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第41話 慣れ親しんだ味

屋敷での作業に目処が立ったところで上級貴族街にある商業区域に向かう。


「王都には上級貴族専用の商業区域があるんだな」


「最初からあったわけではなく、時間をかけて今の形に落ち着いたのです。ありていに言えば貴族と平民の棲み分けのようなイメージですね。」


「それはどうして?」


「最初からこういう形では無かったのです。ともすれば選民意識や差別排除を助長させかねないという観点から、貴族平民の区別なくオープンだったのですが、結局それぞれの需給に対するニーズや、高級品や貴族を狙った犯罪やトラブルに対処しているうちに今の形に落ち着いた、といった経緯があるようですね」


「なるほど。王都の人たちも理解しているのか」


「ええ。そういうことになります。さ、着きましたよ」


御者さんが馬車の扉を開けると馬屋の前だった。まず俺が降りてから、婚約者二人の手を取って馬車から降ろした。


「こうしてヴェルに手を取ってもらって馬車から降りるのって、素晴らしい気分ですわね」


「そうでしょ。私も毎回同じ気持ちよ」


この世界では外国のようにレディーファーストだからな。最初こそ気取りやがってと思われるのではと気恥ずかしさもあったが、逆に褒められるんだからいくらでもやるよ。


物珍しさもあって歩きながらチラチラ周りを見ていると、獣人やエルフもちらほら見受けられる。


「人族が中心の国の上級貴族街なのに、他種族の人たちもわりといるんだね?」


「それはそうでしょ。商業施設を運用しているのは上級貴族だけじゃないのよ。それに人族だけとは限りらないわ。雑貨や武器屋はドワーフが、薬品や素材なんかはエルフが店を出すのが多いかな」


「ジュリエッタの言うとおりです。これは条約の取り決めによる事なのですが、同盟国に限り上級貴族街に出店も出来るし住む事も可能なんです。人気店なんかは、お願いして出店して貰ってるんですよ」


「入るのにあんなに厳重なのにか?」


「ヴェル様まだ発行をされていませんが、ステータスカードに偽造防止機能、カードの色での識別、犯罪履歴の有無など、簡易的な結界が判定しますので、簡単に入れる様になります。12歳未満なら入門許可のカードさえ見せれば素通りのようなものですよ」


「なるぼどね。ステータスカードって大事なんだな」


「総合ギルド会館が見えて来ました。その角を曲がれば商業区域に入りますよ」


「総合ギルド会館か。色々なギルドの複合施設って事かな?」


「ええ。冒険者ギルドが1階、商業ギルドが2階、建築ギルドが3階となっています」


「上級貴族に冒険者ギルドが必要なのかは疑問なんだけど」


「そう?依頼は受けなくても出す事は結構あるわよ。それに上級貴族でも冒険者を兼務する人が大半だし」


「そうなのか?」


「学園の研修で迷宮試験がありますからね。それに上級貴族達は上位スキルや優れた才能を持った人材が多いのです。当然の流れでしょう」


「よし。僕は冒険者になる。決めた」


「私もヴェルと一緒に冒険者になるわ。この先平和が続くなんて保障も無いし」


「わたくしも同意見ですわ。イザとなったら自分の身は自分で守らなくてはならないですから。守って貰うだけの王女などなりたくないですし」


「一国の姫が冒険者ってありえないだろ?」


「あら、お父様はCランク、お母様もDランク冒険者ですわよ」


「家は両親ともBランク冒険者よ。王宮医療技師になるには必要な資格だからね」


夢で出たきたジュリエッタは聖女だったから何となく理解をしていたが、どうやら王族でも教育の一環として一度冒険者になるのが普通らしい。死んだら大変だぞ?


いずれギルドを案内してもらうことにして商業区域に入った。


身形の良い上級貴族ばかりだけと思っていたが意外なことに軽装姿の者ばかりだ。まぁ、気持ちは分かる。堅苦しいからな~


その為か、少しおめかしした二人は目立つ。


「ヴェルは何が食べたいですか?」


「肉系なら何でも。店の選択は任せるよ」


「相変わらずの肉系ね。ま、私もお肉好きだからそれで異論はないわ」


「わかりました。それではじいや。いつもの店が空いているか先に見てきてくれますか?」


「畏まりました」


そう言うとじいやさんは足早に歩いて行った。とても老人とは思えぬ体捌き駆け抜けていく姿を見て目を疑う。


「じいやさんすげ~。そういえば護衛の兵士を付けると言っていたけど見当たらないな」


「じいやはその昔、護衛の仕事をしていたらしいです。それに護衛ならいますよ。ほら」


マイアが指差す方向を見ると、怪しい黒尽くめの男達が4箇所に配置されていた。中には御者をしていた者までいた。


「ひょっとして御者さんって護衛の兵士なの?」


「そうですよ。気付きませんでしたか?あの御者はレオールと言って、今は引退しましたが元Bランク冒険者でした。教養も高く、礼儀作法も身に付けていたので、上級騎士を授爵されたと言う経歴を持つ努力家です」


「そうなんだ。平民から上級騎士なんて凄いな」


「なに馬鹿な事言ってるの?上級騎士から伯爵なんて前代未聞の大出世なんだから、ヴェルの方が断然凄いのよ」


「そうですよ。もう少し自分の事を正しく評価するべきです」


「ほらね。みんな言う事は同じでしょうが。ヴェルは国民の憧れや目標になると思うわ。自覚して」


「へいへい。また始まった。そんなこと望んでないのに」


「無欲だからこそ結果が付いて来るのです。不相応なものを望んで強引な手段を使う輩も多いと聞きますから」


「気をつけるよ」


還暦のおっさん、孫ぐらい離れている子供に説教させるの巻。全く笑えない。


そうこうしていると、じいやさんが戻ってきた。


「姫様。席をお取りして参りました」


「ありがとう。それでは参りましょう」


それから、2分ほど歩くと【風見鶏】と書いてあるレストランに入る。もっと畏まった所かと思ったけど意外に砕けた店だ。


「ここですわ。わたくし一押しの店です。人気の店で鳥を油で揚げた、から揚げが人気なのです」


「まじかっ。ここに来てから揚げが食べられるとは」


キタぞ唐揚げ。から揚げぐらい自分で作れるのだが、厨房自体に入る機会がほとんど無いからな。


「から揚げを知っているのですか?ここ最近売り出された料理だと聞いておりますが?」


「知ってる。噂で聞いてるよ。唐揚げはとても美味しいのだとね」


「そうですか。それは良かったです」


唐揚げ?知ってるも何も半世紀前からの好物さ。楽しみだ。店に入るとウェイティングボードがありそれなりの人数が待っていた。


「これは姫様、いつもご贔屓にしていただいてありがとうございます」


「いつも美味しくいただいてます。それより、こちらの方々は、私の家族となる方達です。これから私と一緒に王都に住む事になりましたので、またお邪魔をすると思うので顔をよく覚えておいて下さいね」


「分かりました。わたくしは、この風見鶏を経営しております、ハーベスト・ブラウンと申します。以後お見知りおき下さい」


「挨拶はここまでにして席に案内を。変に注目をされていますので」


マイアがそう言うので、周りを見るとマイア見たさなのか全員が注目している。二階に個室があると言う事で、案内をされながら階段を上り始める。


「流石は、この国の姫様だな。注目の的だね」


「茶化さないで下さい」


「それにしても、誰も声を掛けてこないなんて不思議なものだね」


「あら、知らないのですか?他国はしりませんが、公式では無いプライベートの時間は、王族にたいして頭を下げなくてよい変わりに、何人(なんぴと)たりとも声を掛けるのは禁止なのです」


「なるほど、徹底していてるんだね」


席に案内をされると、席に座って注文をする。全員がから揚げドッグ(そうか、米はないのか)とジュースを頼んでから、手を洗いに行きアルコール消毒をする。


「このアルコール消毒のおかけで、いったいどれだけの国民が救われたか」


「ええ。私も救われました。本当に感謝してます」


マイアはそう言うと頭を下げた。


「マイア、もういいから頭を上げてくれ」


「私も貰ってくれましたものね」


「あれは本当にびっくりした。想定外もいいとこだ」


席に戻ると、すぐに食事が運ばれて来た。米がないのは残念だがまごう事なき唐揚げだ。


「あっさりと、お召し上がりになられる場合は、このレモン果汁をお使い下さい。それではごゆるりと」


店主自らがそう言って説明をしてくれた。それから一口食べてみると、醤油がないので俺の好みには少し物足りないが、にんにくと塩コショウベースのから揚げで美味しい。


二度揚げをしていないのか、クリスピー感には少し欠けるが、それでも懐かしい味だ。思わず目を閉じて大きく息を吸う。


「ああ。唐揚げだ…」


「連れて来て正解だったようですわね。良かったです。私が好きなお店を気に入って貰えて」


「ああ。ぜひまた来よう」


ひとしきりから揚げを堪能し日本に想いを馳せつつ屋敷に戻った。


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