第141話 アマゾネスって…
メリダさんが突然目の前から姿を消した。周りを見回すとメリダさんを抱きかかえ路地に向かう影が見えた。
人通りの多さに安心をしていたのと、メリダさんに余計な期待をもたせないように、微妙な距離を取っていた俺のミスだ。ここまで何も無かったので油断もあっただろう。
何にしてもまずはメリダさんの奪還だ。
一旦立ち止まり振り向くと、お喋りに夢中になっていた二人に小声で「二人ともいいですか。たった今メリダさんが何者かに攫われたようです。状況把握したいので大声を出さないでください」と二人に説明をすると二人は顔を見合わせて頷く。
メリダさんが消えた方向に索敵をかけると、路地は微妙にカーブをしていて通りから死角となっている。人の反応は6つほど。全員賊の仲間なのかはわからないが、そのくらいの人数なら対応できるだろう。
路地の先は細い十字路に繋がっていて途中で動きが止また。どうやら誘拐犯は俺達を路地に誘い込む作戦のようだ。
「エミリーさん、誘拐犯は俺達を誘い込む作戦みたいです。衛兵を呼びに行って貰えないでしょうか?」
「わかりました。くれぐれも無茶はしないで下さい」
俺が頷くと、エミリーさんは衛兵達を呼びに駆けていった。
(じゃ、行きましょう)
(オッケー!攻撃魔法は町の中では禁止なのと殺すと過剰防衛になる可能性があるから気を付けて)
クルムさんとの念話を終え、路地に入り反応のあった場所へと走っていくと、黒い外套に身を包んだ褐色肌のビキニアーマーを着た女性冒険者5人組が待ち構えていた。
みんな身長が高く筋肉隆々。その容姿でビキニアーマーって、ど変態かよ!別の意味でドン引きだ。
これが日本なら通報されるか職質案件だ。
メリダさんは口を白い布で押えていて意識を失っているようだ。賊の1人に後ろから抱きつかれるようにして座っている。
「追って来たのが人族の子供とメイドなんて、願ったりじゃないか」
「ちょうどお前に用がある。女を返してほしけりゃ、抵抗せずに手を上げるんだ」
え?目的は俺?身代金誘拐じゃないのか?人族の少年は高く売れるとかそっち?だったらなんでわざわざメリダさんを…
「姉御。ぼやぼやしてると衛兵が来るぜ!とっとと攫っちまったほうがいいんじゃねえか?」
姉御と呼ばれた変態女に焦った声をかける。
「そうだな。騒ぎになる前にとっとと終わらせるか。わかってるな。絶対に傷つけるんじゃないぞ」
うわー、もしかして本当に突発的なもの?道を歩いてたら手頃な少年がいたから攫おうとしてそのエサにメリダさんを?ひくわー。メリダさんこそ受難続きだな。山賊のことといい今回といい気の毒すぎる…と言うか今回は俺が巻き込んだと言えなくもないのか。
4人の変態女はロープと片手に短刀をチラつかせながら、俺を捕まえようと前に立ちはだかる。
「悪いようにしないから抵抗しないで大人しく縛られてくれ」
4人が不敵な笑みを浮かべながら、俺にに向かって歩き始める。うっ気持ちわるっ…
間合いが開いたところを見計らい、クルムさんが後ろから大きく跳躍してメリダさんに抱きついていた賊に踵落としを食らわせる。
あれは痛い。て、今飛行魔法使ったんじゃないか?街中では禁止ってアナタの口から聞いたんだけど?誰も気付いてないとは言えズルいぞ。
クルムさんはメリダさんを壁にもたれかかるように降ろすと「かかってらっしゃい!」と煽る。
クルムさん!まじヒーローみたいだけどズルい!
それを見た残りの変態女3人組のうちの一人が、「このクソアマが!」とナイフを振り上げて突進してきた。
クルムさんは、小型の暗器を太腿から出して投擲すると、変態女の太腿に刺さり足が止まる。
続けてもう一人突進してきたので、クルムさんは再び暗器を投擲すると外套ではじいたので、すかさず俺が縮地で詰め寄りグーパンで腹を殴る。
外套ごしではあったが、綺麗に鳩尾に入るとくの字に折れ曲がって悶絶する。
その光景を見て残った2人が降参するように手に持っていたナイフとロープを地面に置いて手を上げた。
意識のある賊をロープで縛り始めると「ったく、あたいらも運が無いねー」と悔しそうな顔をする。
「まったくだ。こんなことになるなら、最初からこのガキから攫ったら良かったぜ。おまえ人族のふりをした亜人か?」
「思いつきで人を攫うようなヤツに話すことなんかねーよ」
賊は俺を睨みながら「粋がんなよ!ぺっ!」と、俺の顔面に向かって唾を吐きやがった。
浄化魔法ですぐに綺麗にするが、かなりムッとしたので脛を蹴りると変態女は「いてー!」とギャーギャー叫ぶ。
「ガキのくせして女相手にそこまでやるかよ!」
「縛られてるのに粋がってるのはそっちだろうが。手加減してやっただけでもありがたく思え。せっかく美味しい物を食べたのに気分が台無しだ」
そこにエミリーさんが衛兵を大勢連れて戻ってきた。
衛兵たちに賊を引き渡し、状況を聞きに来た兵士に簡潔的に説明すると、現場を総括していた男が走ってきて敬礼する。
「この度はご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした。また、捕縛いただきありがとうございます。今尋問をしたところ、そちらのお嬢さんは眠り草のエキスを嗅がされてで眠っているだけで、命には別状ないそうです」
「眠り草のエキス?」
「ヴェル様。眠り草のエキスを嗅がされると2時間は眠ったままです。この件は母にお任せて宿に戻りましょう。衛兵には母に連絡をするように伝えてありますから」
「わかりました」
すると衛兵達は再び敬礼をして誘拐犯達を連行していった。
クルムさんがメリダさんを背負っていたので「クルムさん交代する?」と聞くと「「駄目です」」と、クルムさんとエミリーさんに同時に拒否された。
いや、大変だろうと思っただけで何の下心なんてないんだが。とりあえずクルムさんにバフを掛ける。
「ありがとう。楽になったよ」
「まあこれくらいは」
「あはは…。だけどさ、ひさびさにアマゾネスを見たけど、やっぱり強烈よね」
「アマゾネス?」
俺のイメージとはだいぶ違う感じがする。もっと色っぽいのかと思ってた。そう言えばアマゾネスって種族なの?部族じゃなくて?
「ヴェル君が知っているアマゾネス族がどんなイメージかは知らないけど、あんな男のような体を持つ女はアマゾネスしかいないわよ。よかったね。誘拐されなくてさ」
「ほうんとうですよ。あのままヴェル様がアマゾネスに捕まっていたら里に連れられていって将来的には子作り要員ですよ。アマゾネス族は男を産めませんから」
そうなっても逃げる自信はあるし負けはしないだろうけど眠り草のエキスとやらで寝てる間にと思うと…くわばらくわばら。
宿に戻ると、もう領主達に連絡が行っていたらしく宿の玄関先で心配そうな顔をして待っていた。俺達の姿を見つけると、領主とテラントさんが駆け寄ってきた。
「ご心配おかけして申し訳ないです。油断してました」
「みんな無事だし私達も反省するところもあるから気にしないで」
「ありがとうございます。メリダさんは眠り草のエキスで眠っているので部屋に案内してもらえますか?」
「そうね、行きましょう」
それから部屋に入ると、クルムさんがメリダさんをベッドに横にする。
「誘拐犯がアマゾネスと聞いたけど何もされなかった?」
領主は心配そうな顔で聞いてくる。
「何もありませんよ。エミリーさんも言ってましたがそんなにヤバいんですか?アマゾネス」
「アマゾネスに限らず、従属の首輪と言って、スキルや魔法を封じ込める魔道具があるの。それを使われたら、何もできないからくれぐれも油断はしないでね」
「はあ。気をつけます」
有名な奴隷アイテムだな。ここにあるとは知らなかったがその名前のアイテムは設定としてはよく知っている。まあ気をつけると言ってもそう簡単に首輪なんてつけられてたまるかとは思う。
待てよ?これ眠り草と組み合わせたら最強コンボじゃないか?うーん。そうは言っても高ランク冒険者が格下に従属するなんて考えにくいんだけど。いくらスキルや魔法が封じられても体術とか剣術もあるからねえ…
ま、一応覚えておこう。
「娘を2度も救ってくれてありがとう。礼を言わさせてもらうよ」
「テラントさんにはむしろ謝罪しないといけないと思います。賊の狙いは自分だったようなので。それで疑問ながありまして、町に入る時の犯罪歴調査で賊に何も出なかったんですか?」
「ああ、そのとおりだ。そこでひっかからず街に入ったことから初犯である可能性が高い」
「初犯だとどう言った罰を受けるのですか?」
「罪の重さに違いはあるけど、今回の件で言えば犯行は未遂に終わったとは言え、最低でも冒険者の資格は剥奪されることになるかな。それから数年間犯罪奴隷として労役になるだろうね」
ただし、刑期を終えても前科は消えないので罪の程度によって、都市や大きな町に入れないし、犯罪を重ねていたり罪が重ければ迷宮で人間の盾として使われるそうだ。実質的な死刑と言うことだろう。
ちなみに高ランク冒険者や貴族が大罪を犯した場合は即刻死刑だ。これはSランク冒険者になった時にギルド長から説明があった。確か模範となるべきの者の責任の取り方がどーのとか。
いろいろ考えると勇者世界にあった貴族街と言うのは、貴族にとっても一般人にとっても互いに利益のある合理的な政策だったんだな。門を分けるだけじゃダメだったか。




