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第43話 急襲

王城へ向かう馬車は宴の開かれる正宮へ向かう。


広い王城はいくつか区分けされており、正室の家族が住まう王宮、側室の家族が住む別宮の他に政治ブロックやらなんやら。この辺りは俺が小説に書いていた内容と変わりはなく、王宮の入り口は階段になっていて見た目はギリシャの神殿風だ。


「さあ。着きましたよ」


レオールさんが馬車の扉を開けたので二人をエスコートして降りると兵士達が並んでいて一斉に敬礼。一糸乱れぬ動きに規律の高さがうかがえた。


敬礼する兵士を横目に階段を上がり終えると眼前に飛び込む景色は正に圧巻だった。柱の1本1本まで繊細な彫刻が施されており、その意匠は柱によってさまざまだ。迫力が凄い。


白をベースとした王宮の壁が夕暮れのオレンジ色に染まり、その織りなす影とのコントラストが息が止まるほどに美しい。


オレは息を飲んだままで終始笑顔な二人の花を両腕に携え、先導するレオールさんに着いて行くと、俺達に気付いたウォーレスさんとレリクさんが笑顔でこちらにやって来た。


「おお、3人とも。正装が良く似合うじゃないか。あと20分で宴が始まるから中で待つといい」


「お待たせしまして申し訳ありません」


「まだ、時間には早いよ。社交辞令はいいから早く入りなさい」


「もぅ、お父様ったら挨拶を省くなんて、上級貴族が聞いて呆れるわ」


「すまんな。身内に時間を掛けれる時間が無いんだ。これでも私は王宮医療技師だからな。他国の要人にも挨拶をしなくちゃならないし」


「今喋っている言葉を挨拶にかえればいいでしょう」


「そりゃそうだな。失敬したよ」


全員が笑いながらのこんなやり取りも家族の一員だと思うと随分と心象が変わる。いいものだ。


開かれた4メートルを超える大扉をくぐり会場の中に入ると、無数の視線がこちらに向かう。


駆け寄ってきたじいやさんに、予め決められていた席へと案内をされると会場を見渡すと天井には金細工が施された彫刻が。いや、この建物、何から何まで凄いんだけど。芸術に疎いオレが感心するくらい素晴らしい。ちゃんと教養がある人が見たら圧倒されるのだろうな。


各テーブルには、コップ、氷、お酒やジュースが置かれていて、会場の壁際は所狭しとオードブル的な料理が並べられていていた。壇上近くを見ると、オーケストラの演奏者が楽器を持って椅子に座り始めていた。


「それでは、わたくしは王族の席に参ります。また自由に動けるようになりましたら戻って参ります」


「王族も大変だね。あまり無理はしないように。また後でね」


「ええ。それでは」


マイアはそう笑顔で答えると、王族達が集まる席へと向って行った。改めて思うが9歳とは思えない風格だ。


それから、ウォーレスさん達が戻ってくると、入り口の扉は閉じられる。


「お疲れ様でした」


「ああ。正直、肩がこるよ」


気持ちは分からなくもない。俺なんてこの衣装だけでもそんな感じだ。体力や鍛える筋肉が違うのか?そう思っていると、国歌が流れ始めて王族が壇上に上がっていく姿が目に入る。


王族がそれぞれの位置に付くと、国歌の演奏が終るまで目を瞑り右手を胸に当てていた。周りを見るとみな同じ姿勢だ。慌てて俺も同じように倣う。『聞いてねーぞ』と聞こえないようにボヤく。


国歌の演奏が終り、目を開けると陛下が3歩前に出て、マントを翻しながら両手を広げ喋り始める。


「今日はよく集まってくれた。コレラも収束し皆が無事乗り越えられた事を祝う宴だ。既に知っているだろうが今回このコレラに打ち勝つべく知恵を生み出した英雄がここにいる。ヴェルグラッド伯爵。余の元へ」


えっ!突然呼ばれたぞ?そういう大事な事は事前に言ってくれよ。いくら身内っからって無意味なデモンストレーションやサプライズはいらねーから。わかるか?オレだって心の準備が必要なんだよ。こういうのが快感って奴らとは違うんだから。


みんなが注目をしていると思うと、緊張して心と体が離れたように強張るような気がした。目を瞑り『落ち着けオレ。これは契約のためのプレゼンだ。このコンペは絶対に勝ち取らなくちゃいけない。緊張してる場合じゃないぞ』と暗示をかける。そうだ。さあ胸を張れ。いけるか?オッケー。さあ行こう。


陛下の待つ壇上へと上がると、会場に集まる面々に向って一礼をする。もちろん、この国の格式に倣ってだ。


「上級貴族には昨日儀式を通じて伝えたが、このヴェルグラッドと我が娘のマイア、そしてジーナス伯爵家の娘であるジュリエッタ、この両名と専属騎士として儀式を交わした。他国の要人並びに大商人の諸君、わが国を救ったこの英雄に拍手を!!」


そう言うと万雷の拍手が会場に鳴り響く。耳鳴りを起こしそうなぐらい大きな音だ。そして、拍手が鳴り終わると陛下が口を開く。


「それでは前置きはこれぐらいにして、宴を始める。皆のものよ。今宵は楽しむがよい」


陛下の言葉を合図に音楽が流れ始める。一言挨拶をと言われなくて安堵する。


宴が始まると、陛下の思惑どおり自分の娘を紹介する貴族はいなかった。が、それでもオレの周りには人だかりができていた。


「この度は我が領民をお救い下さりありがとうございました。もし大勢の民が亡くなっていたと思うとどんな言葉でも言い尽くせません。フォレスト伯の叡智にただただ感謝を」


こんな感じで、次々と上級貴族達が挨拶にやって来た。あまりにも数が多すぎて名前を覚え切れない。まあその必要も無いだろうが。


それでも、公爵、侯爵とは顔繋ぎはしないといけないので、極力がんばって覚えたつもりだ。上級貴族達の次は大商人達もやってくる。狙いはシャンプーだな。


「それにしても、その素晴らしい髪の艶、伯が新しい洗髪剤を発明したと聞き及んでおります。是非我が商会に取り扱わせていただけないでしょうか?」


「商業ギルドに話をしてありますので、そちらを通してお願いします」


それについてはさらりとあしらう。


まあ全体を通して概ね予想通りの結果だった。そう言やマイアに手土産として渡した物はどうであったんだ?先ほどは緊張していたので見もしなかったけど。


そうして改めて王族達を見てみると全員がサラサラ・ツヤツヤだ。なんだよ、反応早いじゃないか。


それから、他国の要人と挨拶を交わしてからやっと食事にありつける。客観的に見てオレは子供なんだからさ、メシ、先なんじゃねーの?無駄に大人扱いされてる気がする。


オードブルが下げられ、食事そのものはじいやさんが新しい物をメイドさんに指示をして持ってきてくれた。出てきた料理は見た目も鮮やかな上に、その味は筆舌に尽くしがたいほど美味かった。ナスも入って無かったし。


食事が終わるとダンスの時間となる。まずジュリエッタと踊る。ジュリエッタは俺の前に立つと「肩の力が入りすぎよ」と苦笑する。


「勘弁してくれ」


「そうだったわね。気楽にいきましょう」


ジュリエッタは笑顔でそう答えると、足を引き膝を曲げ、見事なカーテシーを披露すると、俺は緊張しながら、左手を胸に当て、ボウ・アンド・スクレイプで礼を返して手を取りダンスを始める。


練習の甲斐あってかジュリエッタ、マイアとも無難にダンスをこなした。恥をかかなくて良かった。


「それにしてもヴェル。あなた本当に本番に強いわね」


「ええ。とてもお上手でした。今日が社交デビューって言うのは嘘といいたくなりますわ」


そうかそうか。失敗は無かったか。無事に役目を終えて安堵していると、6、7歳の上品そうな貴族の少女が一緒がこちらにやってきた。


その少女は笑顔で「ヴェルグラッド様。私はマリンと申します。是非一緒に踊っていただけませんか?」なかなか微笑ましいカーテシーだ。


これも役目のひとつだと思い了承する。


ボウ・アンド・スクレイプで礼を返すと、少女の手を取りダンスホールに出る。しかし少女の手が異様に冷たい。違和感を覚えつつダンスを始めると、少女の笑顔は突然と邪悪な顔へと変わる。


見た目は少女のまま少女では発しないような野太い声で「つ~かまえた~!」と掴んだオレの片手を捻り上げ後ろに回る。


「いてーよ!離しやがれ!!」


本当に痛かったのでそう叫ぶように言うと、少女は徐々に変身を始め、身長は倍以上に伸びて、頭の両サイドに大きな角を生やした男の姿と変えた。


周りは騒然。演奏も止まり、みんなこちらに目を向ける。


「誰だおまえは!」


掴む手を振り解こうとするが力が強くてビクともしない。魔法を使うには人が多すぎる。可能な限り使わずに済ませたい。


兵士が何人も会場に入り剣を構える。


「大人しくしろ!!さもないと、このガキの命はないぞ!」


「もう一度聞くけど、おたく何者?」


再度そう聞くと、男はこちらを見下ろしながら優越感に満ちた目で笑う。


「私か?しがない上級悪魔さ」


「上級悪魔だと!!」


俺が言う前に、陛下がそう言うと会場はどよめく。


「それで狙いはなんなんだ!」


「英雄が現れたと聞いてこんな子供とはな。話にもならん。何の脅威でもないわ。ガッカリしたついでだ。お前達が祭り上げた英雄を殺して貴様らの心を折ってやろうと思ってな」


上級悪魔はニヤニヤと周りを見渡す。


「陛下、私に構わず全員に退去命令を!!」


これだけ人がいれば何も出来ない。とりあえず退出願おう。


「おいガキ!なんの真似だ。そんなに早く死にたいのか?」


「なあお前、負けるとか全く思ってないだろ」


「バカか?このクソガキめ。なめた真似しやがって」


周りを見ると、兵士が扉を全部開けて、みんなは宮殿から逃げていった。ジュリエッタはマイアを逃がし、兵士や騎士と一緒に残っていた。ジュリエッタが対閃光防御の準備をしている姿が目に入る。


「追わなくていいのか?その余裕が命取りになるとか思わない?」


「拍子抜けだが今回は貴様以外の人間になどに興味はない。それでは犠牲になって貰うとするかな」


上級悪魔はそう言うと、魔力を手に流し始めるた。魔法で殺すつもりだ。全方向に魔力を張り巡らせる。


「ジュリエッタ!!」


間髪入れずに「閃光!!」と叫ぶ。


上級悪魔は苦しそうに「ギャャー目が!!!きさま~!!」と怯んだ隙に「パワーライズ」で拘束から逃れる。


そのまま上級悪魔の手を掴むと「グラビティー・ロード」と詠唱すると重力に耐えられなくなり腰が折れて両膝を付く。


「かっ!体が重い!!貴様何をした!!」


目が見えないから何が起こってるかわからないだろう。重力魔法が効いているとは思うまい。オレが魔法を覚えた日に漠然とイメージした必勝法が形になる。通用するぞこれは。


「それはだな…」


そう言いかけた刹那、ジュリエッタは兵士の剣を拾い上げ「ヴェル、伏せて!!」と叫ぶ。


察した俺は直ぐに伏せると、ジュリエッタは何の躊躇いもなく上級悪魔の首を刎ねた。


今のはなんだ?俺は、何の怯みも躊躇いもなく、ただ高ランクの熟練冒険者が目の前のモンスターにとどめを刺すがごとき、迷いの無いジュリエッタの一閃に、驚き声も出なかった。


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