんだ。呼ぶならそう呼んであげて」
「名前もプリティーね。これからも色々な意味でヨロシクねっ。スラすけ」
マイアがそう声を掛けると、すらすけはぴょんぴょん跳ねる。言葉が通じるわけないのにな。
スラすけを構っていると、メイドさんが「皆様、お風呂の用意が出来てございます」と伝えに来た。
「それじゃ、お風呂に入ってこようか?」
ジュリエッタがそう言うと、マイアが頷く。
「ごゆっくりど~ぞ」
二人が風呂に向ったので、自分も風呂の用意をして、二人が風呂から上がるまでホールで待機していると、じいやさんがマイアのお泊りグッズを持って戻ってきた。
「じいやさん。お疲れ様です。マイアは今入浴中です」
「申し訳ございません。姫様は私が居ないとタガが外れるので大変だったでしょう」
「ああ、やっぱりですか。じいやさんが抑止力になっているんですね」
俺が苦笑いしていると、じいやさんは察してため息を吐く。
「ええ。幼い時から私の様な老人といた為か、子供らしさを失われまして不憫な思いをさせました。同じ歳で会話の合う子供などいませんでしたから。しかしながら、姫様は自分と同じ、いや自分以上のあなた方お二人に出会ったのです。まさに姫様にとって突然の僥倖。それが嬉しくて仕方が無いのでしょう。これからも、姫様の事を末永く宜しくお願いします」
なんだか最後はしんみりしてしまったが、ジュリエッタもそんな自分に惹かれたとも言っていたまあこるらも縁だろう。
着替えをマイアに届けると、二人はドライヤーで乾かしあっていた。仲良し姉妹を見ているようで、なんだか微笑ましい。
「マイア、じいやさんが着替えを持ってきてくれたから、ここにおいて置くよ」
「使ってしまって申し訳ないです」
「いいんだよ。それじゃ僕はホールでじいやさんと一緒に、お茶してるからごゆっくり」
二人が脱衣所から出くると、飲み物を飲んだ後に風呂に入り、寝る準備をするために一緒に歯を磨いて寝室へと向った。
寝室に入ると、先ほどまではベッドが離れていたが、いつのまにやらベッドはくっつけられていた。
「やれやれ」
そう小声で言ったが、その声は届かなかった。ベッドに三人腰掛けてマイアの魔法属性を見る。マイアにはスキルの事について正直に話そうと思う。
「マイア、陛下が使える嘘を見破れるスキルに挑戦しようか。魔力操作も出来ないのに攻撃魔法なんて使ったら大惨事になるからね」
「実は私お二人に黙っていた事があるのです」
「んっ?何?」
「実は私の瞬間記憶能力はスキルのようなんです。だから、黙っていてごめんなさい」
ああ、やっぱりそうだったのか。それから瞬間記憶能力について、目覚めてから今までの経緯を一通り聞いてみた。まあなんというか。ここまで都合がいいと偶然で片付けていいものか考えちゃうな。
「それじゃ、寝る前に本を気絶するまで読んでいたのかい?」
「ええ。一気に読む感じではなく、物語をゆっくり読みながらです。そうしないと頭には入りますが、楽しめないので」
「確かに楽しめないと飽きるし、作業のようになってしまうわね」
「そうなんです。理解していただけて嬉しいですよ~」
「それじゃさ。魔法は試した事はあるかい?」
「魔法は試していません。うっかり成功して大騒ぎになったら困りますから」
「確かにね。それじゃ今日は魔力を使いながら、マイアに何か本を読んで貰おうかな」
「はい。お任せ下さい」
そんなわけで、3人でベッドに入る。とは言っても、お子様同士だから興奮もしないし何もしないけどね。
「本当に楽しいです。何をするにも3人一緒って」
「本当ね。これが毎日続くと思うと最高ね」
「そうするにはこれから現れる魔王を倒し、平和を手に入れなきゃならない。力を合わせてがんばろうじゃないか」
「そうですね。魔王なんかにこの素晴らしい生活を取り上げられてなるものですか」
「うん。魔王が現れるまで、あと最低で5年。鍛錬して備えましょう」
マイアが読み聞かせをするように英雄譚を読む。さすが、毎日読んでいるだけあって吟遊詩人のように物語を読むのが上手い。
マイアは朗読の途中で気絶してしまい、オレとジュリエッタも魔力を開放しながら一緒に気絶した。