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第二十一話 十三歳の恋

黎仙は廊下を歩きながら鳥の声に足を止めた。

鳥の声を探していたのに、聞こえたのは人間の声。

「お、それ。つけてるんだな。」

黎仙は声に振り返ることはどうしてもできなかった。

そして自分があの小鳥のかんざしをつけているのを見られたことが恥ずかしくて、耳まで赤くなっていることにも気がついていた。

「おい、どうした?」

後ろに気配と匂いを感じた。

少しだけ漂う香の匂い。

本当は振り返って関霞の無邪気な笑顔を見たかったが、自分の心に誓った「会わなかったことにする」という思いがそれをできなくさせた。

「何だ、結婚が決まった途端に、俺は無視か?」

それは馬鹿にするような言い方だった。

黎仙は思わず拳を握っていた。

その言葉に怒りを感じたからだ。

そしてそんな挑発を抑えるだけの余裕はたった十三歳の彼女は持ち合わせていなかった。

「そうです!私は遜頌と結婚するのです!お前のようなならず者、もうを口を聞くことすらあってはならぬのです!」

言っている間、相手の顔は見えなかった。

言っているそばから涙が溢れて視界を遮る。

例え、どれほどのならず者であろうが、自分には魅力的だったし、そばにいたいと思わせる人だった。

兄を慕う情に似ていて、それに少し酸い思いを混ぜたような満たされない感情。

「本当に、皆そろって人のことをならず者ならず者って・・・。」

関霞の大きな手が伸びてくると黎仙は一歩後ろへと退いた。

するとそんなこと見通していたかのように大きな両手が自分を抱き上げた。

黎仙は初めて相手を見た。

そこにいたのは今までの髭面ではなく、髭をそり落とした男だった。

服もちゃんと着こなし、髪も梳かされていた。

「関霞?」

「な、見直したか?」

そういって笑う顔だけはいつもと同じだった。

黎仙は恐る恐るその頬に細い指を伸ばした。

「何だ?」

その言葉にわれに返り、慌てて視線をそらす。

「降ろして・・・。こんな姿人に見られれば怪しまれる。私は不道徳な人間だと思われる。」

「嬢ちゃんが俺の嫁さんになれば何にも誰もおもいやしねえ。」

「私は遜頌と!」

「あんな奴のどこがいい?何に惚れて結婚するんだ?」

「惚れる?そんなこと関係ありません。あれが、私と年が近くて、相手として最適だったというだけです。そんな政略結婚どこにだってありふれたものではありませんか。」

すると関霞の腕に力がこもった。

「俺は嬢ちゃんにそんな結婚してほしくねえんだ。分からないか?」

「仕方ないじゃない!だって!だって!私は跡継ぎなんだもの!」

すると口をふさがれた。

それは掌ではなく唇だった。

前回よりも少し長い口付け、黎仙は離れると黎仙はただ相手の顔を見つめていた。

関霞も何も言うことなくただ黎仙を抱きしめる腕のさらに強くした。

「俺の嫁になるって言えよ。そしたら、俺が攫ってやる。」

黎仙は答えなかった。

答えは一つしかないからだ。

ただ答えるとこの腕から離れざるを得なくなる。

今はこの年上の男の腕に抱きしめられたかった。

「なあ?答えは?」

催促されても答えず、今度はただ顔を肩に埋めた。

「ありがとう・・・今まで。」

「何言ってんだ?」

黎仙は目を閉じると両手で力いっぱい関霞の肩を突き放した。

突然のことに関霞の反応は遅れた。

一方、黎仙は芝生の上を数度転がり、痛みを堪えそのまま息を吸い込み叫んだ。

「誰か助けて!」

「おい!黎仙!」

すぐに騎士たちが姿を見せ、曲者の姿を見つけると黎仙へと駆け寄ってくる。

「誰か!」

「おい!」

「関霞!ヤバイ逃げろ!」

数馬が木の上から手を伸ばした。

関霞は一度、黎仙に視線を送るとそのまま数馬に手を差し伸べそのまま壁の向こうへと消えた。

黎仙は騎士に囲まれながら、関霞のいなくなった壁を見つめていた。

ただ涙が毀れた。

「さよなら・・・。」


その夜、暗闇の中でただ月を見ていた。

扉が叩かれは入ってきたのは北斗だった。

「見回りありがとう。」

黎仙は北斗を抱き上げると自分の膝の上に座らせた。

北斗は甘えながらも自分を可愛がってくれる女性の顔を眺めた。

月に向かって光る顔は微笑んでいたが、とても寂しそうな顔だった。


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