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第30話 王都

 次の日、朝食を終えると王都に出発する。2時間程でいよいよ王都だ。


馬車が走り始めると、野盗との戦いで、を使えばもっと楽に倒せたのではと質問をされた。確かにそれも頭に過ったのだが、グラビティーロードというデバフにはいくつか欠点がある。


まず味方にも作用してしまう。燃費が悪い。咄嗟に使うには魔力調整が難しい。魔法の効果範囲が明確ではない。なので使わなかったと説明をする。


「なかなか使いどころが難しい魔法ね」


「筋トレには効果的だし、鍛錬次第ではワイバーンとか飛行出来る魔物ぐらいは落とせると思うけどね」


そう答えると、ジュリエッタは苦笑する。そんな話をしながら馬車に揺られる事2時間。


「ヴェル。王都が見えて来たわよ」


話をしていたせいか一瞬で着いた気がする。


「…でかいな」


田舎者丸出しである。王都の壁はこれでもかと言うくらい高さがあって迫力満点だ。この世界に来て城塞都市を見てきたが一回り以上大きい。


王都には馬車専用の出入り口の門【通称:馬車門】徒歩での移動の為の門【通称:一般門】貴族だけが通れる門【通称:貴族門】の3つの門がありこの馬車は当然貴族門へ向かう。


門前で停車すると、そのまま何も見せずに通過した。どうやらレリクさんが通行証を見せ、馬車に刻印をされている紋章で貴族かどうかを判断をしているようだ。


貴族門を抜けると4m程の高さのコンクリートの壁に挟まれる様に一直線に道が延びていて、所々歩道橋が設けられていた。まるで高速道路のようだ。


これには驚いた。いや、ほんとに。


「これって、2重防壁って感じであってる?」


「戦争だけではなくて火事対策にもなってるのよ。燃え広がらないように色々な区画に分かれていて工夫されているわ」


「さすが王都って感じだな」


それから馬車が進むと丘の上に立つ城が見えてくる。


「あれが王城か~」


なんと言うか、教科書に出てくるようなテンプレどおりの王城だ。屋根が三角円錐の青色で、ロマンチック街道に佇む中世の城そのものだ。


とは言えそれなりの感動もある。自分が小説に書いた城も正にこんなイメージだ。


それから間もなくすると、第2の門が見えて来た。


「あの門は?」


「上級貴族以上しか入れない上級貴族門よ。誘拐や間者などを防ぐ最終門なのよ」


「城と言うより砦だね」


「まさにそのとおり、この壁はその昔、魔王軍と戦い亡国となった砦を強化して再利用して作られたのよ。この壁は星の形に張り巡らされていて、壁の中には王城の他に上級貴族が住む居住区、町、教会、学園などがあるわ」


話を聞くと北海道の五稜郭のようなイメージだ。それより規模はかなり大きい。


上級貴族門に到着をすると、レリクさんが門兵に「後方の馬車に乗っている子供は、ヴェルグラッド・フォレスタである。陛下直々に呼び出しを受けやって来たものだ。許可証を確認して欲しい」と、書状を渡した。


二人いた門兵に許可証を渡すと一人は許可書を確認し、もう一人は馬車の下や後ろの外観チェックを行う。ジュリエッタはポーチから、なにやらカードを取り出して兵士に向けて提示した。


「確認作業は終わりました。どうぞお通り下さいませ」


門兵が敬礼をしすると、馬車は進み始める。


「これまた厳重だな」


「この通行カードがあれば素通りだけどね」


「そっか。僕だけが上級貴族じゃないし、従者でもないからな。みんなに迷惑をかけて申し訳ないよ」


こうして、上級門を進むと屋敷が立ち並ぶ高級住宅街へと入った。徒歩でも入れる門もある。


「あの門は?」


「あの門はね。学園とかもあるから、上級貴族で無い人達が通る門なのよ。それよりあれを見て、神託の儀が行われる教会よ」


「へ~。神託の儀は国中から人が集まるのかい?」


「そうじゃないわ。上級貴族の領地でもやるかな。でも、上級貴族は王都で神託の儀をすると言う決まりがあるの。報告の義務があるからね」


「そっか。じゃ僕もジュリエッタの翌年にまたここにこなくちゃならないのか~」


「そうね、2年連続かな。面倒ね。でも心配しないで。私も付いてくるから」


「でもその時ジュリエッタは王都の学園にいるじゃない?」


「そうだったわね。その事をすっかり忘れていたわ。しかも何年生になるか分からないし」


「へっ。それはどう言う事?1年から普通スタートするだろ?」


「この学園は実力主義よ。テストは合計で3日あって、合格ラインを超えれば飛び級出来る資格があるのよ。ヴェルなら4年生スタートも行けそうじゃない?」


「それはそれでつまらないなぁ~。せっかく同じ歳の友達がいっぱい出来ると思ったのに~」


「あら。そんなの必要?間違いなく私達に比べると幼いわよ?会話も語彙力がなくてまわりくどく喋らないといけないし、自分の為にならないと思うわ」


まあそんな気はしていた。中身が中身なので自分は普通じゃないのは自覚があるが、ジュリエッタも異常なのだ。


勉強を教えてみてよく知っているが、飲み込むスピードも速く、確かに飛び級でもしなければ習う事など何も無さそうだ。


「はぁ~。それじゃ僕達が学園に行って学ぶ意味無いんじゃないのか?」


「そうでもないわ。学歴もあるし迷宮での訓練もあるしね」


「確かに言われてみりゃそんな話をしていたな」


「まっ、行ってみなけりゃ分からないから今悩むことでもないな」


そんな話をしていると学園が見えてくる。レンガで囲まれた学園は自分で書いた物とも変わりはないが、実際にはかなり大きくて広い。


「あれが学園?」


「そうよ。この国に建国されて以来ずっとある由緒正しい学園よ。ほらあれを見て。あれ学生寮よ」


そう言われて見てみると、新めの大きな建物は白くホテルのようだ。


「えらく豪華だな」


「ええ。この学生寮の運営は、学園出身の貴族や大商人の寄付で運営されているの。上級貴族は屋敷が与えられるからそこから通うのも認められているわ」


「金持ちのお金の使い道は豪快だな」


「自分の子供や孫が最大で6年も通うのですもの。貴族や大商人の子達に相応しいところで、と言うのもあると思うわ」


「見栄と示威か。」


「そうね。その感覚は正しいわ。テーブルマナー、ダンス、礼儀、貴族としての知識や教養を全てを学ぶんだから、これぐらいの規模や施設は必要不可欠なのよ」


「ヴェル。もう少しで王都の屋敷に到着するわ。降りる準備をしましょうか?」


「ああ。っていっても荷物はスラすけとスーツケースひとつだけだけどね」


「なにそのネーミングは?かわいいじゃない?スラすけ」


まぁ、色々候補はあったが、これに決めた。スラすけもぴょんっぴょん跳ねて喜んでいる。と思う。


それから間もなくして伯爵の別邸に到着する。大きな庭もあって自分の家である屋敷よりも大きく、豪華だった。上級貴族とはそう言うものらしい。


屋敷の入り口に差し掛かると久しぶりに見る父が屋敷の階段に座る姿が見えた。馬車が屋敷の玄関前に寄せられると、父は立ち上がりで迎えてくれた。


「伯爵閣下。お待ちしておりました」


「そうか?ヴェルに会たかったんじゃないのか?」


「そうですね。会いたかったです」


「お父様。ご無沙汰しております。お勤めお疲れ様です」


「おお。会いたかったよ我が息子」


父はオレの顔を見ると、抱きついて来いと手を広げて待ち受けるが、みんなの前で恥ずかしくて出来るわけない。


「オーバーっていうか、大袈裟ですよ。人前で恥ずかしいです」


「大袈裟な事あるものか。ヴェルがコレラ対策を考えたお陰で、父さんはそれはそれは大変だったんだ~」


父は、残念そうな顔をしていてそう言うと、伯爵が「ここでその話は、中に入ってからでいいだろう。そろそろ中に入らぬか」と、苦笑いして言った。


「そうですね。申し訳ございません」


護衛の人達が、荷物を運んでくれると言うので屋敷の中に入ると、メイドさん達が一斉に頭を下げた。その一糸乱れぬ統制は、たかが頭の下げ方一つだが、角度、頭を上げ下げするタイミング、どれも一朝一夕で身につけたのでは無いのだろう。


美しさと気品すら感じる。これが王都の働く者のスキルなのか?


ちなみに、我が家ではこんな真似は出来ないと思う。貴族の端くれではあるけど騎士なのだ。来客は少ないし節約といったところなのだろう。


「旦那様、お帰りなさいませ」


「ああ。今戻ったよ。ヴェル君に紹介しよう。この屋敷の管理を任せているジェームスだ。王都に屋敷を持つ上級貴族は短期の滞在が多いので、屋敷の管理を任された家宰と呼ばれる執事が必ずいるんだ」


「只今紹介に預かりました。伯爵家で家宰の任をいただいているジェムースと申します。以後お見知り置きを」


ジェームスさんは、胸に手を当て一礼をする。ん~素晴らしい。


それから案内された部屋に荷物を置くと久しぶりに会った父と昼食を済ませ、それから応接間に行ってこの2ヶ月間の話をされる事になった。


「お父様は、王都にいる間ここから登城されていたのですか?」


「そうだよ。伯爵閣下の配下の騎爵は原則伯爵家の屋敷から通う事になっているんだ。他の者達は自分の領へと先に戻って行ったがね」


父の話では伯爵閣下がコレラ対策を提言をし、効果が認められたので国中の領地に知らされたと聞かされた。


それから陛下に呼ばれて、コレラ対策を最初に誰がいい出したのかを問い詰められ、最後には押し切られて俺が作ったと口を割ったそうだ。


父はそれから、陛下と姫様に直接お礼を言われたり、王城で英雄の父と持てはやされたりと、誇らしくもあったが大変だったそうだ。


なんでそれが大変だったかと聞くと「ヴェルの見合いの話だよ」だって。うへえ、そりゃ大変だ。他人事だと思っていたら俺のことかよ。


そんな時、俺がジュリエッタの専属の騎士になると伯爵閣下から聞かされたので渡りに船と快諾をしたそうだ。そう言えば縁談を持ちかけた貴族達は諦めて帰ったみたい。虫除けスプレーだな。そう思うとつい苦笑いしてしまう。


「それとだなヴェル。お母さんが妊娠したらしい。ヴェルもお兄ちゃんになるんだぞ!!」


「それは本当ですか?」


「こんな事で嘘をついてどうなるんだ」


こんな話を誰が想像した?そりゃそうか。母はコレラで亡くなる筈だったのだから。


結果的に俺は自分の家族を2人救った事になる。喜こばしいことだ。ジュリエッタもなぜか自分の事の様に泣いて喜んでいる。


そんな父は明日の謁見が終り次第、やっと屋敷に戻るそうだ。おじいさんが帰りに寄る様にと言う事も忘れずに伝えておいた。


それから、伯爵と父は商業ギルドに向う。ステータスカードを持たない自分が行ってもあまり意味が無いらしい。


そんな訳で、残された俺はジュリエッタと一緒にまた社交ダンスの練習をする事になった。

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