普通の朝
ピピピ、ピピピ、ピピピ
「う、う〜ん。」
耳元で不協和音が木霊する。
どうやら目覚ましが鳴っているようだった。
眠い。
もう朝になってしまったのか。
半覚醒状態のまま目覚ましを止める。
「最悪な夢を見た。」
疲労がまだ抜けていない。頭もガンガンする。
「昨日夜更かししすぎたかな。」
机の上に積まれているラノベを見て彼は苦笑する。
「しかし、あの量を1晩で読むとか我ながら凄いな...」
机の上に積まれているラノベは所謂異世界転生系ラノベだった。
冴えない高校生が異世界転生しチート能力を手に入れた勇者となる。
それが俺の好きなジャンルだ。
冴えない高校生である自分にとってはそれが心の拠り所であるのだ。
「さてと。」
彼はベットから体を起こし、朝食を食べるためリビングに向かった。
朝食のパンを焼いている間、暇なので俺はテレビをつけた。
「昨日、○○県○○市のコンビニで強盗事件が発生しました。犯人は未だ逃走中との事で、警察は近隣住民に注意を呼びかけています。」
「このコンビニ、見覚えあるな...。」
ニュースでやっているこの強盗事件は、どうやら近所で起きた事件らしい。
俺は学校から何か連絡がないかと、スマホのメール欄を見る。
だが、通知は1件も来てなかった。
「まあ、分かってたけどさ。」
俺は休校の連絡が無いことに少しガッカリしながら、トースターからパンを取り出す。
正義感に燃えるのでは無く、休校じゃない事にガッカリしているだなんて自分も変わったなあと思う。
昔だったら本気で自分が強盗を捕まえようとしていたかもしれない。あの頃の自分が本気でヒーローだと信じていたころの自分なら….
こうゆうのは警察が解決する事件だし、そうあるべきだと俺も思ってる。
俺個人ではどうこうできないし、できる力もない。
もう俺はあの頃とは違う。
あの時だって、先生にチクるとか、適切な対処をしていれば、もっと違う結末になったかもしれないのに。
力の無い奴が正義を振りかざすと碌なことにならないとあの時、あのクラスで嫌というほど実感させられらた。アイツらはどう考えても間違ってた、間違いなく悪だった。だけどアイツらは退治される事はなかった。正義のヒーローは現れなかった。なぜならアイツらはあの場において正義だったからだ。力こそ正義だった。
「...今日はなんか朝からネガティブだな。」
思い出したくもないことを夢に見てしまったからだろうか。
とりあえず思考を切り替えるために俺はチャンネルを変える。
「正義のヒーロー!ジャスティス!助けを求める声に呼ばれただいま参上!」
チャンネルを変えた先は特撮ヒーローモノだった。
俺は興味無さげにまたチャンネルを変えた。
身支度を整え、鞄に今日の授業の教科書が入ってることを確認し、玄関に行き扉を開ける。
「行ってきます」
もちろん返事は返ってこない。俺は中学進学の時、アイツらから逃げるように、遠い地方の中学に進学した。しかし家族総出で引っ越しする訳にもいかず、父さんは実家に残り、俺と母さんが一緒に暮らすことになった。家のローンを払うだけでも大変なのに、安アパートとはいえ、こちらの家賃も出してくれた父さんには感謝しているし、「中学生の一人暮らしは心配だから」と着いてきてくれた母さんにも感謝している。そんな母さんも俺の高校進学を機に地元へ帰った。つまり今は一人暮らしであり、ホントは「行ってきます」なんて言う必要はない。だけれど言わないと胸の奥がキュッとなる。そんな感情が湧き上がってくる。だから俺は毎朝誰もいない玄関に向かって「行ってきます」と言う。不思議なものだなと思いながら俺は家を後にし、道路へと足を踏み出した。今日もいつもと同じ日が始まる。そう信じて疑わなかった、その瞬間だった。
大きの音が鳴り響いた。そしてその音が車のクラクションの音だと理解したその瞬間だった。俺の体は宙に浮いていた。頭が真っ白になった。何が起きたのか理解出来なかった。まるで時間が止まったかのようだった。体が地面に激突する直前に俺は一台の車とそれに乗る運転手の姿が目に入った。自分は車に轢かれたんだとやっとその時理解した。俺はその運転手の顔に見覚えがあった。今朝のニュースでやっていたコンビニ強盗だった。まさか自分が事件に巻き込まれるなんて考えもしなかった。
手が動かない、足も動かない、呼吸すらままならない。きっと俺は助からないのだろう。視界がぼやけていく、意識が薄れていく、自分が生きているという実感が消えていく。
「・・・俺はやっぱりヒーローになれないんだな」
と消え去りそうな声で俺が呟いた。
これが俺の最後の言葉だった。




