表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
121/141

第121話 危険人物

宿に着きクルムさんをエスコートして馬車を降りる。御者にチップを渡し軽く見送ってから部屋に入ると、念のため索敵をかけて変わったことがないか確認した。


「貴族って御者にまでチップを渡すのね。索敵魔法は何のために?」


「ああ、チップはジェレミアさんの見送りを断ったから代わりに様子を報告するよう言われてるかもと思ったので…流石に念話までは気付かれないとは思うけど、余計な事言われるくらいだったらチップで誤魔化せばいいやと。考え過ぎかもしれないけど念のためってことですよ。索敵については監視が付いていないか確認しただけです」


「ほんと、ヴェル君はよくそこまで頭が回るわね。これで本当に子供だったら異常を通り越して超人よ」


クルムさんは呆れたような顔をしているけどそれって逆に無防備過ぎると思う。


「気軽に隠蔽してる内容を話すつもりは無いけれど、もしそれを誰かに会話を聞かれてクルムさんがメルス様からペナルティをくらったら目も当てられないでしょ?ちょっと気をつければ避けられるはずだったのに、それを怠ってクルムさんを亡くしたら一生後悔をすると思うんですよね」


「私がいなくなったら一生後悔…」


「いや、単純に罪悪感の問題です」


何でもそっちに繋げられるとは深刻だな。俺は確実に婚約者と再会することが決まっていて、場合によってはそこで別れることもあるのに。


それから食事をしながら話し合った結果、2人になって初めての迷宮アタックをするのにスキルの使い方が分からなくては意味がないので、明日は迷宮アタックをする前に、ギルドにスキル指導の依頼を出す事にした。


習得済のスキルの中で特に使えそうな身体強化と付与魔法の使用の仕方などの指導を依頼。報酬は半日で小金貨1枚が相場らしい。


そう決まると、さっそくギルドに依頼へ行こうと思ったら、宿のサービスで言付けサービスがあるとの事。さすが高級宿。


今日は疲れたので、ゆっくり大浴場で風呂に浸かって部屋に戻ったが、まだギルドからの返事はこなかったのでそのままベッドに潜り込んで早めに就寝した。


 翌日、クルムさんは普通にメイド服で部屋から出てきた。このままバトルできるのかな?今のままでも目のやり場に困るのに…


「クルムさん。平常時はメイド服じゃなくてもいいのでは?」


「あら、嫌いなの?動きやすいし色んな意味で、スカートも短めで暗器も素早く取り出せるから護衛にも最適だと思うんだけどな。迷宮に行くときは控えるから…だめかな?」


「別に護衛として張り切ってもらう必要は無いんですけどね。とりあえず迷宮に行く時は駄目ですよ」


「うん。わかったよ」


ツッコミどころしか無いんだけど、本人がそうしたいならいっか。


朝食中に従業員にギルドから返事が来たと連絡があり、無事依頼が受諾されたので午後にギルドへ来て欲しいとのこと。


指定の時刻までまだ時間があったので、昨日買おうとしていた料理本を買いに行った。それにしてもメイド服を纏ったクルムさんは目立つ。


すれ違う冒険者に何度も振り向かれたけど、とにかく面倒事には巻き込まないでくれと無駄にコソコソしてしまう。


当のクルムさんは気にも留めていない様子で屋台で串焼を買ってかぶりついている。むしろ、本当にメイドだったら『サボるんじゃねえ!』と叱られるところだ。


約束の時間になるとギルドへ入るとメイド服のせいで無駄な注目を浴びることになった。


「なんで、あんなガキが美人メイドを…」


やれやれと聞き流しながら受付のキャサリンさんの所へ行くと笑顔でお辞儀された。


初見の失礼は態度はどこへやら、対応がやっと普通になったと思いきやクルムさんの姿を見て唖然としていると、ギルド長が階段から降りて来た。


「なんだクルムその恰好は?ま、まさかおまえ!専属メイドに!」


「あら、分かっちゃった?ねっご主人様」


と、悪びれることなく平気で嘘をついて俺に振る。冒険者からの殺意に近い視線を受けて流石にだんまりとはいかない。結構本気でイラッとしながら


「ギルド長、嘘ですようそ!貴族でも無いのにありえませんから」


それを聞いてギルド長はほっとした表情に。クルムさんは目線を外す。何がしたいんだこの人は…一度ちゃんと言うべきか。


「つまらない冗談は置いといて、依頼していた指導者の方はどちらに?」


「ああ、既にギルド職員を訓練場に待機させてある」


そんな訳でギルドの地下にある訓練場へと移動すると、訓練場の中心に、40代ぐらいの外套を纏った男性が立っていた。


「紹介しよう。こいつは元Aランクパーティに所属していたエルフのセイルだ。今日の指導を頼んでおいた」


「お初に掛かります。ただいま紹介していただいたセイルです。今日は色々とスキルをマスターしたいの事。僭越ながら私が指導に当たる事になりました」


頭を下げられ丁寧に挨拶されたので、こちらもそれ相応に挨拶をする。


それから、この訓練場には強力な魔法防壁が張っているので、そこそこ強力な魔法を使っても大丈夫そうだ。

魔法防壁があるならば勇者世界でも魔王軍との戦いに役立ちそう後で詳しくきいてみようかな。


説明や注意事項を聞いている間に、受付嬢のキャサリンさんを先頭に、ギャラリーが20人ほど引き連れてやって来た。


「なんでキャサリンさんがここに?ギルドの仕事はいいのですか?」


「問題無い。今ちょうど昼休憩の時間だ。ほれ、見てみろよ」


見るとキャサリンさんが観覧席の椅子に座ってパンを食べている…まあ一方的に見られるのは好きじゃ無いけど、今後のためにも実力を見せておいた方がお互いの為になるか。


で、最初は付与師(魔法士Lv60、気功師Lv30)であれば使える気功師の身体強化スキルを教えて貰う事になった。


「ヴェル殿は、魔力操作の評価が高いとクルム氏から事前にお聞きしています。なので魔力を体全体に循環するイメージで回ったところで身体強化と詠唱してください」


これについては、前の世界でかなり訓練したし重力魔法と同じ感覚だったので問題なく発動。


効果の確認方法は、ステータスカードを見る。ただそれだけで一目瞭然の効果が…


物理攻撃:B⇒A 物理防御:D⇒C 素早さ:B⇒Aへと3か所 ランク評価がアップしていた。


そのことを口頭で伝えると「一発で成功するとは、しかも1回の身体強化で3か所もランクアップするなんて、いやはや、噂どおりの実力者ですな」と、いかにも感心したという眼差しへ。


何でも普通の気功師なら一か所上がる程度なのだとか。MP量の総量+魔力操作が上手ければ上手いほど効果が表れるとようだ。普段からトレーニングをしていたのが功を奏したな。


どれだけ上がったか気になったので、こっそりパワーライズでも身体強化してみたが、ランク評価が変わらなかった。実際の効果はどうかと、バフった状態で壁際に置いてあった木剣を貸して貰って効果を確かめる。


ま、ランクが上がったとは言っても所詮は木で出来た剣だからな。


木剣で大袈裟かとは思ったけど念のため「皆さんちょっと下がってくださいね」と安全な位置にみんなを退避させて本気で木剣を振ってみる。


半身の構えから横薙ぎするとブンと音が鳴り、剣速、剣圧が斬撃として飛んで行って、魔法防壁が張ってある訓練場の壁を破壊した。く…空破斬だ。


木剣に風魔法を付与したつもりもないし、以前属性剣を試しても使えなかったから魔法剣でも無い筈だ。


「すいません。魔法使ってないのに斬撃みたいなのが出て壁を壊しちゃいました。あれ?」


訓練場にいた全員が口を開けて呆然としている。キャサリンさんに限ってはパンを咥えたままだ…見ない方が良かったかな。


「みなさん大丈夫ですか?何か当たったとか?もちろん。壁の修復代は払いますよ~」


訓練場だシーンとなっている中、柔らかめにそう尋ねると、ギルド長が渋い顔して


「さすがはSランクだな。悪いが今後は人前で剣を振るのはやめてくれ。他の冒険者がビビっちまうからな」


「ギルド長、木の剣でこれですよ!金属の剣だったらヤバかったですね」


ギルド長とセイルさんの会話に20人ほどいたギャラリーは全員が無言でコクコク頷いている。うーん。


魔法耐性のある壁と言う事だから、斬撃は物理攻撃ってのが正しいんだろう。これで魔法コストが10分継続でMP100消費か。俺のMP量からすればコスパ最高だな。


続けて付与魔法を試してみる。


俺のMP100を消費して10分間 物理攻撃、物理防御、素早ささ、魔力攻撃、魔法防御のどれかひとつを、パーティメンバーに貸し与えるスキルのようだ。つまり、貸し与えることで、オレのランクはひとつ下がりパーティメンバーひとりのランクがひとつ上がる。


俺の攻撃スタイルは、物理攻撃を主体としているので、魔法攻撃+1を貸し与えてもなんら問題ない。それに、おれのMP量はかなり余裕があるのでパーティーの運用としてはかなり有用だ。具体的にはクルムさんにチートバフを付与できるってことになる。


試しにクルムさんに魔法攻撃+1を付与し魔法を試すよう話すとクルムさんは『アイシクルランス マルチプル』と詠唱。


5本の氷の槍が顕現すると一直線に魔法防御結界張った壁にぶち当たりそのまま破壊した。


本人を含めて全員が固まっている。そっか、クルムさんはセイントパンパイアにクラスチェンジして魔法攻撃C⇒Bにアップして、さらにオレが魔力攻撃+1を付与したからAに上がってんだった。


ギルド長が能面のような表情で


「はははははは、もう君たち訓練所に出入り禁止。修理代は後から請求するから」棒読みで告げる。


人間は追い込まれると青い顔をしながら無表情で笑うんだなら。


その後は、きっちり二人で平謝り、ギャラリー+音に驚いた冒険者が集まりギルドは騒然となった。


ただ試してみただけなんだが、おかげで俺達2人とも危険人物扱いだ。


結局、騒ぎのせいで他のスキルの事も手ほどきを受ける予定だったが、うやむやになってしまった。セイルさんには悪いことしたな。ただ、そのあたりは無知でも迷宮アタックには影響はなさそうだ。


でも2年前にはSランクパーティいたって言ってたよな。ギルド長に初めてみたいな顔されても困るんだけど。その時のパーティーも同じような扱いを受けたんだろうか?俺たちだけが特別じゃ無いだろうに。


釈然としない思いを抱えつつギルドを出た。


後日、その事をやんわりと聞いてみると「訓練所でSランクパーティが本気で魔法をぶっ放すなんて例は、聞いた事がない」と呆れた顔をして言われた。故意ではないが自重しよう…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ