第三十三話 好敵手登場
北斗は外にでると今日から住む場所を回ることにした。
暫く歩くと、自分が国王側を歩いていることに気がついた。
騎士の甲冑が見たことのないものだったからだ。
区切りもない、同じ建物に国王側と教会側がある。
それは今までみたことのない新しい光景だった。
「何だ?この子。」
声をかけたのはどこかの騎士のようだった。
慌てて北斗はなめられないように腰に入れていた木刀を抜いた。
すると騎士たちは笑って北斗の頭を撫でた。
馬鹿にしたような笑いに腹が立った北斗は木刀を振り上げた。
「お、何だ?騎士相手に戦うのか?」
振り下ろした木刀は誰かに止められた。
目の前にいたのは自分よりも一回り小さな子供だった。
「お、坊主、お前が相手するのか?よし、お前、国王側代表だ。」
騎士たちはまるで面白い余興を見つけたかのように二人を取り囲んだ。
もう一人の子供は流すと北斗に打ち込む、けれど北斗は避けると相手の腹に打ち込む。
「いってええ!」
子供は腹を押さえてうめいた。
「珠以!」
悲鳴に近い声がして誰かが走ってきた。
それに気がつくと、子供は腹を押さえて慌てて立ち上がる。
「ウザイのが来た。君も来て。」
そして子供は北斗の手を掴むと、走り出した。
一方、息子がどこかのやんちゃ坊主にいじめられ膝をつくのをみた麓珠は姿が見えなくなった息子を大声で探し回った。
「あれ、うちの可愛い息子は?珠以を見なかったか?今、ここで膝をついていただろう!誰だ!かわいい息子をいじめる奴は!」
けれど騎士たちはこの親ばかの存在を熟知しており、誰一人彼らの消えた方向を示すことは無かった。
「君、強いな。」
北斗よりも一回り小さな子供は暫く行ったところで、座り込んだ。
「お前も・・・今までの中では強いほうだ。」
すると子供はニッと笑った。
「君、教皇側?僕は珠以。今のところは国王側なんだ。」
丸い目でずっと微笑む珠以のことばに北斗は首をかしげた。
「今のところ?」
「そうだよ。だってさ、これから国王と教皇は一つになる。そしたら、どっちとか関係ないから。」
それは北斗にとって新しい言葉だった。
けれど彼にとって守るべきものは一つだった。
「僕は、それでも。黎仙様をお守りする。」
「珍しい二人組みだな。」
誰かが突然二人を抱き上げた。
珠以は嬉しそうに男の名を呼んだ。
「関霞様。」
「よう、珠以、北斗も今日は二人とも気合はいってんな。抜け出してきたのか?」
「関霞様も?」
北斗が見る限り珠以というこの子供は関霞に偉くなついていた。
「ああ、部屋にいるとひっきりなしに人が来るからな。ってか、珠以、お前、麓珠が叫び声上げながら探してたぞ。」
すると珠以は頭をかいた。
「だって父上、ウルサイんだ。」
「帰ってやれよ、久しぶりに会えたんだからな。」
そういわれると珠以は仕方なく帰ると決めたようだった。
「じゃあね、北斗。」
北斗は小さく手を振った。
一方、片腕に北斗を抱き上げながら関霞は歩き出した。
北斗は幼心にもこの人に会いたかった。
唯一、自分の主の顔を色々変えることのできる人だったから。
「今日から・・・黎仙様、幸せになれる?」
すると関霞は笑った。
「なれるさ。俺とお前がいる。最強だろ。」
北斗は認められて嬉しいようで頬を緩めると、内ポケットから簪を出した。
「何で、お前がこれを?」
「黎仙様のお守り。持っててって。」
すると関霞はそれを北斗の手から取った。
「これ、借りていいか?」
「どうするの?」
「黎仙のお守りならアイツが持ってないと。」
北斗は頷くとそれを自分の手から離した。
「さてと、時間か、行くとするか。お前も、そろそろ戻らないといい席取られるぞ。」
北斗は関霞から下ろされると一度関霞を見た。
いつものようにただ歯を見せて笑った。