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第132話 イケメンエルフの館

ショッピングモールから馬車で10分ほど進んだところで「あの家です」と指された方を見ると、俺が新築した王都の屋敷を二回りほど大きくした屋敷が建っていた。


さすがエルフの商人。長い人生を生きているだけに相当な資産家だと言うのが分かる。


(クルムさん。ついに勉強の成果を発揮出来る時が来たね)


(冗談はやめてよ~)


まあ、俺も平服だ。冒険者として招待されたわけだからそんな堅苦しい食事でもないだろう。今日の今日だし俺たちが断る可能性だってあったんだから。


馬車が玄関前に到着し、従者が馬車の扉を開くと二人をエスコートし、使用人が開けたドアに入る。


「ようこそ、ヴェルグラッド フォレスタ殿。今日は急な招待を受けてくれて感謝するよ」


色々な種族の使用人が並ぶ最奥にいるイケメンエルフの声が屋敷中に響き渡る。


どうやら、俺のフルネームを知っていると言う事は、俺の事はもう調べたんだろう。


だったら話が早い「こちらこそ、本日はお招きいただいてありがとうございます」と短めに返事をする。


すると、イケメンエルフが、こちらに向かって歩いてきたと思ったら、突然立ち止まり片膝をつき「今日は娘を救ってくれて心から感謝する」と、礼を言われた。は?


『娘?父?お兄さんじゃなくて?』


同時に女性だらけの使用人達も【ザッ】と言う音をたてて一斉に頭を下げる。


イケメンエルフに従者は女性ばかり、なんだかハーレムのようだな、


「お立ち下さい。そして皆さんも頭を上げて」そう言うと一斉に俺の顔を見る。何か言わないと…


「僕たちは、ギルドの依頼を達成したまでにすぎません。感謝はギルドへお願いします」


メリダさんの父は立ち上がり「それでも、実際に娘を救ってくれたのはフォレスタ殿です。感謝は当然です。遅れましたが私の名はテラント。商人をしております。以後お見知りおきを」と、ボウ・アンド・スクレープ。


俺達もそれに倣い、すでに手慣れた挨拶をする。


「素晴らしい作法ですね。従者の方の教育も行き届いているようですし」


そうお褒めを頂きクルムさんの口角が少し上がる。まだまだだよね…そういうところの脇が甘い。


だけど、イケメンエルフだと歯の浮いた言葉を言っても嫌味には聞こえないのはなんで?


それから、食堂に移動をすると


「秘蔵のワインがあるんだが、フォレスタ殿はいける口かい?」


「はい。食前酒程度なら喜んで。あと差し支えなければ僕のことはファーストネームで呼んで下さい」


乾杯をした後に高級な赤ワインを飲み、フルコースの豪勢な食事を頂いて満足をした。気合の入った食事はやはり旨い。


テーブルマナーもクルムさんに教えておいた甲斐もあって、少しぎこちなかったがこれならどんな所へ連れて行っても失礼はなさそうだ。


話の流れで、応接間に移動してから飲み物を頂く事になり、ソファーに腰を下ろす。


「時にヴェルグラッド殿。あれだけの山賊達を屠った君たちだ。是非とも護衛に来てくれないかと思っていたのだけど、君たちはSランクパーティなんだって?」


「ええ、そのとおりです」


「そうか…それは残念だ。それから、これも娘から聞いた話なんだが、今まで食べた事の無い美味しい菓子を頂いたそうだね。その菓子、もし良かったら私にも譲って頂けないだろうか?」


おお、そうきたか。常に商機を探ってるんだろうなあ。まあこれは俺にとっても悪い話にはならないだろう。


「もちろんです。こちらがマドレーヌと言う菓子です。お口に合うと良いのですが」


テラントさんはマドレーヌを食べると「うん。良い味だ。食感もいい。この菓子はどこで?」と興味深げにマドレーヌを見る。


「私の故郷に伝わる伝統の菓子です」


「故郷の伝統の菓子か…おもしろいな。レシピが分かるなら、その情報を取引しないか?」


「レシピは把握していますが、領主様に口止めされているので、領主様に確認してもらってもいいですか?」


「領主様も絡んでいるのか…君たちには驚かさればかりだよ。明日領主様が相談があるというのでお会いする予定だから、その時に許可をもらえたら正式に契約を結んでもらえないかな」


「もちろんかまいません」


テラントさんは満足そうな顔ど頷く。


それからも色々聞かれたが、面倒な質問はSランクパーティには秘匿義務があるからと断る。それだけで退いてくれるからこれは楽ちんだ。


数時間ほど話をしてお開きに。


玄関先で握手を交わすと「今夜は実に有意義な時間だった。ヴェルグラッド殿が大人になったら、ウチのメリダも婚期を迎えるのだけど、娘を貰ってくれたりはしないかな?」だって。モテ期なのか、単純に男が少ないからか会う人会う人嫁にと言ってくるな。


ちらっと、メリダさんの方に目を向けると顔と耳がまっかっかだった。


「…お父さんの馬鹿!」


「現実的には君みたいな将来有望な、いやすでに完成されていると言っていいSランクパーティの冒険者を商人が抱え込むなど女王陛下が許してくれないから、本当にメリダの事を気に入ってくれたらでいいので覚えておいてくれないだろうか」


その顔は本気だったが、ごめんなさい。100%それはない。メリダさんも美人だけど断然クルムさんの方が好みだし、何より4年後にはこの世界にはいないのだから。


「こんな年端もいかない私を買っていただいてありがとうございます。またその機会があれば…」


差し障りのない言葉で答えると屋敷を出る。


少し顔を赤くしたメリダさんに見送られ馬車に乗り込むと、沢山の使用人に見送られ宿に帰る。


(しかし、帰りの見送りまであんな人数って、子供相手に少しオーバーじゃないか)


(大商人の娘を無傷で山賊から助けたんだからおかしくはないんじゃない?)


(そんなもんかなー?)


(そんなもんよ)


(それにしてもヴェル君はモテモテね。親からだけど)


(なんか打算めいたものを感じるから、素直に喜べないよ。それにしても子供の姿の僕に護衛とか結婚とか、この世界の人たちってなにかおかしくない?)


(私はそうは思わないよ。逆になんでおかしいと思うの?)


(1番違和感を覚えるのは、大人が子供を一人前の大人扱いするところかな。そこらへんの認識が僕の常識と隔たりがあるんだけどこっちではみんなそうなの?)


(この世界は良くも悪くも実力主義だからね。あと、寿命や成長速度がそれぞれ違う種族が入り混じっている社会なのも大きな理由じゃないかしら。ヴェル君の外見で20歳や30歳って種族もあるし、そもそも大人子どもの定義も曖昧だから。特にエルフは見た目の成長が遅いからそこで判断しない傾向にあるのよ)


(なるほど…こりゃ認識を改める必要があるな)


日本でも、勇者世界でも人間にしかいない社会だったからあまり他種族の事は知らなかった。


見方を変えれば見た目は子ども、中身は大人がうじゃうじゃいるわけだから、むしろ俺みたいな人生三巡目でもさほど違和感なく過ごせるってことかもしれないな。


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