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第126話 変化

宿に戻ると領主に山賊退治をする旨を伝える手紙を書く。


交通手段確認のためクルムさんに馬に乗れるのかを聞いてみると「これでも長い人生を生きているからね。馬ぐらいのれるよ」と問題ないとの事。


ならば御者や馬車を用意する必要はないだろう。思ったよりは早く取り掛かれるかも知れないと思いペンを取る。


ギルドで山賊退治の依頼があったこと

依頼を受ける冒険者がなかなかいないと聞いたので自分たちがその依頼を受けたこと

領主親子の護衛の依頼を受けているが同行が難しくなってしまった。できれば同行を免除してもらい山賊退治の後に合流する許可を欲しいこと


を簡単にまとめ貴族らしい上品な言葉で手紙を書き終えると宿から領主に送って貰った。


すると、寝る前には返事が返ってきて、山賊退治には誰も名乗りを上げなかったからと感謝とねぎらいの言葉が綴られていた。


ついでに馬も用意してもらえることになったので、王都まではクルムさんと二人で向かい、山賊を退治したあとに、現地もしくは王都近辺で領主一行と合流することになった。


それからドレスが出来るまでは毎日迷宮に潜りスキルアップを図りながら、宿では社交ダンスのレッスンに励んだおかげで、だいぶマシに踊れるようになった。作法やマナーまでは間に合わなかったので道中もしくは宿泊先でやるしかないだろう。


あと、ギルドに出発の日を報告に行ったとき、たまたまギルド長がカウンターにいたので謝っておいた。


「この前は、壁を壊してすいませんでした」


「いいってことよ。山賊討伐の依頼を受けてくれたんだってな。ありがとな。Aランク以上のパーティは、割に合わないとか人相手の戦闘とかは嫌がるんだ。魔物と違ってあの数だと集団で抵抗するだろうから、くれぐれも油断だけはするな」


「油断してれば負けるとでも言うの?そもそもこれ、Sランクパーティが手を焼くような依頼だと思ってるのかしら」


クルムさんがオレの前に出て嫌味っぽく言う。確かに、人を危険人物扱いするくせにBランク集団に本気で負けると思ってるのか。Sランクの希少性ってその程度?


俺の知識のSランクよりも随分緩いんだろうか。正直ここのギルドの人たちの反応がイマイチすぎてモヤモヤする。ぶっちゃけそこは「お前らやり過ぎるなよ」とか「討伐証明できる程度に原形はとどめておけよ」なんじゃないだろうか。


どっちにしろ言葉を失くしたギルド長の前でこれ以上居心地を悪くしたくなかったので、クルムさんの手を引っ張りダッシュでギルドを後にした。


さて、ドレスができる前になんとかクルムさんも完璧に踊れるようになった。これも俺にダンスを特訓したジュリエッタ師匠のおかげだ。間に合って良かった。


ベッドに入ってヒールを使って魔力を消費していると、ジュリエッタやマイアの顔が思い浮かべながら、第三世界に来てそこまで経ったわけじゃないのに、最近自分の態度や言葉遣いが随分と変わってきたことを自覚する。


どういうことかと言うと、ここには勇者世界のような高い身分もなく、魔王を倒すという使命もなく、ただ日本にいた時のようなモブ的な(もちろん能力はチート級だと言うこと、今後貴族になる可能性は織り込んだ上で)立ち位置が思った以上に気楽だということだ。


もっと言うと傲慢手前の傍若無人まではいける。メルス様の言い方では、俺より強い存在がいないんだから。


何よりそのメルス様から自重不要と言われていることが大きい。


おまけに4年と言う時限的なもので、爪跡を残す必要もやらなきゃいけないこともない。ただ勇者世界に戻った時のために強さを発揮し、さらに成長することだけ注力すればいいのだから。


「向こうの世界では気を抜けない毎日だったからな」家族を救うために「こうあるべき」とか「自分が率先してみんなを」と振る舞ってきたからおおよそ子供…いや自分らしくはなかったと、今さらながら思う事もある。


少なくともこの世界ではやりたいことをやりたいようにやっていいわけだ。ここでは心臓の病気も世界に害を及ぼす存在も無い。ただチート能力を持った異端者として4年間で経験を積み上げもっと強くなるだけだ。


そう考えると結構楽しいかも知れないよな。


 翌朝、朝食が部屋に運び込まれたときに、クルムさんのドレスが出来たと言付けがあった。


朝食を済ませ仕立て屋にいくと「ヴェルグラッド様。お連れ様の試着のご用意が出来ております。こちらでお待ちください」と、ソファーに腰掛けるように促された。


「ヴェル君。それじゃ行ってくるよ」


笑顔で手を振り去って行くクルムさんとは対照的に、店主や女従業員たちはよほど頑張ってくれたのか、全員の目は赤く、疲労が表れていた。うん。ごめんよ。


それから10分ほど待つと桜色のドレスを纏ったクルムさんが恥ずかしそうに出て来た。いや、これは目を奪われる。


綺麗なカーテシーを見せながら

「どう?似合うかな~。ん?どうしたの?なんか顔が赤いよ」


「似合い過ぎて、適当な言葉が見つからない」

どこかで聞いたフレーズだけど…


たったひとつ確かなことがあるとするのならば

「君は綺麗だ」


クルムさんが、着替えに戻ると、あまりの出来の良さに『グッジョブ!』と親指を立て料金を払う。もちろん最高の仕事に対しての敬意を見せるため店主や女性従業員には、がっつりチップをはずませてもらった。


それから、ドレスの色に合わせながら白のパンプスと試着で付けていた髪飾りを選ぶ。いやー、こういう金の使い方は楽しいな。


店の最初の印象は最悪だったけど、手のひらがクルッと返って評価は一転した。良い仕事してますねえ。


それから市場に寄って食糧やアイテムなどを買って回り、全ての準備が整い宿に戻ると、既に馬が2頭用意されていた。


チェックアウトして従業員に挨拶し、いよいよ出発だ。


そう言えば勇者世界では、俺がどこかに出かけるといつもトラブルや足止めがあってしばらく帰れないことが多かったな。


でも盾とスピアを取りにこなくちゃいけないから今回は予定どおり数週間で帰ってくるぞ。


とりあえず、メルス様の依頼をサクッとこなすとするか。フェンリルちゃん、直ぐに助けるからね。山賊どもも覚悟しておけよ。

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