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第17話 ジェントの町 

ジュリエッタと別れた翌日


寝ていると「ヴェル様、起きて下さい」と言いながらテーゼが部屋にいつのまにか入ってたのか?俺を揺すって起こす。


「んっ?もう起こされる時間でしたか?」


「いえ。まだ7時です。ただ、既に竜車は到着しており直ちに準備をしろと奥様に命じられたものですから」


「そうなんですね。では顔を洗って直ぐ行くと伝えておいて下さい」


そう返事をするとテーゼは、着替えをオレに渡して戻って行った。


「じーさん、どんだけ早く会いたいんだよ。まだ7時だぜ」


聞かれても問題ないように日本語で呟き、心の中だけおじい様からじいさんに評価を下げる。


着替えてから階段を下りて行くと、バスケットを持った母が階段下で待っていた。


「ヴェル、おはよう。早く顔を洗ってらっしゃい」


「は~い」


「何よそのやる気の無い返事は~。ジュリエッタさんが見ているわよ」


「そんな訳ありませんよ。ジュリエッタなら、昨日い~っ!!」


玄関で笑顔で待つジュリエッタを見て心底驚いた。は?なんで?


「ヴェル、おはよう。どうしたの幽霊でも見たような顔をして?」


「ど、どうもこうもないでしょうが。もう逆ホームシックになったのか?」


呆れたようにそう言うと、ジュリエッタも呆れた顔をする。


「もう~。馬鹿なんだから~。ヴェルの顔を見たくなったのよ。それぐらい分かってよ」


「またまた。オトナをからかうんじゃないよ。へへへ」


冗談と分かっているんだが顔がにやけて、つい笑ってしまった。これがおっさんの姿なら間違えなくキモい。てか、オトナって言っちゃったぞ。


「もちろん冗談だし、ヴェルの冗談もイマイチよ。そんなオトナがいるもんですか。昨日私が屋敷に帰ったら、ヴェルを迎えにレリクが行くと言う話になってたから付いてきたのよ。こんな事ならヴェルと一緒に今日までいるんだったわ」


そう言うことね。それなら一緒に居れば良かったよ。だって今7時だぞ?


「念のため聞くけど今7時なんだよ?ひょっとして朝6時起き?」


「残念。女性は準備に時間がかかるから起きたのはそれよりも前ね。まだ外は薄暗かったわよ。ほら、40秒で支度しな」


そりゃこれ以上待たせるわけにはいかないとダッシュで準備する。


それから、母から朝食の入ったバスケットを渡された。


「これは朝食よ。ジュリエッタさんと分けて食べなさい。トイレに行きたくなったらちゃんと言うのよ」


幼稚園児や小学生じゃあるまいし、そんな心配無用もいいところだ。


「お母様。そこらへんはわきまえております。ご心配なされぬよう」


思わず口に出しそうになったが、今は9歳だ。ここは素直にそう答えておいた。


母とジュリエッタは何やら話しこんでいたので、先に玄関から外に出ると、外はまだ寒く身震いしてしまう。


「まだ、外は寒いな~」


と言いながら竜車の方に目をやると、レリクさんが竜馬にエサと水を与えていた。


「朝早くからお疲れ様です。今日は宜しくお願いします」


「坊ちゃん。おはようございます。丁寧な挨拶ありがとう。今日はお嬢様を宜しく」


挨拶をしている間にテーゼがオレの荷物を竜車に運び、レリクさんは竜車の後部にある荷物置き場に荷物を積んだ。それにしても、荷物が多いな。何泊するつもりなんだろう?


「準備は宜しいかしら?」


「はい、大丈夫です。それではお母様、行って参ります」


「はい。いってらっしゃい。ジュリエッタさん。ヴェルは大人びているけどまだまだ子供だから、面倒を見てあげて下さいな」


「はい。お任せ下さい。粗相がないようにしっかり見張っています」


なにを言ってるんだこの二人は?じいさんに会いに行くだけだぞ?大袈裟だよまったくもぅ。


『しかも粗相って!?』


最近ひとり言のような突っ込みが多くなった事を自覚せざるを得ない。


母や従者さん達に見送られて、竜車に乗ってじいさんの屋敷まで約2時間の道のりを行く事になる。竜車は火の魔石を使った暖房魔道具があって暖かい。


「あらためて、おはよう。それで赤ちゃんはどうだった?かわいかった?」


「うん。かわいかった。でもまだお姉ちゃんって実感が沸かなかったかな~」


「そりゃそうかも知れないね。昨日初めて見たわけだし。お母様は元気にしてた?」


「ええ。でも赤ちゃんの事で少し疲れていたわね。自分が何も出来ない事に腹が立ったわ」


「そっか。それは仕方が無いよ。またおいおい慣れるって」


それに、君10歳でしょ。普通は育児には参加しない年齢だよ。


ジュリエッタが頷くと一緒に用意された朝食を食べる。ハンカチを膝の上において、サンドイッチを食べ終わると、ジュリエッタは眠そうにしている。


「それにしても眠そうだな。目がとろ~んとしているよ」


「そっかな?それじゃさ、少し寝てもいい?」


「うん。少し寝るといいよ」


膝をぽんぽんと叩くと、ジュリエッタは照れくさそうにオレの膝に頭を乗せた。かわいいもんだ。それに毎日一緒に寝ていたせいで少し慣れてしまった。なんかドキドキ感が薄れて勿体無い気がするよ。


朝日が差し込んで眩しいのでカーテンを閉めた。外の景色も見たいけどここはジュリエッタ優先だ。


なんだかんだ色々と物思いにふけっているといつの間にかうたた寝をしてしまっていたようで、竜車が停止した反動で目が覚ました。もう2時間も経ったのか?


そう疑問に思いながらカーテンを開けると、視界に大きな壁と門が目に入る。どうやらじいさんの治める町に着いたようだ。


じいさんの町は、いつも買い物に出掛けている町の倍近い高さの壁に囲まれていて、それは城郭都市と言っても過言では無い威容を誇っている。


壁が近づいてくると、竜車は貴族門に向かい、スピードを落として町に入る。中に入ると壁の外周を回りながらメインストリートに出た。


レリクさんがウインカーの代わりに曲がりたい方向に赤い旗をかざすと、信号手と言う職業の人が青色の旗を振って誘導する。青なら進んで良し、赤なら止まれと言う合図のようだ。


メインストリートに入ると中世ヨーロッパ風よりも近世に近い町並みが広がる。


思わず「おお!凄い!」と声が出る。


石畳の道幅は広く作られていて中央分離帯には御者の視界を邪魔しない程度に街路樹が立ち並び、遊歩道では家族が散歩したりランニングをしている姿まで所々で見受けられる。


建物を見てみると、1階は店舗で2階、3階は住居のようだ。同じような建物ばかりではあるが町並みは美しく、道を行き交う人々を見てみると大量の食料を抱えていた。


そんな区画を抜けると、普通の家が立ち並ぶ区域に入った。ちょっした庭で洗濯物を干す女性の姿や子供が遊ぶ姿をみて思わずほっこりする。


それから少し走ると屋敷が立ち並ぶ区域に入る。門構え、庭の広さ、屋根の高さが明らかに自分の住んでいる屋敷よりも高い。豪商や貴族等いわゆる富裕層の屋敷なのだろう。大きく立派だとは思うが別に羨ましいとは思わない。


家が大きければそれだけ維持費、人件費、それに生活費も高くなり掃除も大変だと思ってしまうあたり貧乏性なんだと思う。まあでかい屋敷に住むことはステータスより舐められないための処遇と言うのもあるだろう。


そろそろ到着しそうなのでジュリエッタを起こす。


「ジュリエッタ。町に入ったよ」


そう優しく起こすと、ジュリエッタは目を擦りながら目覚めた。


「そうね。着いたみたい。って言うかごめん。足痺れてない?」


「大丈夫だよ。それにしても、こんな大きな都市を子爵が治めるのか?」


「あら、何を言ってるのよ。この町はお父様が治めるジェントの町よ」


「はっ?え~っ?俺達って、おじい様の屋敷に向うところじゃなかったっけか?」


「変更したのよ。ヴェルのお母様に聞かなかった?」


「聞いてないよ~。知らなかったのは俺だけか?」


「そうじゃないの?ヴェルのお母様には、おじい様の方から報告にこの町に急遽くる事になったって、ちゃんと伝えたって言っていたわよ」


「そうなの?母さんめ!なんで黙ってたんだ?」


それにしてもジュリエッタは毎回こんな大都市から、自分の住んでいる田舎まで来てたのかと思うと頭が下がる思いだ。都会人が田舎に憧れるってやつか?それはないか。


「ねえ、このジェントの町ってさ、いつもこんなに人出が多くて賑わってるの?」


「いつもより多いんじゃないかな~。コレラが収まったから、みんな買出しに出てるんじゃない」


「ああ、それで食料を沢山抱えた人が多いんだね」


そうこうしていると、正面の小高い丘の上に他の豪邸よりも、ひときわ大きな屋敷が見えてきた。


「ほら、あそこが私が住んでいる屋敷よ」


「大き過ぎんだろ~。迷うんじゃねーの?」


「ヴェルって面白い喋り方も出来るのね。私といるのが慣れたって理解してもいいかな?」


「すいません。つい地が出てしまって」


「いっ、いいわよそのままで。楽しすぎるでしょ。でもお父様達と一緒の時はやめてね」


「当然です!」


これが面白いしゃべり方か。こりゃ内心毒づいてる事を聞かれたらどうなっちゃうんだろうね。ま。そんなヘマはしないつもりだけどね。


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