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第38話 専属騎士の儀

専属騎士の儀を執り行うため再び謁見の間に向かう事になった。その前に執り行う人数が三人になったので若干変更点があるという事で控えの間で流れを執事さんから説明を聞いた。


執事さんから説明が終わってから、控えの間で待っていると俺達が呼ばれる。みんな無言だ。まあ突然王女と婚約を交わすとかいろいろ消化しきれてないのもあるだろう。


そもそも9歳児なのに、こんなに色恋沙汰に巻き込まれるとは…ぶっちゃけ好きとか一生守るとか、言ってもいるしもう決めたことだからそれでいいと思っているけれど、前世の記憶があるから子供に対しての「好ましい」以上のものではなくて、まだ他人事のように思えてしまうんだよな……


隣にいるのは美少女ではあるがやっぱり子供だ。そりゃ美しいものは尊いからドレス着れば見惚れるし可愛いとも思う。徐々に体と心が調和してきたとは言え、やっぱ本当に俺の恋愛感情が育つのは早くても5年は先なんだろう。グイグイくる2人には悪いけど……


無言のままそんなことを考えていると準備が出来たと連絡がある。会場に入ろうとすると人がウジャウジャいる。さっきより多いんじゃないか?


聞くと、明日コレラ撲滅の祝いの宴が行われるので、王都に来ていた各領地の上級貴族だけでなく家族もこの謁見の間に集められているって話だった。


今後、俺達三人に、悪い虫がつかないようにとの配慮でもあるらしい。配慮ねぇ…


会場に入り先ほどと同じように整列をする。マイアは王族側だ。


「それでは、専属騎士の儀を執り行う。ウォーレス伯爵家令嬢ジュリエッタ。王女マイア、互いに剣を取り前へ」


そう言うと、会場がざわめく。ジュリエッタとマイアは左右に分かれ、兵士から装飾があしらわれた剣を両手で受け取る。


「それでは、二人の専属騎士となる、ヴェルグラッド・フォレスタ伯爵。前へ」


「はっ!」


俺が呼ばれると更に会場はざわつく。ま、そうだろうね。分かるよ。こんなちびっこが伯爵位なんてな。信じられないだろ?俺だってピンとこないさ。


「静粛に。このヴェルグラッドはコレラから10万人を救った英雄です。その褒賞として爵位を賜りましたが16歳の成人の儀が執り行われるまで、陛下が爵位預かりとし、今後16歳になるまでは領地などを持たない名誉職となっております。ですが、伯爵位は既に決まっております故、これからは上級貴族として扱うようにお願いします」


宰相のマーレさんからそう説明があると上級貴族はざわついたが「陛下の御前である。静粛に!」と、マーレさんが言うと直ぐに静かになった。


「それでは、引き続き専属騎士の儀を行う。騎士ヴェルグラッドよ、二人の剣となりそして盾となりこの二人を守り抜く事を誓うか」


「はい!誓います」


まるで結婚式まんまだよ。自分が主役なんて60年生きてて初めてさ。


「それでは、ジュリエッタ、マイア。ヴェルグラッドを専属の騎士と認めるのなら剣を肩に置き、誓いを立てよ」


「はい!」


二人は陛下にそう言われると、鞘に収められていた剣を抜き俺の両肩に置いた。


「わたくしジュリエッタ・フォン・ジーナスは、ヴェルグラッド・フォレスタを専属騎士と任命し、苦楽を共に分かち合い、国の為に尽くす事を誓います」


「わたくしマイア・フォン・レディアスは、ヴェルグラッド・フォレスタを専属騎士と任命し、苦楽を共に分かち合い、国の為に尽くす事を誓います」


「誓いはこうして結ばれた。この若者達に盛大な拍手を!!」


マーレさんそう宣言をすると会場が一気に沸きあがり、二人は剣を鞘に収め、近くにいた兵士に渡した。そして流れるように二人は俺の隣で跪いた。


これが子供だと思うとなんだか複雑な思いだ。日本人だったら小3、小4のランドセルだ。はるかに精神年齢が高い。君たちおかしいよ。


「これをもって、専属騎士の儀を終わる」


そう言われて立ち上がると、兵士と上級貴族達が花道を作ってくれていた。俺は二人と腕を組んで控えの間へと足を進めた。俺、結婚(婚約(専属騎士))かあ…


控えの間に入ると場が落ち着くまで待機する。


「少し質問なんですが、これで正式にマイアの専属騎士になったのですが、僕はこれからどうしたらいいのですか?」


「そう言えばそうだな。マイア姫を領地に連れて行くなどあり得ないですからな」


「その件に関してはご心配無用です。今日からヴェルは伯爵として取り扱われます。新しい屋敷が王都に新築される予定です」


「え?」


「はい。万が一専属騎士は断られたとしても褒賞の爵位は決まってましたから」


「ヴェル君。マイア姫。私の事をこれからは、ジュリエッタの義父さんと呼んで下さい」


「義父様だらけで、どの義父様か分からないですものね」


「それじゃ、ジュリエッタお嬢様とマイア姫、私の事もそう呼んでくれるかな?」


「お嬢様は無いです。ジュリエッタと呼び捨てでお願いします。ヴェルの義父様」


「私もそうですわ。姫はいらないですわ。マイアとお呼び下さい」


それにしても。いや、わかっている。専属騎士とは婚約だと。結婚だと。でも気が早いんじゃないか?お(義)父さんたち!いいのこれ?式場の親族控室?


と、やっと帰れそうな和やかな空気が流れていると陛下がやって来た。


「色々とみんなには迷惑を掛けた。だがこうでもしないとマイアに見合う男など、今後現れないと思ったんだ。許してくれ」


「その点に関しては、私達も一緒ですよ。ジュリエッタと話のできる男性など現れないと思っていましたから」


うーん。2人とも俺をロックオンしたって隠さないよなあ。謙遜もしにくい流れだから黙っていよう。


「君達三人とも大人びているとは思うけど、あまりにも出来過ぎた偶然としか思えない。もしかしたら君達は出会う運命であって、この先なんらかの使命を背負っているのではないか、とさえ思う」


「使命ですか?今はこの先騎士として二人を守っていけるかしか考えていません」


「ああ、ヴェルは野盗も撲滅したらしいではないか?王子二人が勉強で敵わないのなら剣技で勝負をと嘆願してきおったが、その話を聞いて諦めおったぞ」


「そうですか。王子お二人には申し訳けなく思います」


「ヴェル。そなたは、既にマイアと婚約した状態だ。余も息子として取り扱うことになる。新しく王都に住む屋敷の件だが、新しい屋敷が出来るまで空いている屋敷を使うがいい」


「お気遣いしていただいて、ありがとうございます。その屋敷への入居はいつごろから?」


「そうだな。明日マイアと一緒に見に行きなさい。護衛の兵士と執事も同行させよう。入居は1週間後としようか?」


「えっ。もう1週間後から一緒に住むのですか?」


「当然ではないか。苦楽を共にすると誓ったのだ。本当なら今日からでもいいんだぞ」


「いや、いくらなんでも、それでは準備が」


「わはっはは。それもそうだな。悪かった。こちらも準備があるからな。新居についてはまた、明日以降に詰めるとするか」


話しているうちに広間の方も落ち着いたと報告があったので、城に残っていた王侯貴族達に挨拶をして王城を後にする。


みんなは疲れた様子で馬車の中で無言だった。オレだって、今日の朝までこんな事になるなど思いもしなかったし、前世の記憶があるとはいえこの展開を受け入れるには時間が必要だ。ちょっと整理する必要があるな。


伯爵の言った出会う運命ってのもちょっと気になる。使命と言われりゃ思いつくのは魔王だが夢と必ず一致しているわけでない以上断定は早計だ。


ジュリエッタが聖女になるのは間違いないと思っているが、マイアはコレラで亡くなっていた筈だ。いやダメだ。夢はあくまで夢かも知れないんだ。ただ鬼才マイアにも何かが紐付いてる可能性も…っと。うっかり小説家根性で想像を広げてしまったな。


屋敷に帰ると、家族会議が行われる。それはそうだろう。誰もが予想外だったのだから。


「これからの事なんだが、新しい屋敷で生活をするのはいいのだが、子供達三人だけで住むのは、いくら三人が大人びていても無理があるし、対外的にもよろしくない。なのでレリク、悪いが暫くの間は三人の面倒を見てやってくれないか?」


「仰せのままに」


待ちなよ。ジェントの町に意中の女性か付き合っている人がいいたら申し訳ない。お節介だとは思うけど聞いてみる。


「レリクさんは、ジェントの町に思い人とか彼女とかはいないのですか?」


そう聞くと、珍しくレリクさんは顔を赤くする。


「彼女はいませんが王都に好きな人はいます」


「そう言う事だよ。だからレリクを残したのだ。顔に嬉しいと書いてあるだろ?」


「えっ!顔に出ていますか?いや、失礼。心遣い感謝します」


図書館で恋愛系の本を持っていた時に思ったけどやっぱり好きな女性がいたのか。それにしても王都とは。


「お父様。僕がこの王都に残る事になるとお母様は寂しがりませんか?」


「そりゃ寂しいだろ?でも安心するといいさ。またお腹が大きくなる前に王都に一緒にくるよ。マイアさんに顔合わせしなくちゃならないからな」


「そうだな。私もエリザベートとウェールズを連れて顔合わせをしなければならん」


「生活費はどうしたらよいのでしょうか?無一文では困ります」


「無一文?ああ、お金を持っていないと言う事か。それなら心配はいらぬ。お金の代わりに代替金紙と言うお金の代わりのものを王城から支給されるからその紙に必要な金額を書いて出納係の所にいけば現金化できる」


しれっと口に出た無一文が通じて良かった。代替金紙に金額を書いてお金を貰えるのだから、銀行や郵便局で手書きで預金を引き出す感覚なのだろう。


「上限金額とかは決められているのですか?」


「もちろんだ。一般的に伯爵扱いであれば月に大金貨1枚まで支給される筈だ。ヴェル君の場合は子供であることと王族と一緒に住むのもあるから私にもいくら貰えるのかわからないな。明日陛下に確認を取ってみよう」


「お願いします」


夕食を食べ、お風呂に入ると怒涛の1日が終わる。今日は疲れたのでとっとと寝る事にした。ジュリエッタもお疲れのようで、目がとろ~んとしている。


「ヴェル。マイアと私の専属騎士になるなんて本当に良かったの?」


「それは僕が聞きたいよ。あの時ジュリエッタがすんなり受け入れるなんて思わなかったし」


「そりゃ、ヴェルを独り占めしたいわよ。もし私からヴェルを奪うと言うなら徹底抗戦したわ。でもね。マイアがヴェルに好意を寄せてるの見て、どちらが早く出会ったかだけで、結婚する相手を決められるのは違うんじゃないかと思ったの」


「寛容だな。でもジュリエッタの言いたい事も分かるけどさ」


「うん。とにかく私は負けないわ。それじゃおやすみ」


「うんおやすみ」


それにしても、普通は理解しても納得はしないだろ?子供ならなおさらだ。ジュリエッタは本当に子供なのか。よくそんな考えに辿り着いたな。あの達観の仕方、ジュリエッタの中の人は日本人のおばさんじゃねーだろうな…


まあそれよりもいきなり現れた新しい婚約者。つまり2人目だ。将来は妻2人。大丈夫なんか?なんつーか。平等にとか正室側室とかあんなやつ。9歳の子供が抱える悩みじゃない。

ってことは悩まなくてもいい?そもそも、昼も思ったけど、二人と本格的に恋やら異性として女性として意識するのはまだ先の話だ。


とにかく住むところも環境も激変するんだ。もう少し経てば学園にも通うことになる。何はともあれ生活を落ち着かせなければ。そうだ。オレは元々慎重な性格なんだから。

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