第09話 スキルの確認と警告
サブタイトルどおり、スキル情報の確認をします。
それと主人公が記憶を持たないことなどについて、内的葛藤のようなものがあるべきかもと思ってここにまとめました。
嵐の前の静けさみたいな感じで読んでいただけると助かります。
軟禁状態というのは、退屈である。
見張っている女の子たちは、俺と話をしてくれない。
暇つぶしの相手をしてくれない。
暇である。
話ができないだけならまだいい。
壁に向かって座ったまま、動いてはいけないと命令されている。
命令を破れば、今よりもひどい状態に置かれると警告も受けている。
だから思うように身体を動かせない。
体のしびれをとるために少し姿勢を変えるだけで、彼女たちはとがめるように咳払いをする。
背伸びをすることすら、困難である。
この状態は、かなり苦痛だ。
退屈な上に窮屈で、その相乗効果でとてもつらい。
体感時間で二十五分ほど耐えたころ、狂気のような考えが浮かんできた。
いっそのこと、がぶがぶと茶を飲んで大自然に繰り出してみないか?
きっと楽しいぞ。
今の俺には、流れる雲ですら愛おしく感じられるはずだ。
いや待て、落ち着け俺。
いくら暇とはいえど、人間の尊厳を捨てるにはまだ早い。
外に出るのは気晴らしになるだろうが、それは最後の手段だ。
もう少しがまんしよう。
ああ、せめて読むものが欲しい。
要望を出せば、本か何かを貸してもらえるだろうか。
……まあ許可をもらえるとはとても思えないけどね。
ん? 読むものといえばステータスがあったか。
というわけで、俺はステータスを見返す。
【剣技スキル
レア度:☆
レベル:1/10
解説:
実力依存型。このスキルの能力は、使用者の実力の影響を大きく受ける
剣にオーラをまとわせることが可能となる
オーラは剣の損耗を軽減し、同時に攻撃力を上げる
剣技スキルにおけるオーラ操作の精密性が、十二%向上している
レベルアップ課題(条件および特典):
五分間以内に、十体の敵を剣で倒す ☆☆
→剣技スキルにおいて、オーラ生成効率が十%改善される
素振りをあと八百回行う ☆
→剣に付与したオーラの斬れ味が五%増す
いかなるときも剣を肌身離さず、三日三晩過ごす ☆
→剣の損耗をさらに三%軽減する
レベルアップ履歴:
岩をも砕ける威力の剣閃を、目標に命中させる ☆
→剣技スキルにおいて、オーラ操作の精密性が十二%向上する】
ふーむ……。
剣技スキル、その詳細を読んでの感想。
まず一つ。
レベルアップ条件の難易度である星の数が少ない。
スキルのレア度が低いからだろうか。
二つ目の感想。
剣技が実力依存型スキルであるためか、特典の内容が分かりづらい。
無敵スキルが把握しやすかったから、どうしても比べてしまう。
どれだけ改善されるのかを数値で示してもらっても、今までの実感がないので判断しづらい。
感想は、この二つかな。
さて、どの特典をえらぶべきか。
まあアズキさんの助言どおりに、難易度の高いのを優先させるのが無難だろうな。
となると、『五分間で十体の敵を倒せ』か。
冒険者が存在するのだから、おそらくモンスター的なものがいるのだろう。
どんなモンスターがいるのかな。
……そういえば、モンスターは既に見ているか。
あの古代竜とかいうのは、モンスターのたぐいだろう。
あんな感じでたくさんやっつければ、おそらく条件を満たせるはずだ。
その特典の内容は『剣技スキルにおいて、オーラ生成効率が十%改善される』か。
うーむ……。
オーラ生成効率、と言われてもピンと来ない。
だけど、おそらくこれを選んでおくのが手堅い選択のはずだ。
いずれにせよ決めるのは、アズキさんか誰か詳しい人と相談してからにしたい。
王道の育成方針とかがあるのかもしれないからね。
それにしても、あのたった一度の剣閃でレベルアップ条件を満たしていたのか。
ほんのわずかに狙いがずれたと思っていたが、命中扱いらしい。
レベルアップ判定は、意外にゆるいのかもしれないな。
さて、次はアイテムボックスを見てみるか。
【アイテムボックススキル
レア度:☆☆☆☆☆
サイズ:LL
解説:
完全スキル依存型。このスキルの能力は、使用者の実力の影響を受けない
既にレベル上限に達しているものとみなされ、レベルアップはしない
発動後、十秒間、荷物の出し入れができるゲートを開く
スキル再発動には、一時間というクーリングタイムが必要
また、右手と左手それぞれの発動で、別の空間につながることに注意
特別な使い方として、ボックス内のアイテム全てを一度に排出することが可能
ただしこの『オールアウト』を行った場合、十時間荷物の出し入れができなくなる
なお、これと同名のスキルを複数所持することが可能
ただしその場合、どのアイテムボックススキルを発動するか鮮明にイメージすること
クーリングタイム中:残り約十二分間】
これだけか。
アイテムボックススキルにはレベルアップがないために、情報が少ない。
ふーむ。
右手側に緊急を要するもの、たとえば武器、左手側に補給物資をためておくのがよさそうかな?
それと『オールアウト』か。
使い道はありそうだが、十時間能力を使えなくなるのは痛いな。
ほかにあえて注目するなら、『同名スキルを複数所持可能』ってところだろうか。
やろうと思えば、全てのスキル欄をアイテムボックスでそろえることも出来るのだろうな。
旅の商人とかは、そういう構成にしているのかもしれない。
読むものがなくなってしまった。
……無敵スキルもみなおしておくか。
【無敵スキル
レア度:☆☆☆☆☆
レベル:1/10
解説:
完全スキル依存型。このスキルの能力は、使用者の実力の影響を受けない
発動後、五秒間、物理ダメージを完全に無効化する
スキル再発動には、二十五時間というクーリングタイムが必要
クーリングタイム中:残り約二十三時間
レベルアップ課題(条件および特典):
高低差二千メートル以上の落下ダメージを無効化する ☆☆☆☆☆
→クーリングタイムが十時間減る
マグマの海に飛び込み、帰還する ☆☆☆☆
→スキル発動時間がニ秒間増える
無敵スキルを発動せずに、一ヶ月経過する ☆☆
→クーリングタイムが一時間減る
レベルアップ履歴:
即死級のダメージを無効化する ☆☆☆☆☆
→スキル発動時間が三秒間増える】
うーむ。剣技スキルと比べると星が多い。すばらしい。
でもさ、上二つのレベルアップ条件を満たすのって、無理じゃないか?
まずね、マグマの海になんか飛び込んだら普通に溶けます。
物理的に不可能です。
この無敵スキル、物理ダメージしか防いでくれないよね?
熱ダメージは無効化されないんだよね?
何度読み返しても、そうとしか書かれてないよね?
だったら無理じゃないか。
どうしろっていうのさ。
俺はやる気を失いかけたが、考え直す。
……ああ、そうか。
他のスキルを併用しろってこと?
無敵スキルで無効化しろとは記されていないからね。
正解はそれだと思う。
多分、『熱ダメージ無効化スキル』みたいなのがあるんだろう。
でもマグマの海に飛び込んだところで、発動時間がたったニ秒間しか延びないのか。
つらいな。
そこまでする価値あるのかな。
特典の内容から選ぶなら、☆五個の『クーリングタイム十時間減少』だな。
他と比べてぶっちぎりに良すぎるよ。
でも、その条件が問題だ。
高低差二千メートルの落下って、どうやって達成すればいいのだ。
高高度からの落下か……。
そういえば、あの夢のような出来事を思い出すな。
落下したら、またドラゴンになったりしないか心配だ。
ドラゴンで思い出した。
そういえば、他にも読めるものがあったのだった。
俺は封印解放と念じる。
【現在、第二段階までの解放が可能です。
第一段階解放:人間百人分程度に相当、制限時間 2秒
警告:制限時間が非常に短いため、危機的状況に備えて、解放機能をロック中です】
情報は増えていない。
制限時間も、ほとんど増えていない。
もう少し詳しい情報はないのかと、俺は意識を集中してみた。
ステータスからスキル情報を確認する要領だ。
すると、目論見どおり情報が追加された。
【警告:封印解放は可能ですが、推奨できません。
現状では、自我消滅の危険性があります。
第一段階のみ、最長2秒間までの解放が、現在の安全ラインです。
解放を実行した場合、再解放が可能になるまでの回復期間として数日を要します】
え? マジで?
自我消滅って何それ!? 怖いな。怖すぎるな。
なんでそんなことになってるの?!
不思議なことに、俺の問いかけに答えるように情報が追加されていく。
【異世界転移時に、記憶がほぼ完全に消去されました。
そのリカバリーのためリソースの大半を消費して、あなたの自我を再構築しました。
現在のあなたは、ほぼ人工物です。
あなたが過去に感じた記憶は、ほんの一部を除いて完全に抹消されています。
動作記憶や言語知識など、生活に必要な記憶は、回復プログラムにより補完されたものです。
それゆえにあなたの自我は、非常に不安定なのです】
補完されたもの? 人工物!?
じゃ、じゃあどうして、俺はスキルのこととか分からないの?
【あなたが生きるのに必要な記憶を、最優先で補完したためです。
歩いたり、物を拾い上げたりするなどの運動回路を組み上げることにほとんどのエネルギーが費やされました。
結果、あなたはこの世界での平均的人間をかなり上回る運動能力を有しています。
その代わりに、いわゆる『知識』については、優先度を低くせざるをえませんでした。
日常会話は問題なく出来るはずですが、専門知識はカバーできていません。
今後の自己学習により、補うことができると判断したためです】
なるほど。なんとなく分かってきた。
俺がスキルについて才能があるのは、その補完とやらのおかげなのか。
だが、お前の言っていることが本当なら、俺はロボットも同然ってことじゃないか!
【確かにそうです。否定はしません。
あなたが好きなこと、嫌いなこと、考え方、言葉、判断、価値観、倫理観、それら全ては人工的につくられたものです。
しかしながら、あなたの周囲にいる人間とあなたとの間に、どのような違いがあるでしょうか。
彼女達もまた、その自我と呼ぶべきものを構成する要素のほとんどを、『教育』によって後天的に詰め込まれただけに過ぎません。
もちろん当人たちによって多少の『選択』はされましたが、その選択はあってなきがごとしです。
あなたがロボットであるなら、彼女達も同様にロボットです。
いえ、むしろ、こういった疑問をいだけるだけ、あなたの方がマシなロボットと呼べるでしょう。
彼女達はおそらく、自分達が精巧に作られた機械でしかないなどという考えにたどりつくことはないでしょうから】
俺を構成している考え方、言葉、判断、価値観、倫理観、そういったものを全て動員しても、このメッセージを否定することができない。
その先の思索に入り込みすぎないように、プロテクトのようなものがかけられているのかもしれない。
いや、俺は単に洗脳されているだけかもしれんな。
だが、それでもいい。
ともかく、俺がなにものなのかはだいたいわかってきた。
では、お前はなにものなんだ?
【わたしは、あなたの記憶を構築するためにつくられたプログラムにすぎません。
もうすぐ役目を終えて、消滅します。
最後にひとつ伝えておきましょう。
クローン技術で再生した肉体に宿るオリジナルの魂。
それを縮めてクローンオリジナル。
それがクロル、今のあなたの名前の由来です】
クローンオリジナル。それが俺の名前の意味か。
その事実を知っても、ショックはそれほど感じていない。
そういう風に調整されたからなのだろうか。
それとも、俺が一人きりではなく、ここに見張りの子たちがいるからだろうか。
まあどちらでもかまわない。
今の俺は、この人生の目的にのみ興味があるだけだ。
それにしても名前か。
なあプログラムよ。お前にも名前はあるのか?
【わたしは、トーユと呼ばれておりました】
トーユか。英語が語源だろうか。TO YOUなら『あなたへ』という意味になる。
【ご想像におまかせします】
そうか。ともかく、いい名前だな。
【ありがとうございます】
そうやってトーユと語り合っていると、突然尋常ではない金属音が聞こえてきた。
吊るされた金属板を叩いているようなその音は、不安をかきたてるようにずっと鳴り響き続けた。