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第128話 山賊討伐

翌朝、まだ日が昇る前に出発する。眠いなあ。依頼が終わったら惰眠を貪ってやる。休みを好きな時に取れるのは冒険者のいいところだ。


薄っすらと日の出を迎え全力疾走で森の中を掛けていくと徐々に眠気も覚めていく。


クルムさんも本気のようで今日は迷宮アタックと同じ冒険者の服装だ。


途中で魔物や動物達と遭遇するも、何もなかったかのように無視して走り過ぎ去る。


忍者の如く疾走しつつ《イメージ》索敵を掛けながら突き進んで行くと人の反応があった。


(クルムさんストップ!)


相手がBランク以下の集団とは言え無策で突っ込むなど危険だ。


生い茂る草の影に潜み索敵反応があった場所を望遠鏡で見てみると、削りたての鉛筆ような尖った柵が山の一部を取り囲っていた。


クルムさんに空を飛んでもらい、上空からも望遠鏡で探りを入れて貰うと、山賊達のアジトは鉱山の廃坑のようで、4か所に見張り櫓があり門は閉じられていると報告があった。


ここまでくると、ちょっとした砦だな。兵士を派遣してもいい案件じゃないか。


「ちょっと確認なんだけど、生死は問わずって書いてある場合どっちを優先させるべき?」


「全滅させる方が簡単で時間もかからないわ。討伐確認のために遺体はそまま放置というルールはあるけど、人は浄化では消えないし経験値も入らないから思う存分やっちゃってかまわないよ」


魔物と違って人同士で殺し合っても経験値は入らないのか…


「ヴェル君に質問なんだけど、いつもワイバーン戦で使うグラビティロードとやらで山賊どもを足止め出来ないの?」


「そう言えば説明してなかったっけ。これはたぶんレベルの問題だとは思うんだけど、単体ならともかくとして複数人には使えないんだよ」


「そっか。そんな都合よくはいかないんだね」


最初の頃は、触れたものにしか効果はなかったが、いまでは離れた場所の相手にまで効果が上がっている。魔法攻撃かあるいは魔力操作のレベルが関係していると思うのだが…


とにかくだ、この第三世界では閃光も使えないし、グラビティロードに関しては奥の手だ。


作戦と言えるほどではないけど相手に油断して貰うためにここは単独で討伐をしに来たと思わせよう。まあ2人だから誤差と言えば誤差だ。


クルムさんに空から見張り櫓と柵の破壊して貰い、俺が囮となって突っ込むことにした。


もっとも上空から魔法攻撃を仕掛ける分布には柵の意味は無い。魔法を防御する壁があったとしても、バフを掛けた状態なら無意味だろう。


ギルドの対魔法防御加工された壁をぶち抜いたんだから山賊砦ごときただの塀と一緒だ。


身を隠していた場所から音を立てないように木に隠れながら移動して、魔法の射程距離内に入る。


(それじゃやるね!)


クルムさんは「アイシクルランス」と詠唱。4つあった見張り櫓は、次々に爆発音をたてて崩れさる。


ラッキーな事に、その爆風で一部の柵が巻き込まれてアジトの出入り口が丸見えになった。


すると、砦の上部で太鼓の音がドン!!と鳴り響き「敵襲!!全員武器を持って配置につきやがれ!!」と男の声で何度も繰り返し聞こえてくる。


こちらの狙い通り山賊達がうじゃうじゃと廃鉱の洞穴から出て来た。


最終的に出てきた山賊達はギルドの情報よりも多く、50人は遥かに超えていて、驚くことにその半数以上が女山賊だった。


ギルド長達が心配していてくれたのは、ひょっとしたら、戦闘力ではなく精神面の心配をしていたのだと今さらながらに思うが無問題。


これはメルス様からの依頼だし、女賊達は、罪のない多くの村人を殺した殺人犯であり若い娘達を攫った誘拐犯…


つまり、人語をしゃべる魔物に他ならない。こいつらのせいで家族と離れ離れになったり、親を無くしたり一生トラウマなるような辱めを受けた人のことを思うと慈悲をかける必要はない。


ある意味メルス様に感謝だな。初めて殺す人間が人でなしで良かった。これが侵略戦争とかで無差別に罪の無い人々を攻撃しろと言うのであれば良心の呵責に耐えられない、しメンタルに大きな傷が残るかも知れない。


刀で攻め込もうと思ったが薙刀に得物を交換する。


「どこのどいつだ、大事な砦をぶっ壊しやがって!てめえら!次の魔法が発動する前に殺せ!こそこそ隠れているようだから見つけ出してやっちまえ」


山に囲まれているせいか、反響してよく声が響く。


だが山賊の言うとおり、これだけの人数が同時に襲い掛かってきたら、魔法を詠唱する時間1秒すらスキとなり攻撃を受けるかも知れない。もっとも、防御を通すほどの攻撃力があるかはまた別の話だけど。


(やつらの言うとおり魔法を使う余裕などなさそうだな。さっきも話をしたけど、手の内を晒す必要はないからまず僕ひとりで出る。クルムさんは後方から援護よろしく)


(分かったわ。私は作戦通り空中から魔法で支援するね)


念話を切り精神統一をすると、薙刀の柄を握りしめたまま山賊達の見える位置まで移動。


遠くに離れた位置には女山賊だけで構成された弓隊が俺を狙い弓を引き始める。


「なんだなんだ、ケツの青いガキひとりじゃねーかよ!てめえら!こんなガキなんかさっさとやっちまえ!いいか!容赦するんじゃねーぞ!さっさと終わらせろ!」


リーダー格の男がそう言うと「うぉぉぉぉぉー!」「このくそガキ死ねや!」そんな声と同時に爆発音が鳴り響く。


それと同時に小高い丘の上にいた女ばかりの山賊達から大量の矢や魔法の矢が放たれる。必勝パターンなんだろうが子ども相手に大人気ないなあ。


その瞬間、縮地で前方へと移動。矢や魔法の矢は縮地のスピードには付いてこられず、矢を置き去るように後方の地面に突き刺さる。


山賊からの魔法攻撃はそれほど多くは飛んでこない。


リーチの長い薙刀を振り、後ろに回られたり、屍が一か所に溜まらないないように縮地で移動を繰り返しながら、皮の盾ごと横薙ぎで山賊を斬り倒す。


血のりが付着した薙刀を聖魔法で浄化しながら山賊を倒していると、クルムさんが上空からの魔法で女山賊たちを吹っ飛ばす。


すると丘にいた矢を放っていた女山賊達の四肢の部位が空中に舞い無残な姿に…


それでも人数が多いだけあって服を掴まれて袖の部分が破れたり、エアカッターを喰らったり刃物を当てられたりする。いやー、ホント子ども相手に容赦ない。


おねーさんだかおばさんだかが躊躇いもせずに刃物を向けてくる。とは言えワイバーンの装備に破損はあっても体に傷付けるほどではない。


それからどれぐらい時間が経ったのか分からないが、クルムさんと、俺、呆然と固まるリーダー格の男を残すのみとなった。


クルムさんも、多少のダメージを喰らっったのか?俺と同じで服に損傷は見られるものの無事なようで安心。


リーダー格の男と対峙すると「この人数をたった2人だけでだと!信じられねー!この死神野郎が!こうなったらみんな殺してやる!」と言い放ち、振り向いたと思うと山の麓にある洞窟の出入り口に向かって突如走り出す。


するとクルムさんが空を飛んで先回り。


「この卑怯者!逃がさないわ!」


と、クルムさんが立ちはだかる。


「今さら人質を盾にしようなんて甘いわよ。それでも元Bランクパーティにいた冒険者?頭も悪いし、図体がでかいだけだったから追い出されたのね。同情はしないけど」


クルムさんがそう煽ると、リーダー格の男は歯ぎしりをしながら顔を真っ赤にして短刀を振り上げる。


「グラビティロード」


咄嗟に重力魔法でリーダー格の男を足止めすると、そのまま背後から縮地を使い心臓目掛けて刀を突き刺す。


リーダー格の男は俺の方へ振り向き、血を吐きながら「次こうなるのは、おまえかもしれねーぞ」とかすれ声で言うとこと切れた。


戦いが終わり俺は自分の顔に浴びた返り血を外套の袖で拭い、大量の山賊達の亡骸を見つめる。


次は俺の番だって?寝言は寝てから言え。散々人に迷惑をかけてきた犯罪者が死ぬときだけお前が悪いみたいな言い方するんじゃないよ。復讐の連鎖みたいなこと言ってるけど、ここにいる悪人はお前らだけだ。


初めて、そして大量に人の命を奪ったからもっと堪えるかと思ったけどそうでもないらしい。


罪悪感を覚える余地もない悪人だったからなのか、メルス様がこの世界に適応できるよう感情補正してくれたのか、精神耐性といった隠れれたステータスがあるのかもしれない。


いずれにしても今後人の命を奪う機会は一生来ないとも言い切れない…


人道的なとこで見れば、その事実が嫌悪の対象になることもあるだろう。ただこれから最後は魔王と戦うわけだから、冒険者として、勇者として糧にするしかないな。


さあ。人質とフェンリルを助けてさっさとギルドに報告しようじゃないか。そして惰眠を貪るんだ。

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