第三十話 教会側
「聞いて欲しいことが・・・あるの。」
黎仙は次の日、教会を取り仕切る大司祭や、遜頌、騎士団長を全て集めた。
「国王の子息と結婚する。」
あえて言い切った。
迷えば、必ず見えぬところで反対意見がでるからだと踏んだのだ。
「そう、決めました。」
するとそれ以上誰も何も言わなかった。
逆に、黎仙はそれが不気味だった。
どうして誰も反対しないのか。
この前例の無いことをもっと議論しないのか。
すると遜頌が前に跪いた。
「この議題についてはすでに三年前に取り上げられております。」
「え?」
「三年前・・・聖加殿が退団された日の夜、魔宗殿、暗想殿の連名で発議されました。各機関の調査により教会と国王が結びついたときの利点、弊害、考えられる変化を全て計算をだしました。国王側からもその試算は届いております。それを基にした調整会議も最近数度行われました。」
「また、私はのけ者ですか。」
黎仙は半ば諦めたように呟いた。
すると遜頌は静かに頭を振った。
「この縁談には数多くの利点が教会にもあります。国王と教皇が結びつくことによって国王側が持つ兵力の優位性は解消され、教会も兵の使用が可能になります。そして全騎士間の統制もお二人がいれば可能になります。その他各統治機関の伝達向上・・・そして何よりも大きなものは民の希望です。・・・だからこそ、私は握りつぶしていました。私と結婚するよりも効果は大きいものになるでしょうから。国よりも自分の利益を優先しておりました。・・・けれど今は違います。」
遜頌は一度頭を下げると、書類の束を差し出した。
「何故・・・今ですか。」
遜頌は黎仙に書類を渡すと跪いた。
「今の黎仙様はこの国を守るというゆるぎない心をお持ちです。この資料をお見せし、国王と結びつく利点をとけばあなたはその道を選ばざるを得なくなる。だからこそ、あなたがお考えになられたあと、あなたの考えに付随する形でこれをお出ししたかったのです。」
黎仙は資料を握り締めた。
「では、国王に書状を送りましょう。」
国王側の対応は早かった。
全てが計画されていたかのように、婚儀の日取りも決まり、国王が城と教会の間に現在建築中の宮が新居として用意されるという。
遜頌は書類の中で一息つきながら黎仙へと声をかけた。
「おそらく、あちらは三年前から計画を遂行されていたのでしょうね。聖加殿の申し出の時から。」
「それに乗せられるのは気に入りませんが・・・そうも言ってはいられませんしね。私の夫になる人なのですから。」
「お二人であれば、なかなかうまく国をまとめてゆかれると思いますが。」
「遜頌は・・・私のお相手になる方を知っているの?」
すると不思議そうな目を遜頌は黎仙に向けた。
「ご存知では?」
「知らないわ。どんな方?」
暫く遜頌は黙っていたが、飲み物の入っていた器を置くと、書類に目を通し始めた。
「私とはおそらく正反対の方だと。」
「そう。」
黎仙は興味を持たないのか、それ以上聞くことは無かった。
顔を上げた遜頌はただ心配そうに黎仙に視線を送った。