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第122話 Aランク迷宮にて

訓練所で色々やらかしたので宿についてからギルドでの行動について振り返ってみた。


実力の一部を見せたことで噂が広がれば他の冒険者に絡まれることは無くなるはずだ。パーティの構成上舐められやすいから、これは大きなメリットだろう。


訓練所の弁償は特に問題無い。また、禁止されたことをやって壊した訳ではないので、そのことで怒られることは無いと思う。


そう言う意味でマイナスは訓練所の修繕費用だけだから、トータルで考えると今後の行動を考えるとプラスだった気がする。よし、あれは正しかった…と言うわけで明日からの迷宮アタックについてクルムさんと話し合った。


魔石や素材を売って得た収入の分配は、孤高の風同様に得た金額の半分は活動資金。残りは均等分に振り分ける。


職業については、昨日のギルドでの反応を見る限り、どれにしても誤差レベルな気がするのでスキル優先で決める。俺は予定通り盗賊にジョブチェンジし、クルムさんは神官を目指す事にした。


勇者世界で得た剣技スキルは使えないし、ステータスのランク評価は軒並み下がっているけど物理攻撃はほぼ下がっていないし身体強化もある。


メルス様からもらった刀もあるし、サムライ道もあるので物理攻撃にはなんら問題ないだろう。


「それにしてもさ~。ヴェル君はともかく私まで危険人物扱いは納得いかないよ」


「バフをかけたとは言え、元々クラスチェンジしてるのだから一般の枠に収まらなくなるのは仕方ないでしょう。パーティなんだからいつも一緒にいるし」


「あら。いつも一緒だなんて…」


「メルス様にも言われているとおりこの世界ではそうなりますね。勇者世界にいけば、僕とじゃなくても結婚出来ますよ」


優先されるべきは既に婚約関係にある二人だ。俺の身勝手な行動で彼女達を傷つける事は避けるつもりだ。


「クルムさんに言っておきます。今後は僕の反応を試したり暴走するような言動は控えてください。人前では特に。キレイなおねーさんがショタ全開で、それにホルホルするイロガキってのは絵的に耐えられないし、どこにもニーズがありませんから。いいですね?」


クルムさんは戸惑ったように「ショタ?ホルホル?ニーズ?向こうの世界の言葉かしら?よく聞き取れなかったけど…今みたいにヴェル君のことを気に入ってることを出してはダメなの?」


いかん。ここでは読者はいないんだった。


「クルムさんは美人だし、僕にとってすてきなおねーさんですが、ハッキリ言えばそれは恋愛感情ではありません。いいですか?確かに別世界ではひと回りしていますけど、ここでは10歳です。身体も中身もです。考え方や感覚に捉われることはあっても欲求とかは追いついて無いんですよ。例外は前世でよほど好きだったのか酒くらいですね。だから、自分で言うのもなんですが、あまり好意をアピールされると逆効果になると思います」


「そう…肝心な時に嫌われたら困るから考えてみるわ」


がっかりさせたかも知れないけど、俺がこっちで思春期のめんどくさい時期あるかわからないけどを迎えてあれが続いてたら、もっとめんどくさいことになると思うんだよな。猿になる未来しか見えないし…なのでここは理解してもらおう。


それから大浴場で汗を流してからクルムさんとラウンジで乾杯。さっきああいう話をしたばかりなので今日はどうするのかと思ったら「それはそれ」の一言で片付けられた。流石クルムさん。


ちなみに、飲むのはそれぞれ一杯だけと決めたので、こないだみたいなことにはならないはずだ。


それにしてもこの宿。時間帯が合わないのか他の客をあまり見ない。いても金持ちっぽい高齢者か女性ばかりだ。高級宿を謳っているのは分かるが経営は大丈夫なんかな?


 さてさて翌日、クルムさんも今日はメイド服ではなく冒険者の恰好だ。これから本気でAランク迷宮攻略に向かう。


途中道具屋で紫色をした転移の魔石を買った。1個のお値段が小金貨3枚もするから予備も含めると使い捨てにしては結構な出費だ。


必要な準備を整えて前回孤高の風としてリタイアした17階層からスタートする。


索敵をかけると、近くに反応があった。


いきなり、毒の牙で攻撃をしてくる巨大な赤いコブラ、レッドサーペントとエンカウント。


俺が縮地で攻撃を躱すとクルムさんが「ファイアランス」と詠唱。炎の槍が命中するとレッドサーペントの胴体を貫通し難なく倒す。


それからも、大型の魔物と何度も戦ってこれまでの感覚を修正していく。刀の威力は下がったが身体強化と付与魔法でバフれば体感ではそこまでの差を感じず戦える。


クルムさんと俺との差も、物理はともかく魔法に関してはバフをかけることによって、これもほぼ埋められていた。


ひととおり検証を進めて索敵を掛けながら迷宮を走っていると、遠くの方で冒険者が魔物と交戦しているのが見えた。


迂回するわけにも邪魔をするわけにもいかないので様子を見ながら近づくと、ワイバーンとギガントオーガを相手に男一人、女二人の冒険者パーティが戦っていた。どうやら苦戦しているようだ。


ワイバーンが冒険者達を威嚇すると女性冒険者2人が魔法攻撃で応戦するが、それをなんなく避けると空中に飛び上がる。その隙にギガントオーガが丸太を振り回すと、それを受けた男性冒険者が盾ごと弾き飛ばされて木に直撃し気絶。


女性冒険者は男性の冒険者がやられて茫然としていた。うーん。このままじゃ全滅だ。


「これって助けた方がいいよね」


「そうね、ヴェル君、ワイバーンは私に任せておいて、ここで重力魔法は見せるべきではないわ。ギガントオーガは任せるよ」


俺は頷くと女性冒険者に

「手伝います。そこの男性を連れて下がってください」と叫ぶ。後でマナー違反とか言われても困るからな。


それから得物を刀に変更して、3m超えのギガントオーガと対峙。


丸太を振りかぶろうとする動作に入ると同時に縮地+居合で、ギガントオーガの丸太より太い足を斬り落とし、バランスを崩したところを右薙ぎで首を刎ねる。


納刀して、空を見上げると、クルムさんが光ったと思ったら約20本の氷の矢が顕現し、ワイバーンに向かって弾幕のように放たれる。


バフの効果もあるんだろう。空中からの魔法攻撃は非常にかっこいい。氷の矢がワイバーンの羽に当たると羽が凍り、ワイバーンの動きが止まりそのまま炎の槍でトドメを刺す。


「ひょー、かっちょいい」と思わず声が出る。


ピンチに突如空中からの救援って正義ヒーローそのものだな。ちょい羨ましい。と言うか俺もやりたい。


クルムさんが、素材、魔石、浄化をしている間に、助けた冒険者パーティに、ヒールを掛けて怪我を治してやると、気絶していた男冒険者は目を覚ます。


「何が起こった!?」


女性冒険者が経緯を説明すると、男の冒険者はすぐに理解したらしく


「少年。ありがとう助かった。俺達はBランクパーティなんだがワイバーンと大型の魔物の混合攻撃はちょっと荷が重かったようだ」


「そうね。そちらの吸血族の子みたいに空を飛べる仲間を探すか、ワイバーンに対応できる仲間を見つけてから出直しましょう」


ワイバーンは単独ではBランクの魔物のはずなのに随分難易度が高いようだ。


攻撃力や耐久力が少ないからBランクの魔物なんだろうが、有効な攻撃手段が無ければ難度が一気に上がるようだ。ピーキーな相手だと相性も大事らしい。


「私達は荒野の嵐って地元のパーティよ。またどこかで会ったらご飯でも奢らせてね」


と言って、全員揃って軽く頭を下げてから転移の魔石で潔く戻って行く。


こっちが名乗る前に帰っていったけどまぁいいか。元々通りがけに手伝っただけだし、奢ってもらうために助けたわけでもないからね。


迷宮攻略を続けるうちに、ちょこちょこ冒険者の戦いを見かけたけど、総じてワイバーンと大型の魔物の混合攻撃に苦労してるようだ。


しかも、大型の魔物を倒すとワイバーンが逃げていく。苦労の割にストレスが溜まりそうな相手だ。


18階層のセーフティゾーンで食事中、ふと孤高の風にはクルムさんがいたのに、なぜ出会った時あんなにワイバーンに苦戦をしていたんだろう…と思って聞いてみると、飛行スキルを使って空を飛ぶと毎秒MP1を消費し続けるため、飛んでいる時に魔法を打つと場合によっては魔力切れで墜落する。なので魔力量が少ないと危なくて使え無いそうだ。


18階層に入るとフロア自体がさらに広くなり魔物とのエンカウントも多くなったが、夕方にはなんとか19階層に到達し、二人ともレベル13になった。


レベルが上がるごとにレベルアップのスピードが遅くなるのを加味しても、1週間から10日もあればクラス1の職業をひとつ極められそうだ。


それに、セイントバンパイアとなりMP量が1000も上がったクルムさんは制限なく飛んで戦えるのが嬉しいらしくもの凄く機嫌がいい。


今回はキリのいい場所に転移の石碑があったので、そのまま使って地上に戻ると、素材を買い取って貰うためギルドに向かう。


 ギルドの買取専用の受付で、今日得た大量の素材や魔石を取り出してカウンターに乗せられるだけ乗せる。


「これだけの量をお二人で?」


「そうだよ。まだあるけど出していい?」


クルムさんが驚いている職員にそう聞くとギルド職員が首を横に振る。


しばらくして計算が終わり、ある程度まとまった額の金貨を受け取ると、羨ましさと妬みの視線も感じながら居心地が悪いギルドを出る。


ギルドを出ると、狙いすましたように出待ちしていた強面の男1人と目つきがヤバい女2人の冒険者3人に「よう、儲かってんなー。一杯奢るから俺達と話をしないか?」と、声を掛けられる。


絡まれるのかと思っていたら逆に奢ってくれるのか?能天気な俺とは違い、クルムさんはご立腹なようだ。


「まだ、ヴェル君は子供よ。お酒を誘って私達を騙すのはやめてくれないかな」


クルムさんが強い口調でそう言うと、男の冒険者はヘラヘラした顔を豹変させ、こちらを睨む。


「知ってるぜ、おまえら二人はパーティから追い出されて、さっきの素材はどうせ餞別で貰ったんだろう?俺達Bランクパーティがそれを契約金として貰い受ける代わりにこうして慈悲深く誘ってやってんだ。女子供には有難い話だろうが!」


強面の男は、ある程度は事情を知ってるようだが、昨日俺とクルムさんがギルドでやらかした時にはいなかったようだ。流石に知ってたらこんなアホな行動は取らないだろう。


なんだ。ここのギルドは友好的なパーティが多いなと思ったら金貨目当てか…がっかりだな。


今までこんなイベントが無かったので俺が甘かった。ここは勇者世界の貴族ギルドじゃないから、こういうこともあるのか。


とは言え俺は今は自重しないマンだ。こういう輩は懲らしめてやらないと。ふっふっふ。脳内の観客がボンバイエ!と声を上げる。テーマソングが聴こえる。さあ闘魂注入だ。


クルムさんを見上げ「やらないか」と声をかけると、クルムさんは呆れた顔をして俺と冒険者を交互に見る。


そして冒険者にプラチナのカードを見せると、冒険者達はへらへら笑っていたのが睨んだかと思ったら今度は、すーっと顔色を変え怯えた表情を見せる。コロッコロと忙しい表情だ。


「どうやら偉そうに知ってるって言ったことは間違って伝わっているみたいね。これを見て。誰を脅そうとしたか理解できた?私たちは2人でSランクパーティよ。ここでのいざこざは褒められたもんじゃないけど、身に降りかかった火の粉を軽く払うくらいは自己責任の範囲だから問題ないのよね。ウチのリーダーもやる気のようだし、ここでもう一度同じことを言ってみなさい」


と、クルムさんが挑発的に返す。


冒険者達はガクガク震えながら、無言で首を左右に振るとペコペコしながら集まってしまった人をかき分けて逃げていってしまった。なんだ、おれの闘魂が…


「もう少し抵抗するかと思っていたけど本当にBランクだったのかしら。孤高の風と同じだとは思えないよ。今日は機嫌がいいから返したけどこんなことが続くと問題よね。次はちゃんと対応しましょう。と言うわけでヴェル君、宿屋にキャンセルを入れてパーっと美味しい物を食べにいこうか」


「そうですね。ガッツリいきましょうか」


昨日の俺たちのやらかしはギャラリーがいた以上間違いなく噂になるはずだ。でも今みたいにその前に絡んでくるパーティがあるかもしれない。クルムさんは穏便に済ませたけど、次は容赦しないよ。


なんでかって?だって、楽しい妄想ってのは、今日の迷宮みたいに全滅しそうなパーティを颯爽と救うことともう一つ。見た目で弱いと絡んできたバカやつらにガツンとお仕置きざまあってのが双璧だと思うからさ。俺のロマンなんだ。異論は認めるけど。

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