第100話 困った時は神頼み
今回も視点が変わります。
~ ヴェルの視点 ~
外に出ると、まあなんとなくそんな気はしていたけど、迷宮都市ラロッカとはまるで別の町だった。別の大陸とかに飛ばされたのかなあ。使ってる魔法は見たことないし言葉は通じないし。でもそんな話どの本にも載ってなかったし聞いたこともないぞ?
町はテキサスとか西部劇風、乾いた赤土の地面が綺麗に整備されていた。
風が吹くと「※※※※※※※※※※!クシュン」とクルムさんが話しながらクシャミをする。美人は何をしても様になるな。と、最近はこの手の感想を持つと大概ジュリエッタとマイアの顔(と言うか視線)が思い浮かぶ。やれやれ。10歳と言うより拗らせた思春期じゃないか。
人通りの多い道にでるとラロッカとは違う事が確定。建物の作りも中世ヨーロッパとは違い、レンガ作りの建物が中心で、行き交う人も様々で少し様相が異なっていた。
と言うのも、驚くことにクルムさんのようにピンク色の髪、青、灰、紫色の髪といった人が少数ながらもいたからだ。
何も答えが見つからないままクルムさん達に付いていくと、冒険者と思われる男女が出入りする、レンガ作りの大きな建物に連れていかれた。たぶん冒険者ギルドだ。俺でも迷宮で迷子を見つけたらそうするだろうし。
重厚なドアが開かれると、バーカウンターがあり、一直線にギルドの受付嬢の所へ連れていかれ、二人で何かを話し始めた。おおかた俺を拾った経緯と今後の処遇だろうな。
話が終わるとギルド嬢に手を引かれて2階へと連れていかれた。ここでリリースか。これからどうなるんだろう。
~ クルムの視点 ~
緊急脱出用の転移魔石を使って迷宮を出ると、外はもう夕方だった。
風が吹く度に赤土が埃の様に舞い上がり鼻をくすぐる。
「あ~!もうこの土埃なんとかならないの?!クシュン」
隣でヴェル君も苦笑いしている。
それでもこの迷宮都市国家マルムは冒険者にとっては夢のある土地だ。中級のCランク迷宮から最高難易度のSSランク迷宮までが半径1km以内に存在しているからだ。
宿もピンキリで個室の風呂まである。女性冒険者にとっては嬉しい限りだ。残念なのは冒険者くずれのならず者も多いことだけど、そういった層が一定数いるのはどこも一緒だし。
隣でにこにこしているヴェル君。かわいい弟のようでつい頭を撫でたくなるけど、顔や態度に似合わないくらいの強者だ。うっかり怒らせたくないからそこは我慢しよう。言葉通じないから誤解が解けるかもわからないし。
5分ほどで冒険者ギルドに着くと、受付をしているキャサリンに事情を話した。
「なるほど。Aランク迷宮に子供がいるなんて変な話ですね。それもBランクパーティの皆さんが助けられるなんて…」
キャサリンの言うとおりだ。迷宮に入るにはステースカードを認証しないと入れないはずなのに、ヴェル君は1人でその迷宮にいた。いくら強いと言っても子どもにソロ入りを許すはずがない。
「見た目は10歳~12歳ぐらいですね。神託の儀を受けていたとしても、Aランク迷宮に入るにはクラス2の職業が必要ですし、早くても10年掛かるところをクリアするような子供がいるなら、絶対にギルドで噂ぐらいにはなっているはずです」
「兎に角だ。ハッキリしているのは迷宮でオレ達はこの少年に助けて貰ったと言う事実だ。ワイバーンの素材を一部貰った事だし、ギルドからの報酬もいらねぇからあとは任せてもいいか?」
ヴェクトがそう言うとキャサリンはひとつため息を吐き「しょうがないですね」と、カウンターから出て来た。
「それでは、このヴェル君でしたっけ?確かにお預かりします。また何かわかったらお知らせします」
「ああ、頼んだよ」
キャサリンはヴェル君の手を引き2階へと連れて行った。ま、ギルド長なら任せていいだろう。私も素材の換金が済んだらもう一度見に行こうと思う。
~ ヴェルの視点 ~
2階ではウグイス張りのように【ギシギシ】と鳴る廊下を手を引かれて一番奥の部屋に通された。手を離すと身振り手振りでソファーに腰掛けるように促された。
暫く待っていると髪の毛をワシャワシャさせながら、男の人が髪をワシワシしごきながら面倒くさそうな顔をして喋り始めた。扱いワル!
まあ、こっちは何を言われようが分からないし、何を聞いているのかもわからないので答えようがない。
ほぼほぼ無反応な俺にギルド長も困ったようで大きくため息を吐かれた。
すると、扉がノックされ、扉が開かれると先ほど案内をしてくれたギルド嬢がシスターを連れてやってきた。
あー、これって俺が孤児になるのか。とも思うが、そいつは逆にラッキーだ。
教会に連れて行かれれば流石に神像はあるだろう。ちょっと緊急事態だし何が起こったのか神様に聞いてみよう。このままじゃ何するにも不便だし、ジュリエッタやマイアのことも気になる。
ギルドを出ると既に日が暮れていた。ギルド長からシスターに引き渡され教会へ向かうと、なんとも寂れた教会に案内された。
王都の教会があまりにも立派だったので格差を感じる。神様と縁もあることだし機会があったら寄付して綺麗にしてもらおう。
正面の大きなドアからでは無く、教会横の職員が出入りする通路から中に入ると、幸薄そうな子供たちが一斉にオレを見る。と思ったら勘違い。みんな俺じゃなくてシスターを見ていた。
シスターの周りに孤児達が集まると、小さな子どもの頭を撫でる。何か話し始めたと思ったら俺の腹が鳴る。超恥ずかしい。思わず顔を伏せるとシスターが俺を見て、暖かな目で椅子に座るよう促した。
テーブルに乗った黒パンとシチュー。自分が今までどれだけ恵まれた環境で育ったのかと思い知らされる。
異世界は日本よりも遥かに貧富の差が激しい。この世界では生まれた場所と親次第で、自分の人生が大きく左右されるくらいの差がある。逆転するには相当な能力を示さないと厳しい。
みんな着席すると神様にお祈りをする。当然おれの祈りの言葉は通じないので、今度は勘違いではなく揃って俺に顔を向ける。こいつ何を喋っているんだって顔で。まあしょうがない。普通の反応だ。
まあ、俺への興味より食事の方が大事らしく、みんなすぐに食べ始めたので俺も周りに合わせて食べ始める。うん、量は少ないし薄味でシンプルだが空腹は何よりの調味料だ。感謝感謝。
食事を終え、孤児達が寝起きしている大部屋に通されると、簡素なベッドを割り当てられた。マイ枕を持ち歩いていたのは改めて正解だった。
シスターが去ろうとしたので、ジェスチャーで神様にお祈りを捧げたいと伝えると、無事伝わったようで教会の祭壇前に案内された。
祭壇で膝づき、神託の儀と同様にステータスカードを手のひらに挟み祈る。すると、願いが届いたのか神界に行くことが出来た。
よかった。まずは状況の把握をしなきゃ。今の俺のこと、そして離れてしまった4人の事も。
いつもお読みいただきありがとうございます。本話で100話に到達しました。
今後もさらに頑張りますので、応援宜しくお願い致します。




