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第24話 デート

 ロディウスさんの店を出るとジュリエッタと並んで歩き出す。ジュリエッタの手をさり気なく手をとると、気を良くしたしたようで笑顔になる。


レリクさんは邪魔にならないよう離れたところからさりげなく見ていてくれている。見せつけているようで悪い気がするけど、デートする以上は雰囲気作りから入る。


『仕事だとはいえごめんよ、レリクさん』と、心の中で謝る。


「ヴェルはどこか行きたいところある?」


「ごめん、知ってると思うけどほとんど外出させてもらえなかったから、どこにどんな物があるかどうかも知らないから、ジュリエッタに任せてもいいかな?」


「そっか。それもそうね。ヴェルは屋敷でずっと過ごしてきたのだから仕方が無いわね。じゃヴェルの好きそうな図書館に行こうよ」


実のところ本は特別好きなわけじゃないのだけど、そういう印象を与えちゃってるのかもしれないな。別にそれはいいんだけど…


「ありがとう。家の本じゃ分からない事がいっぱいあるから助かるよ」


そんなわけでここから歩いて約5分の場所にある図書館へ行く事になった。


それにしても赤い髪の美少女はどんな服を着ていても目立つ。俺はまるで日本人の様に黒髪だがこの国には黒髪は少ない。自分の母の髪の毛の色は銀色なので、父の黒髪の血を引いたのであろう。


そんな赤い髪の毛の美少女が黒髪の自分を手を引かれて道行く姿は、さぞかし奇妙に映っているのであろう?道行く人々がチラチラとこちらを見ているが、ジュリエッタは慣れているのか気にもしない。


それから暫く歩くと【図書館はここを右折】と書かれた看板が見えてきた。看板に向って歩いていくと図書館が見えてきて造りは図書館ぽく無くて屋敷のような佇まいであった。


図書館に入ると大きなカウンターがあって、その奥に壁に貼られていた世界地図が目を引いた。自分の書いた小説では、大陸や国の位置関係などを細かく定義をしてなかったのでとても気になる。


そう言えば昔ジュリエッタと海へ行って遊んだ時、教えてもらう約束をしておきながら、二人とも今日まですっかりその事を忘れていた。


「なにヴェル、世界地図なんかじっと見て、気になる事でもあった?」


「うん。家にはさ、物語や魔法の本は沢山あったけど、歴史や世界の事が書かれていた本は無かったんだ」


「それはそうでしょうね。本来なら学園で習う教科書に載っているんだから、家にはなかなか無いんじゃないかな~」


そう言えば海岸を歩いていた時にそんな事を言っていた事を思い出す。確かに日本でも家に他国の歴史の本なんかがある家なんてあまり見た事が無い。


「それじゃさ、私は勇者やその仲間に興味があるから、そちらの書籍を探すわ。地理や世界の事に興味があるなら正面の書棚にあると思うわよ」


「よく知ってるね」


「本は好きだからね。たまに来てるのよ。それじゃ私は司書さんに勇者について詳しく書いてある本がどこにあるかを聞いてくるわね」


そうジュリエッタは言うと、カウンターに腰掛ける司書のところへ行った。


大量に並ぶ本棚の中から、地理関係の本を探していると、いつの間にか図書館に入っていたレリクさんも本を物色している。何を探しているんだろう?興味はあったが今はこっちの方が大事だ。世界の事が書かれている本を手に取り机に本を置いた。


子供の体では高さが合わないと思っていると、レリクさんが子供用の(かさ)を上げるマットを持ってきてくれて、その椅子に座らせてくれた。ジュリエッタ用に隣の席にも同じようにマットを敷く。


「ありがとう」


「どう致しまして。ごゆっくりどうぞ」


レリクさんはそう言って優しく微笑む。レリクさんが持っていた本に目をやると、どうやら恋愛系の小説のような物だった。レリクさんが恋愛小説とは…実に興味深い…


レリクさんの実年齢は知らないけど20代前半に見える。この世界の結婚適齢期は、男性が25歳、女性は20歳と聞いた事がある。日本にいた時の自分の事を棚に置いて、そう思うのはレリクさんにたいして失礼か…


世界の地図を広げて国の名前と位置関係を把握する。今いるこの大陸は、ブルーム大陸と言う大きな大陸で、海を挟んだ大陸にはルーン大陸という小さな大陸があった。


ブルーム大陸には、4つの国があって東に位置するこの国であるレディアス王国と西にある隣の国はアーレン王国、北にはギルディス帝国、南にはレバリス王国がある。


一方もうひとつのルーン大陸には、2つの国があって北に神聖国ヴァリスタ、南にレギオン王国がある。


どうやら、東にあるこの国と、西にあるアーレン王国は領土が大きいようだ。地図で境界線を見てみると、川や山脈がそれぞれ国境になっているようだ。


「どうヴェル興味のある本は見つかった?」


ジュリッタは本を3冊抱え戻ってくると、俺が広げる地図を後ろから覗き込んだ。


「うん。この世界には2つの大陸と6つの国で分かれているんだね」


「そうね。ここから北にあるギルディス帝国は少数民族のエルフとドワーフが国を治めているの。それぞれ能力が偏っているから、独立して民族国家にと言う動きは出にくいと習ったわ。その代わりギルディス帝国は昔から皇帝が二人いるのよ」


ジュリエッタはそう答えながら隣の席に腰掛けた。


「なるほどね。得意分野を活かした共同統治ってことかな」


「それと後は、ルーン大陸にある獣人族が治めるレギオン王国が特徴的ね。ほら、あそこにもいるけど、基本的に獣人族は戦闘能力が高いとされているわ」


そう言われ目をやると、本を必死に読む猫耳の男性が本を読む姿が目に入った。戦闘能力とは言っているが脳筋ばかりではないようだ。


この世界の人々の識字能力は高らしいのだが、獣人も本を読んで勉強をするんだと感心した。だからと言って獣人達を馬鹿にしている訳では無い。


「へ~。そうなんだ。色々と獣人族に関しても興味をそそるな。あと気になったのが神聖国かな。ここはどんな国なんだ?」


「行った事ないけど、ここは王政ではなく教皇が選出されて国を治めているんだったかな。記憶が曖昧だから違っていたら勘弁して。それで勇者がもし現れたら、魔王軍と一緒に戦う軍隊を育てているのだとか。詳しくは知らないわ」


それから、聖騎士や聖女の事が書かれている項目を探すと、ジュリエッタが探してきた本に僅かばかりだけど書かれていた。


その文を読んでみると、勇者、聖女、賢者は魔王が誕生すると現れると書いてある。あの夢ではジュリエッタは聖女となっていた。夢とこの世界が関係あるのなら魔王が復活するかも知れないな。


まああれは夢の中の出来事だからそこまで繋がりがあるかはわからないし、そもそもこの時点で歴史は大きく変わっている。


「それにしても、勇者と聖女は知っているけど、賢者は知らないな~。何か知ってる?」


「う~ん。何せ最後に魔王が倒されたのは500年前だからね。残っている文献が少ないのよ。それに賢者は物語にも出てこないから、私も賢者の事を知ったのはここ最近かな?」


「そっか~。賢者がどんなスキルを持っているのか気になるな」


「もぅ。そんな能力を気にする子供なんていないってばっ」


それからも色々と本を探したが、詳しい内容が書かれていた本は見つからなかった。そうこうしているとお腹の虫が「ぐぅ~」と鳴る。恥ずかしい。


「ふふふ。それじゃ、食事にしましょうか?」


「ごめん。中断しちゃってさ」


「構わないわよ」


 図書館を出ると昼食を食べに、レストランが立ち並ぶ場所へと向かって歩き出すと5分もしないうちに、レストラン街が見えて来た。


レリクさんに両替をして貰って、銀貨5枚づつ受け取って買ったばかりの財布に入れる。子供には大金だな。


ジュリエッタを見るとポーチからうさぎの刺繍がしてある財布を取り出した。大人びているジュリエッタにはしては可愛らしい、と言うか子供っぽいとも思ったけどそこは口にしない。


レストラン街に入ると、良い匂いがして胃を刺激する。目移りしそうになるけど『今日はレストランではなくジャンクフードを!』と思っていたので歩きながら探す事にする。


店を見回りながら歩いていると、フォールの町より格段と広いし、店舗の数など比較出来ないほど多い。


それから暫く歩いて見ていると、レストランの店先にジャンクフードが売られている店がちらほら見えて来た。テイクアウトもしているレストランも多いのだろうか?人気店などは買い求めるお客さんが並んでいる。


その店の中から、焼き鳥が売っていたので匂いにつられて購入する。売り子さんに買った物をどこで食べるのか聞いてみると、この先にある公園で食べる人が沢山いると教えてくれた。いい感じだ。


それから各レストラン周り、ホットドッグ、サンドイッチを買った。まだまだ、色々と食べ物の種類はあったが、取り敢えず日本で食べた事のある食べ物をチョイスした。


それにしても、日本と同じ食材があるのは良かったな。生態も似てるのかな?なんの肉かは書かれていないが、味は良いので気にしない事にする。


 レストラン街の外れの露天で売っていたレジャーシートっぽい物を買って、公園の芝生に敷いて二人で腰掛ける。


レリクさんは公園のベンチで目を光らせているが、そこまであからさまに警戒をするなら、こっちに来て一緒に食べたらいいんじゃないかと思うんだけど。


それから、買ったジャンクフードを並べてホットドッグから食べ始める。


「ヴェルの言うとおり、ジャンクフードって、手軽で美味しいわね」


「そうだろ。色々な味を楽しめるってとこは、ビュッフェとあまり変わらないけどね。僕の好みだから肉類ばかりで申し訳ない」


「いいのよこんな時ぐらいはね」


ジュリエッタはそう言って笑みを浮かべた。それからホッドッグを食べようとすると、ジュリエッタが顔を赤くして袖を引っ張る。


「ヴェル。せっかくのデートだからー私もあれをして欲しい」


何を言い出したのかと思い、ジュリエッタの指差す方向を見ると、カップルがホットドッグを『あ~ん』と食べさせていた。しかも交互だ。よろしいね。若者は。


「どうしてもかな?」


「うん。今日のデートの思い出にしたいの」


ジュリエッタは僅かばかりに頬を赤くした。


「分かった。それじゃまず僕からいくね。あ~ん」


「次は、私の番ね。あ~ん」


「あ~ん」と言った後、なぜ食べさせる方も口を開けるんだろうと思っていたけど、今なら何となく分かる。


「ヴェル、レリクを見て!面白くない?」


ジュリエッタがそう言うので見てみると、レリクさんはホットドックを口に咥えた状態で、鳩がエサを求めて集まるのを迷惑そうに追い払っている。


「ぷっ!!こりゃ傑作だな」


「でしょ!!」


こうして笑いながら女の子と公園で食事ってしたことが無かったな。なんと言うか満ち足りた気分と言うか。本当に転生して良かった。


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