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第14話 誓い

父が王都に出掛けると、通いで働いている従者さん達は一旦家に帰って家族と話し合う事になった。


俺とジュリエッタは、持って来た荷物をせっせと整理し始め、元々この屋敷に住み込みの侍女のテーゼ、執事のレニン、専属のコックのデリックは町へと食料の買出しに出かける準備をしていた。


念のため肉の塩漬けや魚の天日干しなど、日持ちを良くする日本の知識と食料はメモに書いて渡しておいた。


この世界の冷凍技術だが、魔法で食材を凍らせた後、氷の魔法陣を書き込んだ魔石を保冷庫に入れて魔力の供給を怠らなければ凍ったままの保存が可能だ。

流石に生肉は冷凍焼けするので一か月しか持たないが焼く、煮るなどの加工をすれば半年間は保存可能だ。


主食は小麦を使ったパンで、各家庭には普通に窯がある。なので飢えることは無いだろう。


屋敷も家庭菜園レベルだが野菜や果物も取れる。地球産の物とは形や色は多少違うが。まぁそこは置いといたとして玉葱やにんにく、室内で育てれるもやしなどがメインだが無いよりははるかに良い。


色々と食べ物に関して言えば、自分で書いたご都合設定だが結果オーライだ。やっぱ食については小説でも手は抜けないな。


夕方になり一時帰宅した従者達が戻ってきたので、ひとりずつ母と話している。


やはり一月以上家を空けるとなると、盗人などが怖いと言うことで使用人達はみんな帰る事になった。こっちにはホームセキュリティなど無いからな。


と言う事で残った者達が家事の分担について話し合う。


余談ではあるが、話している間に、テーゼとデリックが来年結婚をすると報告があった。おめでたい話だが、この話しもプロットにさえ書いた覚えもない。


そもそも、書いていた物語の中でテーゼはコレラで亡くなってしまうからだ。こうして、一緒に生活をしていると守るべきものが増えるのは当然の結果だと言えよう。


「ごめんなさいね。人手が足りなくてジュリエッタさんにも手伝いをさせる事になってしまって」


「お世話になるのは私ですし、こんな時期ですから」


母が申し訳無さそうにそう言うと、ジュリエッタは笑顔でそう答えた。


それにしても、ジュリエッタはとても10歳とは思えない口振りだ。2年前の出会った時から思っていたが、この世界の子供は全員が教養が高いのか?


正直言えば10年どころかそれ以上年齢を重ねた大人と話しているようだ。他の同年代もこうだとしたら相当大人びた世界なんだが、その大人たちはさほど違和感無いんだよな…


母達は慣れない仕事をしたので眠いからと先に就寝すると挨拶に来た。


「ねぇ、ヴェル。少し話しをしない?何だかまだ眠くないの」


そろそろ寝ようかと言い掛けたら、ジュリエッタがそう言う。自分の屋敷とは違うから少し興奮しているのかもしれない。


「うん。僕は別に構わないよ。それじゃ眠くなるまで話そうか」


「やった。ありがとね。そんな優しいところが大好きよ」


まったく。おじさんを誘惑するんじゃないよ。


「ねぇ、いつからヴェルは一人で寝るようになったの?」


「そうだな~。3歳ぐらいだったと思う。ほら、魔力操作の練習してたら気を失うだろ?怪しまれないようにこの書庫で寝るようになってからかな」


「3歳って、それはそれで凄いわね。私も最近は魔力操作の練習で一人で寝れるようになったけど、それでも最近まではお父様達と同じ部屋で寝ていたわ」


「両親と同じ部屋で魔力切れを起こすけにはいなかいから、いいタイミングだっかかも知れないね」


「うん、そうだね。それにしてもヴェルって不思議な子ね。本当に大人びているというか尊敬するわ。今日のコレラの話なんか、王宮医療技師のお父様が聞いたら何と言うか」


「ああ…それか。本当の事言うとこれでコレラを防げるかとなると根拠が無いし、普通に考えたら9歳の子供の言うことなんて信じないだろ?専門職や研究者が言うならともかくとして」


「それでもよ。あれだけ頭と口が回れば嘘でも信じてしまいそうになるわ」


「それって嘘だといっているのと変わらないよ」


「ごめん。そんなつもりで言ったわけじゃないって。それだけ説得力があったって言う事なんだから」


まぁ、いいさ…嘘でも本当でも。俺が知っている人達がコレラに掛かりさえしなければ。


それにしても、今更だけど、こうして気軽に話せれる同じ歳ぐらいの娘がいるっていいな。歳を重ねるごとに気を遣うことになるんだろうが。


それから他愛の無い話をしていると眠くなってきた。会話をしている間にあくびが出る。両親に声を掛けに行ったが寝室は既に鍵が掛けられていた。


「それじゃさ、ここで別れてそれぞれの部屋に行こうか」


ドアノブから手を離して自分の寝室に向って歩きだすと、パジャマの裾を引っ張られた。


「んっ。どうしたんだ?」


「ねぇ。一緒に寝ようよ。冬だし一緒に寝た方が暖かいから」


『予想もできないところから人生最初の一大イベントキター!!』ってどうすんだこれ。


人生経験はあってもこの手の経験はあまりないからドキドキするな。少女相手におっさんがなに動揺してんだろう。そしてつい出た言葉が…


「さ、寂しいのか?」


『俺のバカ。もう少し気の利いたいい言葉があるだろうが!』


「そんなんじゃないわよ」


ジュリエッタは頬を赤く染め照れていた、


そうだ。両親と伯爵夫妻にどんな目で見られるか。これはお断り一択だ。


「ど、どうかな?」


「そうだね。それじゃ寒いし一緒に寝ようか」


あれ?おかしい。心に決めたことと口をついた言葉逆になってるぞオイ。でもまあ、欲望や願望は無いにしろ、ジュリエッタが勇気を振り絞って言った言葉だ。


顔を見れば分かる。それに、ここでヘタレて断れば、失望されてこんな絶好好機(チャンス)は二度と訪れないかも知れない。


「それじゃさ、部屋で話をしてたら自然とお互いに寝てしまったって事にしようか?」


「うん。そうしましょ」


姑息だが他にいいわけが見つからない。でも待てよ。二人ともまだ幼いんだ。言い訳なんぞ必要ないんじゃないか?


そんな馬鹿な事を思いながら、そそくさと布団に寝そべる。あくまでも自然にだ。緊張した素振りなど見せたら警戒される。いや…待て。なぜそう思う?オレはまだ9歳児だぞ。


寝ようという雰囲気の中、頭の中だけは覚醒し、フル回転しながら掛け布団を掛けると、ジュリエッタもそっと布団に入りスッと手を握られる。


「ヴェルの手ってあったかいね」


手を握られたうえ耳元でのこの甘美なささやきは反則だ。鳥肌が立つような感覚を覚える。


『誘ってんのかこれは!!』


ちょっと待て。相手は10歳の子供だ。冷静になれ…俺は通算59越えのおっさんだぞ。こんな事で狼狽(うろた)えてどうする。


「そっか?自分で自分の事をあったかいって、普通思わないんじゃないかな?」


「そうか…そうだね。私ったら何を言ってんだろう。緊張してるからかな?」


布団で少し顔を隠し、舌を少し出し照れている彼女を見て心臓がドキっとしてしまった。そんな小悪魔的な表情をするジュリエッタは、親父キラーになるに違いない。


「寝る前に少しお願いがあるんだけど聞いてくれない?」


「内容次第だけど何?」


「ヴェルの将来の夢ってさ、2年前に聞いたけど、王宮騎士って言ってたじゃない?今も変わりはない?」


「うん、変わってないよ。でも、それがどうしたの?」


「それでね。知っているかどうか分からないけど、伯爵以上の上級貴族はね、自分のための専属騎士を指名する事が出来るの。それでもし、お父様のお許しが出たら、私の専属騎士になってくれないかなって思ってね」


「なんで、僕なんかを選ぶんだ?ちゃんとした大人の騎士の方がどう考えてもいいんじゃないの?」


「大人はちょっとね。それにヴェルほど将来有望な人なんてそうそういないわ。2年間一緒に勉強したり遊んだりして良く分かったの。今のうちに契約しておかないと誰かに取られちゃうかもしれないってね。そうなったら私は絶対に後悔する」


「買いかぶりもいいとこだってば。そこまで自分に自信がないし…それに、専属騎士の契約なんかしたら、将来王宮騎士にもなれないかもしれないじゃないのか?」


「ヴェルはどれだけ自分の事が優秀か分かってないのよ。それに、私が王宮医療技師になれば、ヴェルは自動的に王宮騎士となるわ。もちろん試験はあるけど、ヴェルの学力なら間違いなく余裕で合格よ。剣の鍛錬も付き合うからさ」


「へ~。で、それ本気で言っているわけ?」


「もちろん本気よ~。私の騎士になって」


よくもこんな恥ずかしい事を面と向って言えるもんだなと関心する。『将来〇〇君と結婚する~』みたいな、子供同士の結婚の口約束みたいなものか?


でも、この娘を守ると決めたんだ、別に約束など反故にされても、それまでは側にいられるだろうから、ここは良い返事をしておくかな。


「分かったよ。そこまで僕を買ってくれてるんだ。君を守る騎士となる事を誓うよ」


格好良く決めたつもりだったので、喜ぶと思ったのだが、なぜだかジュリエッタは涙をぽろぽろと流し始めた。


「何かマズかったか?」


「うんうん。嬉しすぎて涙が出ちゃった。私はこれからあなたに守られ、あなたを守る。あなたは私のもので、私はあなたのもの。必ずヴェルを大切にするわ」


「ありがとう。俺もジュリエッタを大切にすると約束する」


随分と意味ありげな言葉だなこりゃ。つい軽く返事しちゃったけど大丈夫なんかこれ?結婚でもする気か?


「それじゃ、寝る前に魔力操作と使いきりを実践しようとするか?」


「そうだね。それじゃおやすみ」「おやすみ」


はっきりいってこれは逃げだ。情けない話だが、これ以上何か起こったり意識したらどうにかなっちまう。とはいってもなにもしないし出来ないが。


それから、魔力操作をしながら限界まで魔力を使いきることにした。ジュリエッタも俺の手を握ったままひたすらヒールをかけた。


しかし、初めて知ったがヒールってやばい。ほんのり暖かいし、何も怪我してないのに体が癒されてる感じだ。それになんだか初めてなのに懐かしい感じがする。何かのデジャヴなのかこれは?


なぜだか、魔力量の多い筈の俺の方が、お風呂に入っている感覚になってしまい、気持ちが良すぎて先に意識を手放した。


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