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第十七話 思惑

鳥のついた簪を月の前に掲げると、優しい光を浴び光り輝く鳥へと変化した。

ただ黎仙の視線はそこに注がれていた。

あのがさつな男に嫁になるかといわれたときは、胸がときめき小さく締め付けられた。

けれど遜頌は違う。

頭から血の気が引き、体中が苦しくなった。

それでもこの簪に触れていると少しだけ心が温まった。

それと同時にどうしようもない喪失感も押し寄せた。

「もう・・・会えない。」

自分の夫はあの遜頌。

そんな身でこれ以上、関霞に会えば自分が苦しくなる。

そう思った。

関霞にとっては全てがただの興味であっても、自分の中で違う感情が芽生えているのだ。

そしてそれは皮肉なことに今日、遜頌を夫とするに当たって明確に見えてきたのだ。

「関霞。」

呼ぶだけで胸がときめき、瞼の裏に顔を思い浮かべると、自分の口元も緩む。

そんな相手なのだ。

「・・・はじめから・・・つりあわないのだから。」

会わなかったことにすればいい。

あの、教会で会わなかったことにすれば、感情を捨てられる。

十三の黎仙はそんなことを考えていた。

それでも掌の簪だけはどうしても自分の中の宝物だった。


「退職金は出たのか?」

聖加は声に振り返った。

教会の前の階段にごろつきが座っていた。

相手は三人、殺意は感じられなかった。

「辞退した。」

「もったいない。結構な額になっただろうに。」

関霞は白い歯を見せると、立ち上がり聖加の横に並んだ。

「後ろの二人は俺の親友だ。どうだ酒を一杯、あんたの優勝祝いをかねてな。」

聖加は静かに笑みを浮かべると、関霞の隣を歩いた。

後ろに控えていた麓珠と数馬も関霞の後ろを歩いた。

「本当は何を願うつもりだったんだ?あんな無茶な願い事する前に。」

「・・・さあな。忘れた。」

「意地張るなよ。聞いたことがあるぞ。どこかの騎士団長が身寄りのない子供を集めた訓練所を作ろうとしているとな。今でも訓練所はいくつかあるが、どれも両家の子息ばかり。身寄りのない子供が入るところはないからな。」

関霞は角を一つ曲がると、居酒屋へと入った。

中ではすでに多くの客が酔い、酒の匂いと怒声に近い声が店内で響いていた。

四人はかろうじてあいていた隅の円卓に腰をかけると、注文をとりに来た男にワインを注文した。

その後、聖加は改めて目の前にある三つの顔を眺めた。

「まさか、こんな顔ぶれで飲むことになるとは。」

「まあ、これも神のお導きってやつだ。」

関霞はそういって笑うと、運ばれてきたワインボトルを奪い、なみなみと赤ワインを四つのグラスに注いだ。

「そうかもしれんな・・・。」

「どうしてあんな願いをしたのです?はねつけられることははじめからお分かりだったのでしょう?」

麓珠だった。

「そうしたかった。あの浅知恵の遜頌なんかに、黎仙様がもったいないと思ったからだ。遅かれ早かれ黎仙様の婿となる。それがあれの狙いだからな。」

「それは同感だ。」

関霞はグラスを傾けると聖加のグラスに合わせた。

「女たちからはあの細い男が妙に人気があるからな。騎士とは違い、うまいことだけを並べて言うあの口と、あの若さで大司教になったという実力がある。」

「よく知っているな。」

「教会の女たちは基本、男に飢えてるからな、満たしてやれば吐いてくれた。」

聖加は困ったように笑うと、ワインに口をつけた。

「一応、神に仕える身だ。あまり無茶はしてくれるな。あとで黎仙様が困られる。」

「その辺はぬかりないさ。」

関霞が笑うと、今まで柳のような涼やかな顔をしていた麓珠は足を思いっきり踏みつけた。

「って!」

その間も聖加は静かにワインを見つめていた。

「しかし・・・結局遜頌へと流れを傾けてしまった。あの男ならば、教皇庁の権力は落とさぬかも知れぬ。ただ、義がないのだ。あの男には。」

「・・・あれは、教皇の二人の息子の死が絡んでいるのか?」

関霞は酒の席での振りをして尋ねてみた。


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