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第二十六話 嫉妬

「関霞は・・・何を望むと思う?」

黎仙はお茶を飲みながら後ろの北斗に声をかけた。

「わかりません。」

「私もよ。あの人は・・・国王側の人なのかしら。」

国王側からの応援を受けて戦っていたあの人のことを何も知らない。

あの体格なのだから、ならず者をやめて兵になったといわれても何も不思議ではない。

三年前、あの人は優勝したら自分を嫁にするといってくれた。

そのことを今でも思ってくれているのだろうか。

思い返すと胸の中が熱くなった。

苦しくなった。

三年間、自分の中で閉じ込めたものが溢れてきていた。

「黎仙様?どちらへ?」

「夜歩きを。」

「あ、おともします。」

黎仙は北斗と手を繋いで夜の教会を歩いた。

大人ぶる北斗は、黎仙と手をつなぐときだけはまるで弟のようにしっかり握って隣を歩いていた。

突然、関霞という女の声が聞こえた。

その言葉に反応して黎仙は慌てて周りを探した。

「あそこでは?」

北斗は目の前の物置を指差した。

黎仙はそこへと寄ってゆく、中からは苦しげな女の息遣いが聞こえた。

「関・・・霞!だめ・・・。」

黎仙はその声が何を示しているのかわからなかった。

扉に手をかけようとしたとき男の声が聞こえてきた。

「ダメじゃないだろ?いいんだろ?なあ、俺か遜頌どっちが有能だ?」

それは間違いなく関霞の声だった。

黎仙は手を止めて中の様子を窺った。

「ほら、言えよ。」

すると苦しげな女の喘ぎが聞こえた。

「関霞。」

黎仙は女がその名を呼ぶのが我慢ならなかった。

今日、初めて自分が名前をよんだ。

けれどこの中の女は簡単に彼の名を口にしている。

黎仙は思わず扉を開けた。

中には着崩れた男女が一組いた。

「黎仙様。」

北斗が動揺して黎仙の手にさらに力を込めた。

「ここは教会です。」

女は声を上げてすぐに着物をかき寄せ、男の背中に隠れた。

それすら黎仙の心を逆撫でした。

「ならず者、出て行かないと人を呼びますよ。」

すると関霞は汗が張り付いた前髪をかきあげた。

「ひでえなあ、優勝者に向かって。」

どこまで行っても、彼が焦って自分に言い訳することはなかった。

「・・・北斗、人を呼びなさい。」

「はい。」

「待てよ。そしたら、この子はいい恥さらしだ。」

「なら、そのものを妻にすればよろしいでしょう?」

黎仙は勤めて冷静でいようとした。

けれど関霞は鼻で笑った。

「残念だがな。ここにはそんな女がごまんといる。俺だって別に結婚するつもりがあって抱いてるわけじゃないここの女は皆に飢えててな、俺みたいないい男を見ると盛ってくる。俺もそんな女は放っておけない。利害が一致するからこうしてるだけだ。」

黎仙は意味が分からなかった。

けれどどうしてか涙が一つ落ちた。

自分も飢えた女の一人だといいたいのか。

黎仙はその涙が落ちて初めて自分が泣いていることに気がついた。

そして気がつくと涙が止まらなかった。

「おい、何泣いて。」

「もういい!」

黎仙はもう理論で勝とうとは思わなかった。

ただこの二人のこんな姿を見たくもなかったし、自分がこれ以上怒るのも嫌だった。

「あの、黎仙様。今の。」

北斗は聞こうと途中で何も言わなかった。

「泣かないで・・・。黎仙様。」

黎仙はその場に膝をつくとただ声を上げてないた。

それが嫉妬だと、絶望だとはその時気がつかなかった。


「だから、止めとけっていったんだ。」

数馬は木の上で関霞に声をかけた。

「・・・泣いてたな。」

「ああ、外に出てからもずっと。多分嫌われた。」

「だからって今更計画はやめない。明日、決行する。」

「仕方ないな。」

二人は塀から降りると馬に乗り教会を去った。


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