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第110話 そのころ…

― ジュリエッタ視点 ―


ヴェルが迷宮の変革に巻き込まれた。私はまた彼を失ってしまうのかと思い目の前が真っ暗になった。変革すると聞いた時に迷宮を出るべきだったのか、あるいは私の指示が遅かったのかと自分を責める。


それから二手に分かれシャロンさんとレリクが17階層から30階層を、私とマイアが16階層~1階層を索敵しながら夜が更けるまで探し続けたがその日ヴェルを見つけることは出来なかった。


落胆と疲れで重い足を引き摺るように宿に戻り、明日以降の行動について話し合う。まず最初にギルドで大規模捜索を依頼する事にした。


「姫様、ジュリエッタ殿。私がついていながらこんな事になるなんて。何てお詫びを申し上げたらいいのか。ここは責任を取って…」


「シャロン。どうやって責任を取るつもり?軽々しくそんなことを言わないで。責任を取るのではなくヴェルと再会することで責任を果たしなさい」


「そうよ!ヴェルは勇者なのよ。こんな事で死にはしないわ」


あのシャロンさんが弱々しくむせび泣く姿を見る事になるとは思わなかった。痛々しくてかける言葉も見つからない。ついさっき、本当に今朝までは結婚も決まり晴れ晴れとした笑顔を見せていたのに。


その日は、レリクに任せてシャロンさんには部屋で休んで貰う事にした。明日には落ち着くことができるのだろうか。


二人が部屋を出ていくとともう明け方に近かった。マイアも泣きつかれたのかソファーで寝落ちしていた。


マイアをベッドに運び、私もベッドに入ると目の前が真っ白になる。


「ここは神界?」


「そのようですね。この前来た時と同じです」


マイアも呼ばれたようだ。そうだ。神界ならヴェルも呼ばれたのでは?と咄嗟に辺りを見渡すが姿は見えない。


すると「二人ともここに呼んだ理由は分かるな?」と、目の前に神様が現れた。


「ヴェルは?ヴェルは無事なんですか?」


「そう焦るな。ヴェルは無事じゃ」


ああ!本当に良かった。マイアと抱き合い涙を流す。


「喜んでいるところに水を差すようで悪いがヴェルはこの星とは違う異世界へと転移した…いや時空の狭間に落ちたと言ったほうが正しいか」


迷宮の変革が起こると異世界へ繋がるのか、そんな話は聞いたことは無いが時空の狭間に落ちたと言うことは今この世界にヴェルがいないことを意味する。


「それで、狭間に落ちたヴェルは戻ってこられるのですか?」


「残念ながら、今のこの星の残されたリソースの量では、魂は呼び寄せられても肉体は呼び寄せれる程の量が溜まっておらん」


「ヴェルが戻ってこられるリソースが溜まるまでにどれくらいかかるのでしょうか?」


「あと4年。魔王が復活して動き出す1年前までには何とかなるじゃろう」


1年か…それから世界を回っていてはとても間に合わない。ここは私とマイアで何とかするしかない。ヴェルが残していった備忘録もここにある。


「それでも4年経てば戻ってこられるのですね?」


マイアが確認するように神様に尋ねる。


「そうしなければ間違い無くこの星は滅びる。こことは違う理を持つ異世界へと転移をしたが、向こうの創造神様には了解を得たのでワシが必ず戻す」


ならばヴェルのことは神様に委ねよう。口ぶりからヴェルとも話をしたのだろうか。


「このことはヴェルには?」


「うむ。向こうで創造神様と一緒に同じような話をしてある」


「分かりました。それではヴェルに言付けとかは出来ますか?」


「そのくらいまでなら問題無い。預かろう」


良かった。前回はリソースが溜まるまでの50年間頑張り尽くしたんだ。それを思えば4年なんてすぐじゃないの。そんなロスタイムなんてマイアと2人で乗り切ってみせるわ。


「それではこう伝えて下さい。私たちは地盤固めをして待っているから、必ず4年後に会いましょうと」


「わかった。必ずや伝えよう。それと、また向こうからも言付けがあったらそなた達に伝える事も約束する。教会以外での神託はリソースを使う。無駄にはできないので最低でも月に一度、または何かあったら教会で祈りを捧げて欲しい」


「はい。必ず」


「それでこの先、そなた達はどうするつもりじゃ?」


「旅を続けファミリエとミラと合流し、神様を経由してヴェルと話し合いながら魔王軍との戦いに備えます」


「うむ。よかろう。そなたが前に出した手紙だがな。2人が手に取った瞬間に記憶が甦るよう細工をしてあった。後はそなたがどうやって口説き落とすかに掛かっておる」


「口説き落とすですか?」


「そうだ。記憶を戻してからの2人を見ておったが、なかなかままならぬものだ。あとは自分の目と口で確認するがいい」


「分かりました。2人の話を聞いてみます」


神様の口ぶりでは、少なくとも今2人がヴェルを待ち焦がれていると言う事は無いようだ。もしかしたらもう心が折れているのかも知れない。


「無理に強要をすれば、精神が壊れるかも知れん。どちらか、もしくは2人が魔王討伐に手を貸さぬと決めたなら前世の記憶は消そう。両名の心の闇は深いのだと覚えておくとよい」


「はい。その時は、彼女たちに無理強いをせず別の人生を歩んでもらえるよう話をします」


「うむ。そなたの気持ちしかと受け取った。それでは無理せず出来る事から宜しく頼む」


私にとって、ファミリエとミラは戦友でもありライバルだった。だからこそ二人の気持ちもまた理解できる。悲しい記憶など忘れたいだろう…大事な人を目の前で亡くしたことを糧に戦い続けた恋の記憶なんて。


神界から戻るとすぐにマイアとシャロンさん達の部屋へ向かう。今の精神状態では寝られないのではないかと思ったからだ。


ドアをノックすると「お2人はお休みにならないのですか?」と目を真っ赤にしたシャロンさんが出てきた。そこはレリク、あなたの役目じゃないの!


部屋に通して貰い神様から神託があったことを伝え事情を話すと


「本当によかったです」「勇者の称号は伊達ではありませんね」


と、二人はまるで憑き物がとれたような顔になった。


それからこれからの旅は4人で進めることを確認し、マイアが口を開き大事な事を伝える。


「旅が終わり次第、二人は結婚する事。ヴェルなら4年も自分の為に人の時間を奪うなんてナンセンスだ!と絶対に言うはず。だから、これは命令よ」


「ヴェルならきっとそう言うわね。レリク、ここで結婚出来ないような軟弱者はお父様に言って護衛をおりてもらうわ」


先にマイアに言われてしまった。焦るレリクを見ながら肩をすくめる。


魔王軍が攻めてくる未来は避けられない。ヴェルが戻るまで4年。それからの1年間は忙しくなるだろう。なので帰ってきてからの結婚は認められない。最低でもそれまでの時間は夫婦の時間にしてあげないと。


さあ。これからヴェルが帰ってくるまで、しっかりとできることをがんばろう。再会する時は15歳。個人的にもしっかり成長してヴェルを驚かせてやるわ。


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