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第32話 王女マイア 後編

私が目覚めて1日が経過すると点滴も外れ、スポーツドリンクという薬が処方されました。美味しいし、五臓六腑に染み込んで行くような感じでとても薬だとは思えません。なんでも、この飲み物も私の命を救った方が考案なさった物らしいです。


それから暫く恋愛系の本を読んでいると、お父様とお母様が私の部屋へとやって参りました。


「マイア、助かってよかった。万が一を思うと生きた心地がしなかったぞ」


「心配かけてごめんなさい。それにしても、その口と鼻にしている布は何ですの?」


「ああ。これはな。コレラの蔓延を防いだ者が考案したマスクと言うものだ。その者がこれらコレラ対策や予防する物をたくさん考案してくれたお陰で、コレラによる死者は激減して、既に王都でも流行りは収束に向っておる」


あまりにも、嬉しそうに話すお父様から話を聞いていると、いつもなら国全体で10万人を越える死者が出るのに、この度の死者はコレラ対策が広がる前に亡くなってしまった1千人程度の被害だったそうです。


『もう少し対策が早ければ、私のように助かる命だったかもしれないのに…』


自分は運が良かっただけ……そう思うと亡くなられた人には申し訳ない気持ちになりました。


「凄いですね。10万人の命を救うなんて。王宮医療師のウォーレス伯がその考案を持ち込んだと聞いておりますが、お父様はその者をご存知なのでしょうか?」


「もちろんだとも。それを伝えにこちらに来たのだ。驚くなよ。なんでもこのコレラ対策を考案したのは、ヴェルグラッドと言う上級騎士の息子でな、マイアと同じ9歳だそうだ」


「えっ!嘘でしょ?」


驚いて叫ぶとお父様は手を叩いて誰かを呼びました。すると扉が開き、ウォーレス伯爵と純白のマントを羽織った見た事がない、黒髪の騎士の男性が部屋へと入って参りました。


「ウォーレス。紹介を」


「姫殿下、お身体の調子が良さそうでなによりです。こちらに控えますは今回コレラ対策を考案されました、ヴェルグラッドの父であるアルフォンス騎爵にございます」


ウォーレス伯に紹介をされると、アルフォンス騎爵は緊張した面持ちで一歩前へ出ました。


「お初にお目に掛かります。只今紹介に預かりましたアルフォンス・フォレスタにございます。以後お見知り置き下さい」


挨拶をした騎爵に私は一瞬見惚れてしまいました。アルフォンス騎爵は美丈夫と言いますか、整った顔立ちと均整のとれた体格。完全好みの問題だとは思いますが、メイド達に人気のあったウォーレス伯よりも人気が出るのではないでしょうか。


アルフォンス騎爵は、この国では珍しく艶やかな黒髪、黒真珠のような黒い瞳をしていて、何か神秘的な感じがしました。この息子様も父親と似ているなら…そう思わずにはいられません。ご子息の事が聞きたくなります。


「そうですか。あなたのご子息が考案なさったのですね」


「はい。息子は3歳で読み書きを覚え、私が買い与えた他国の本にも興味を示して精通しておりました。その本を見て今回のコレラ対策を思いついたと申しておりました」


「3歳でですか?それはざぞかし周りは驚かれたでしょう」


「はい。従者からは神童と持てはやされおりました。私の子供とは思えないほど優秀です」


「ヴェルグラッド様は、お父様に似ておられるのでしょ?」


「そうですね。頭は私より優秀ですし、親の贔屓目と笑われるかもしれませんが、顔立ちは私よりもいいと思います」


本当?是非ともお会いしたい。喜んでいることが顔に出ないよう話を続けます。


「命の恩人のヴェルグラッド様に直接会って、お礼を申し上げたいのですが?」


すると、ここでウォーレス伯が前に出ました。


「それについて補足させて下さい。この度、私の娘であるジュリエッタが、そのヴェルグラッドと専属騎士の儀をしに、この王都へやって参ります。もしその時で宜しければ、お目通りが叶うかと存じ上げます」


ぐむぅ。売約済でしたか。専属騎士とは婚姻と同じ。恐らく家族ぐるみで将来有望なヴェルグラッド様を囲ったのでしょう。とは言えその人物にはかなり興味があります。お会いしてみたいです。


「そうですか。それではその時に是非お礼を言わさせて下さい」


「姫殿下がそう仰られるなら、私共に断る理由はございません。それでは日程が決まり次第、連絡さしあげます」


「はい。楽しみにしておりますわね」


「それでは、そろそろ私達は失礼を」


「うむ。二人とも悪かったな。また追って連絡をする」


「はい。姫殿下、お体をお大事にしてください」


ウォーレス伯がそう言うと、アルフォンス騎爵は恭しく頭を下げて部屋から出て行きました。


ひとつため息を吐いて、早速ですが両親に今の悩みを打ち明けることにします。


「お父様。相談なんですが、もし私がそのヴェルグラッド様を好きになったらどうなさいますか?」


その突然の問いに両親は驚いています。それはそうでしょうね。他者の専属騎士を好きになったらと言っているのですから。恋愛小説の中では略奪愛と言うんでしたか…


「んっ?何を言っておるのだ。先ほども聞いたであろう?かの者はウォーレスの娘の専属騎士になるのだと。それにまだ、顔も合わせておらぬのだぞ?」


だから相談をしているのです。分かって欲しいな。


「もしもの話です。私も好きになった場合をお聞きしているのです」


「それは困った。上級貴族であるなら重婚は禁止されてはおらぬが、下級貴族となるとそうは行くまい」


お父様がそう答えると、お母様はなにか閃いたように言いました。


「そうだわ。ヴェルグラッド様はこの国の人々を守った英雄です。上級貴族の位を授爵すれば何とかなるのではありませんか?」


「お母様。ナイスアイディアです。しかも私と本格的に結婚をすれば公爵になるのです。そうなれば、周りは反対など無いですよね?」


お母様の話に乗らないわけありません。


「けっ結婚だと!!」


「お父様、落ち着いて下さい。可能性の話です」


「そっそうだな。取り乱して悪かった。話は戻るが、この国を救った英雄となれば、授爵させるのもありかもな。だが、お前の兄達は納得するかな?私が言うのも何だが、お前を溺愛しておるではないか?」


そんなものは関係ない。お兄様達と結婚するわけでもないし。


それに前に私に「もし、マイアが結婚するなら少なくとも、私達以上に勉強が出来て剣の腕が達者でないと認めないからな」と、言っていました。


あの時はそんな人は現れるわけがないと思いましましたが、お話を聞いている限り難しくは無さそうです。まだお会いしていませんが、私にとって最大のチャンスが訪れているのです。


神童と呼ばれているくらいだから勉強は心配ありませんし、剣の方は今から鍛えればなんとでもなるでしょう。騎士家系なので血脈としても大丈夫なはずです。根拠はありませんがそう思いました。


「ヴェルグラッド様は神童と呼ばれておられるようです。恐らくは必要な教養などは身に付いておられるでしょう。ならば、テストでもして実力を見せれば兄達としても認めざる得ないのではないでしょうか?」


「そうじゃな。授爵の件は話を進めようか。コレラから民を救ったのは紛れもない事実。後の事は、会って話をしてから決めようではないか?互いの好みの問題もあるからな」


「はい。そうさせて下さい」


それから、今回専属騎士の儀を受けるウォーレス伯の娘さんの事も調べて貰いましたが、そのお相手のジュリエッタさんも、屋敷で働く従者達から天才と呼ばれているそうです。しかも聡明で美しい方なのだとか。


もしヴェルグラッド様が私の事をお気に召されなく、専属騎士になってくれないとしても、神童や天才などと言われている方々と縁を持つ事はお国の為にも極めて重要なのです。


矛盾した話になりますが、ヴェルグラット様が私の好みであってもジュリエッタさんと争うつもりもありません。ただ、好きな男性と添い遂げられるなら、正妻や側室など呼び名などは、私は興味はありません。


そんな傑物が私の目の前に現れるなんて。それも、2人もです。神様に感謝せずにはいられません。

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