第117話 宴会にて
二年ぶりにSランクパーティが誕生し、ギルドは大いに湧いた…と言うこともなく粛々と手続きが進められた。
孤高の風のみんなは当たり前って顔をしているし、ギルド長も何事も無いような顔をしている。初日のやり取り見る限り、たぶん領主に俺を目立たせるなとか、簡単な緘口令でもででるんじゃないかと思うね。
でなけりゃ、いくらおれの見た目がこうだからといってギルド職員に侮り含みの視線を向けられたり、ギルド長があんなめんどくさそうな態度を取るとかないと思うんだよな。
ま、思い過ごしならそれでいいし面倒に巻き込まれるのは嫌だから問い詰めたりはしないけど。
具体的な手続きは、まずステータスカードをSランクパーティ用のプラチナカードへと交換。カードの厚みが勇者世界のより若干薄い。
俺のカードはそのまま使用できるので変更は無しだ。
それから、俺とクルムさんは別室に移動してギルド長からSランクパーティの守秘義務や座学と作法の試験を王都で受けて合格をすれば、下級貴族として扱われる事などの話を長々と講義された。
ギルド長は話を終えると「ふぅー やっと終わった」と、ひとつため息を吐く。
「本来ならギルド主催で祝賀会、まあお祭り騒ぎってことになるんだが、今回は例の無いイレギュラーなわけだ。だから注目を集めることは避けたい。お前たちもその方が都合がいいだろう。代わりと言ってはなんだが飲み代はオレが持とう」
『やった!ギルド長の奢りなんて思い切ったじゃないか』と、パーティーの送別会も兼ねて早速ヴェクトさんの行きつけの小さな居酒屋を貸し切り、ちょっとした宴会が始まった。
乾杯し、歓談が少し落ち着いたところで、ヴェクトさんの隣に移動した。
「ヴェクトさん。いろいろとすいません。最初にここに来た予定と随分違いますよね」
「何言ってんだ?まあ確かに予定どおりとは行かなかったが充分満足してるぞ。結果としては予定よりも多く稼いで予定よりも早く帰ることになったんだ。家族も喜んでくれるだろうさ。俺も今は冒険者やってるが、実は実家がちょっとした商売をしていてな。どこかのタイミングでそっちを手伝うことにはなってたんだ。それが今なんだろう。だからおまえさんが気にすることはひとつもないのさ」
そうか、セカンドキャリアと喜んでくれる家族か…悪くない。こういう話が郷愁を誘うせいか向こうに残してきたみんなに会いたくなるけどね。(念のため言っておくけど色々あったとは言えまだこっちに来て数日しか経ってない)
「ヴェクトの言うとおりだよ。子供に心配かけるほどみんな落ち込んでるように見えるかい?それよりもまた機会があったら一緒に迷宮を踏破しような。って次に会ったらもうついていけないかも知れないけどね。でもそれが冒険者の新陳代謝みたいなものさ…衰えや限界にどこで向き合うか。最後が怪我とかじゃなかっただけ良かったんだよ。で、クルムはまだまだ伸び代を残してるから君と活動した方がいいってことなんだ」
「少年。おまえさんなら、きっと勇者を超える事が出来るかも知れねーな。短い間だったけどいいものを見させて貰ったよ。あとはクルムに任せるさ」
「言われなくても分かってるわよ。ねーヴェル君」
クルムさんはそう言ってウインク。
「おうおう。見せつけてくれちゃって、まー仲良くやれよな」
この人たちは子供相手に本気で言っているんかな?そんな事を思っていると、ヴェクトさんが俺の肩を組み耳元で囁く。
「少年、あと6年も経てばクルムが種族的に結婚適齢期に入る。ちょうどおまえさんの見た目もクルムと釣り合うようになるだろう。これは残念な話だが、俺は前にそれを知らずに先走ったことがあるわけよ。だからただ冷やかしているわけじゃないってことだ」
ああ、この人は昔クルムさんに告白したことがあったのか。で今は別の女性と子どもを授かり、クルムさんはパーティメンバーとしてやってきた。歴史ありだなあ。
そのままこっそり王都で購入した酒を出して朝まで飲み明かすつもりだったが、メンズは俺とクルムさんを残し立ち上がる。あれ?あれれれ?
何を言い出すかと思ったら「ここから先は6年後に教えてやるよ…」といやらしい顔を浮かべ店を出る。どうやらいかがわしい店に移動するようだ。さっきの真面目な話風はなんなの?
うっかり羨ましそうな顔したら絶対クルムさんに絡まれる。と思ったが身体は正直だ。子どものジュニアはうんともすんとも反応しない。
「少年も6年後と言わず大人になりに行くか?」
余計な事を!!やめてくれ。どう返事しても面倒なことにしかならないじゃないか!
「12歳の子供になに馬鹿な事言っているんですか?僕には婚約者がいるから無理ですよ」
「そうか。じゃクルムに癒してもらえ!わはははは」
ダメを押すんじゃねえええええええええ。
いつものクルムさんならヴェクトさんの頭を叩く筈なのに、酔っているのかどうか分からないぐらいに顔がまっかっか。これ、おれにどうしろと?爆弾落として去っていくのはやめろ!
ヴェクトさんたちが店を出て俺たちも宿に向かうがクルムさんがフラフラしてる。
足元もおぼつかない様子だったので肩を貸そうとしたら「お姉さん、おんぶしてほしーな~」と、これまた呂律の回らない口で甘えるようにいう。
これ、目覚めた思春期だったらヤバかった。でも待てよ。昨日クルムさんに血を吸わせたから賢者モードが続いてるだけなのかな。
おんぶをすると、Sランク級のクルムさんの胸が!今まで意識していなかったがランクに恥じない…あかん。やめよう…これ以上妄想は危険過ぎる。
と言うか、クルムさんも自覚が足りな過ぎる。俺じゃなく他の男にお持ち帰りされようものなら神罰が下るんだぞ?メルス様も言ってたじゃないか。
それよりもこれ、絵的に非常に良くないと思う。
だって、まだ人がたくさんいる通りを子供が大人の美女をおんぶして歩いているんだぞ?宿に着いたのはいいけど宿の人が唖然としている。
子供貴族が従者がおんぶして帰ってくるなどありえないのか、宿の従業員がどう声かけたらいいかわからないと困ってる姿は傍目から見ていて面白かった。
宿の人が代わりますか?みたいな事を言ってくれたが、後ろではスースー寝息が聞こえるのでそのまま部屋へと一緒に行き、部屋のドアを開けて貰った。
「ありがとうございます」
「どういたいしまして。今夜はお楽しみですね」
なあ。いくらどう声かけていいかわからないとは言え、10歳に何を言ってるんだ?上司を呼べ!
なんとかクルムさんをベッドに降ろしてから、呼吸がしやすいように少しだけ首のあたりのボタンを外す。断じて疚しいことはしていない!
起こさないように布団を掛けると、逃げるように大浴場へと向かう。
大浴場に行くと、あんな暴力的なフォエロモンを受けても、なんの反応も示していないジュニアを見る。
超有名な像そっくりだな。毛も生えていないんだぞ?ツルツルの10歳にみんななんてこと言うんだ。
情けない気持ちになりつつ、大浴場で汗を流し冷静さを取り戻す。こと性に関しては、みんなテキトーなことしか言わねーじゃねーかと社会に訴えてやりたくなった10歳の夜だった。
余談だけど部屋に戻ると、平伏叩頭して待ち構えていた美女がいたとかいなかったとか…




