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第125話 仕立て屋にて

翌日、朝食を済ませてギルドに向かう。


「ヴェル君。今日もダンスの特訓するの?」


「ギルドから帰ったらやるよ?」


そう答えると、クルムさんがげんなりした顔を向ける。


そんなに練習が嫌なのか?まあ俺も好きではなかったけどそこまでかなあ。冒険者に限ると踊る機会もないし。ん?踊る機会がなかったったことはもしかして…


「クルムさん。ドレスって持ってる?」


「あるわけないでしょ。今までそんな機会も必要もなかったから。だいたいドレス持ってるくらいならダンスだって最低限は踊れるはずよ」


「それじゃ、ギルドの帰りに先に仕立て屋でドレスを注文しよう」


「やったね!」


ギルドに着くとそれなりに賑わっていたのが、俺達を見るなり急に静かになって海が割れるように受付までの道ができた。ん?と思って周りに目を向けても冒険者が視線を合わせてくれない。


その代わりあちこちでヒソヒソ話しているのが聞こえてくる。


「あいつらは危険人物だから関わっちゃいけねぇ」


「噂ではパーティに誘った冒険者がこっぴどくやられたらしいぞ」


「あいつらに助けられた冒険者も多いって聞いているぞ」


うーん。事実じゃないこともいろいろ言われてるな。まあある程度の噂は想定どおりだ。


ただ、受付嬢のキャサリンさんまで顔を引き攣らせている。初めての間柄じゃないんだからそんな反応する必要ないだろう?最初に失礼な態度だったからまだビビってるのかな。


まあいいや。まずはメルス様の依頼を受けないとね。とギルドの壁に掛かっている依頼ボードを見てみると、各都市に向かう護衛依頼がが多い。


条件がAランクパーティ以上用の依頼ボードを見ていると、メルス様から指示のあった依頼表が一際目立つ位置に貼ってあった。



      ― 緊急依頼 ―



依頼内容:ラコス山を拠点にして活動する山賊推定50人以上の討伐。


依頼者:ラコスの町 冒険者ギルド支部。 


条件:Aランクパーティ以上。生死問わず。


報酬:出来高。最低保証(一人に付き金貨1枚)


別途アジトからの回収品は応談。


概要:山賊のボスは元Bランクパーティの冒険者と名乗っている人族の大男(推定される職業:暗殺者)


最近、王都に続く街道の途中にある、ラコス山近辺の村が次々と山賊が金品を強奪、村の女性、男女の子供が攫われると言う事件が多発している。


闇ルートを使い、違法である奴隷として売られているとの情報もあり売られる前に救って欲しい。


最新情報では、人質にテラント商会の子女である、メリダ嬢も含まれており身代金を要求されているとの事。


至急対応出来る勇敢な冒険者を求む。


ほうほう。それにしても数多いな!でもボスがBランクか。あのゴロツキみたいな奴らや俺たちが助けたパーティーと同ランクじゃん。


ぶっちゃけ勇者世界でも、ここでも圧倒的な個の前には数は意味がない気がするから、同じ程度であらば何人いても怖くはない。


強いて挙げれば、人数が多い分まとまってこられたら勇者世界の野盗のほうがかわいいぐらい?


俺が日本で親しんだRPGの主人公がレベルが50なら、モンスターのレベルが20でも5でも倒す時間も手間もそんなには変わらない。まあ単純に一緒に考えるのは危険かも知れないけど。


でもさ、王都、領主、山賊ってキーワード。これって勇者世界で俺がしてきた事をトレースしてる気がする。手抜きかよ!


ま、メルス様が選んだ依頼なんだからそれは無いか。


依頼表を外して、キャサリンさんのところへ持っていくと、依頼内容を見て俺たちを見る。


「受けていただけるのですか?実はここのギルドからこのような大型案件を受注されることはほとんど無くて…」


え?俺たちSランクなんだけど…危ないと思われてるのかな?ギルド長がSランク認定が2年ぶりって驚いていたけど実はそんなに珍しくないとか?


「問題ありません」


視線が気になったので振り向くと俺との目線を一斉に外す。ほらね、言っちゃなんだが今すぐにでもここのギルドを無傷で制圧できるよ?まあここには50人はいないだろうけどさ。


「分かりました。誰も受けて頂けなくて困っていたのも事実です。よろしくお願いします。いつ頃出発していただけますか?」


「準備が出来次第ギルドに報告します」


一応領主に報告しなければいけないしね。


「分かりました。それではそのように手続きを致します」


「それでは宜しくお願いします」


相変わらず居心地の悪いギルドからはとっとと退散しよう。


それから宿屋の近くで見つけたいかにも高級です!といったう店構えのドレスの仕立て屋に移動した。


「この店は女性専用の店でございます。念のため確認させていただきますが…こちらのメイドのドレスをご所望でしょうか?」


まぁ、メイドのために店に行くなど普通はありえないのだろうけど、いちいちお前は場違いだと言わんばかりの言葉にイライラする。カルシウムが足りないのかな?


「ちょっと事情があるので彼女のドレスを大至急仕立てて欲しいのです。陛下の謁見に恥ずかしくないドレスを3日以内にお願い出来ますか?」


語勢を強めて、武器を買いそろえる為だったはずの金貨が詰まった袋をドンと机に置く。


すると店主らしき男性が焦った顔で


「畏まりました、当店で最高の物を用意します。それから最上級の素材を使いましても、ここまでの金貨は必要ありませんので一旦お納めください」


店主が声をかけると現れた女性従業員が「えっ、なに、なに」と戸惑っているクルムさんを採寸に連れて出ていった。


うっかり感情が言葉と態度に出てしまった。まだまだ俺も青いな…でも逆を値踏みするような態度はいただけないと思う。


それと別に個人的にも美女にはそれ相応に着飾っているのを見てみたいしね。


採寸が終わると「ドレスのは何色が似合うかしら?」と聞かれた。


クルムさんの髪の色は桃色だから「薄いピンクが似合うんじゃないかな?」と答えると嬉しそうに「じゃあピンクで」と答えてる。


そこまで決めると手付金を払って店を出た。


最初に俺がイラついていたのが分かったのか、クルムさんはもの凄く素敵な笑顔で「ヴェル君。ありがとう」と、一言。


「いいよ。気にしないで。クルムさんが美しく装うのは僕も嬉しいからさ」


そう答えると、クルムさんはもじもじしながら照れている。


たった一言ありがとうと言われただけで気分が良くなった自分に気付いて、思わず自分のちょろさに苦笑いしてしまった。


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