第130話 戦後処理?
メルス様との念話が切れると、クルムさんに事情を念話で説明する。武器は誰がどこで見ているか分からないので宿に帰ってから渡す事にした。
(なぁ~るほど)
(ザ・ワールド)
(なにそれ?)
(うん、ちょっとした合いの手。気にしなくていいよ)
そらからメルス様に言われたとおり、クルムさんのアイテムボックスにゲージを入れる。
(これでメルス様の依頼は達成ね。それじゃ後始末をとっとと済ませっちゃいましょうよ?)
山賊達の遺体を放置したまま洞窟の入口に向かうと、さっき助けた女性たちが転がっている山賊の死体を見て茫然と立ち尽くしていた。いや、山賊の死体を蹴飛ばしている女性もいる。本当に酷い扱いを受けてたんだろうな。
「あら、あなた達まだいたの?」と、クルムさんの言い方が挑発的。
「本当に、貴方達が倒してくれたのですか?」
村人では無さそうなドレスを着た女性が聞いてくる。くるりと手のひらを返した態度に複雑な心境で頷く。
「だから言ったじゃないのよ。助けて貰ったのにあんな失礼な態度をとられたのは初めてよ」
「ヴェル君、ちゃんと言ってやんなさい!そして分からせてあげなさい!Sランクパーティにどれだけ失礼な態度を取ったのかを!」
クルムさんがそう言うと全員がこっちを見る。ギルドカードを取り出して掲げると、全員がその場でこちらに向かってひれ伏す。
と言うか、クルムさん随分ギルドカードを安売りしてるけど、元々俺たちのSランクはおおっぴらにしないって方針だとギルド長は言ってなかったか?
そう思いつつ。俺の脳内ではパファーと気の抜ける効果音と共に「ええいひかえいひかえおろう!ここにおわすお方をどなたと心得る。恐れ多くも…」と台詞が聞こえてきた。
「やめてよ、僕はちりめん問屋じゃないんだから。さぁ、立って立って!」
と言いつつ色々な部分ですっきりしたのも事実。ふふん。俺は聖人じゃなくて俗人だからな。ちょっとだけ溜飲が下がったよ。
「それでは、皆さん。聞いて下さい。つい20分ほど前にギルドに山賊達は壊滅させたと連絡をしてあります」
それから女性達にギルドからの迎えが来るの1時間ほどかかるんじゃないかと思ってると告げ「直ぐに帰してあげたいけど」と前置き。
森には魔物がいること、せっかく助かったのだから全員無事に町へ帰って欲しい、そのために今はギルドから人が来るまで座って待つように、と要点を簡潔に話すと女性達は素直に座り始めた。
「怪我をしている人や体調が悪い人はいませんかー」
と女性達に向かって確認すると、俺と同じ歳頃の少女が立ちあがり喉の渇きと、空腹を訴えてきた。
そう言えば俺が転移してきた時にも教会で食べさせて貰ったな。
一度は失礼な態度をとられたけど一応食べる物も持ってる。ほっとくと後味が悪いし、女性達も好きで攫われたわけでもない。家族を失ったりして辛い思いをしたんだからここは食糧を出すか。
ただ、流石にそのまま放置されている山賊の死体の前で食うのはちょっと勘弁して欲しい。
露天で買いまくった串焼きなんかがクルムさんのアイテムボックスにあるので洞窟の中で配る事にした。
串焼きは人数分無いので大量に作ってあったマドレーヌとどちらかを選んでもらう。
飲み水は水属性の魔石を使ってなんとかなるな。
衛生面が気になるので食事を配るときに体、服、コップを浄化魔法でキレイにするとスッキリしたのかとても喜んでいた。
「本当にヴェル君って甘いわね。まぁそこがいいんだけど」
「よく婚約者の二人にも言われたよ。その甘さを自分に向けてくれたらいいのにだって」
「私もそうしてほしいわよ」
「へいへい」
すると、食べ終わったのか一人だけドレスを着た女性がこちらに向かってきた。名前は憶えていないがあれがエルフの大商人の子女だろう。
「冒険者様、さきほどの失礼な態度をお詫びさてください、そして食料の提供と浄化魔法、心からお礼申し上げます。ありがとうございました」
「いいですよ。もう謝ってもらったし皆さんも好きで捕われたわけじゃない事は承知していますから」
それから詳しい事情を聞くと、今いる女性と子供は10年前に魔王軍との戦いで家族を亡くした孤児が集まった村で育った者達ばかりなのだとか。
当時はその中には若い男もいたが、老人は山賊に殺され、夫や恋人だった男たちは彼女達を人質に取られ無抵抗のまま闇商人に売られていったとの話だった。
『そりゃ、足蹴にもするわ』
(この世界では、男の方が価値があるの?)
クルムさんの話では魔王軍との戦いで男の人口が圧倒的に少なくなったため、労働力となる男性のほうが需要が高く奴隷として高く売られるそうだ。
ちなみに、ここにいる女性も奴隷として売りには出されていたが、今まで買い手がつかず残ったまま牢で最低限の生活を強いられていたとのこと。
これだけの数なら中には魔法を使える者もいたんじゃないかと聞くと、牢の中では魔法が自分に跳ね返ってくる魔法が仕掛けられていたのだとか。
(この世界には反射魔法があるの?)
(ええ。あるけどとても希少なスキルよ。耐久性や強度は術者の実力に関係してくるの)
結界の魔石は無いのに反射魔法は平気であるんだな。これは覚えて帰りたい。
どうやったら覚えるのかと聞いてみると、周りに取得した人がいないので噂レベルだけどクラス3の職業のボーナススキルと言われている。ただどの職業かはわからないとのこと。なんとか見つけて4年以内に是非とも覚えたい。
(でもさ、山賊の中にAランクっていうかクラス3のやつはいなかったよね?)
(闇商人が絡んでいるから闇ルートでそんな魔道具を手に入れたか、それか強奪した物の中にあったかどちらかじゃないかな?)
(なるほどね)
そんな話をしていると、やっとギルドからの迎えがやってきた。
第一声が「なんだこれ!ドラゴンでも出たのか!」だった。
そうです私がドラゴンです。と言う前に人質だった女性たちが勝手に説明してくれる。
それから、ギルド一行は実況見分などせず遺体の処理に入る。戦利品などは、ギルド職員やギルドで雇われた冒険者達に全てお任せした。
「それじゃ、僕たちは帰ろうか」
「今帰るとギルドに雇われた冒険者に戦利品をちょろまかされたりしない?」
「そんな事をする人いるの?」
「そりゃ、大量の金貨を目の前にしたら、1枚ぐらいならバレないだろうとポケットに滑り込ませたりする人はいるよ。近場の護衛だと報酬が少ないからね」
がめつい雇われ冒険者だと、マジックバックで大胆に盗みを働く者もいるのだとか。うへえ。何を信用したらいいんだよ。
「監視なら任せて下さい。私達が見張っていますから」
と助けた女性達が次々に「私達に任せておいて」と声を上げたので、それならばとお任せして、とっととドロンする事にした。
帰り際、山賊達の死体ををどうするのか見ていると、身包みを剥いで裸にした後に、冒険者が土魔法で穴を掘り、火の魔法で焼却。かなりインパクトがある。いや、見なければ良かった。
現場からは宿に直行して、俺もクルムさんも取り敢えず飯を食べたあと仮眠を取ることにした。惰眠じゃなくて仮眠。一文字違うだけで天と地の差があるな。
「ヴェル君これよかったら使うといいよ。部屋にとてもいい香りが充満して気持ちが落ち着くから」
クルムさんが、小さな花瓶と線香のようなものを渡してきた。
「お香?」
「あら。知ってるのね」
いや、ここにあるのは知らなかった。こりゃありがたいと頂戴して、早速焚いて蒸しタオルを目の上に乗せると一瞬で意識を手放すのだった。




