表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
手加減だけはうまくできない  作者: ニャンコ先生
第02章 二百九十九プニール後の世界
8/39

第08話 監視

今回はちょっと短めです。


「さて、詰めをあやまるわけにはいきません。

 クロルさんがわたしたちの脅威ではないという確証を得るため、わたしはここに来ました。

 ですから、アイテムボックススキルを発動して、わたしに見せていただけますか?

 初めてのスキルでしょうけれども、きっとクロルさんならお出来になるはずです」



 そううながされたが、俺は無敵スキルで学んだことを思い出す。


 それは闇雲にスキル発動を試さないほうがいい、ということだ。

 再発動に長期間のクーリングタイムが必要である可能性も考えられうる。



「ヨモギさんのご要望には、できうる限りしたがいます。

 しかしながら、俺はアイテムボックスの使い方を知りません。

 どうすればいいのでしょうか」


「アズキさん、説明をお願いします」


「はい。承りました。ではクロルさん、よく聞いていてください。

 まず、右手か左手をオーラで包みます。

 そしてアイテムボックス発動と念じます。

 すると手の近くに、異空間とつながる小さなゲートが開きます。

 ゲートを通して、アイテムの出し入れができます」


「ふむふむ」


「アイテムを中に入れて手を離せば、異空間内のその場所に固定されます。

 ゲートからの相対座標に固定されるという意味です。

 上のほうに置いたら、上の方に。

 下のほうに置いたら、下の方に置かれたままになります。

 ですから、どの位置に何を入れたのか、覚えておいてください」


「分かりました。では、試してみてもいいでしょうか」


「いえ、もう一つ重要な注意があります。

 それは、ゲートの開放時間が十秒間しかないということです。

 十秒間しか、物の出し入れができません。

 十秒後、腕を含めてゲートに触れている物体は、強制的に押し出されます。

 あっそれと、スキル再発動にはクーリングタイムが一時間必要です」


「なるほど、意外にあつかいにくいんですね」


「そうですね、慣れが必要です。

 ゲートを開く時は、収納しようとするアイテムを持って用意をしておくと良いですね。

 では何か手ごろな品を探しますね。

 えーと、収納できたと一目で分かるほど大きくて、なおかつ持ちやすいものは……」


「アズキさん、先ほどの折れた刀がよいでしょう」


「刀、ですか? 折れているとはいえ、武器を渡してもよろしいのでしょうか」


「ええ、かまいません。

 いくら剣技スキルがあるとはいえ、折れた刀では何もできないはずです。

 それに、武器を取り出して暴れてくれるのなら、ためらいなく処分できます」


「……そうですね、確かに折れた刀なら脅威ではありませんね。

 仮に剣閃で使うとしても、この短さなら威力は半減以下になるでしょう。

 ではクロルさん、この刀を預けます。

 オーラを出してスキルを発動させ、収納してみてください」


「お預かりします。では、やってみます」



 刀を持った右手に、オーラをまとう。

 そしてアイテムボックスと念じる。

 すると手の甲の斜め上あたりに、ネコの鼻に似た五角形のゲートが現れる。

 円でなく五角形なのは、入れた位置を覚えやすくするための配慮だろうか。

 ゲートはそこそこ大きい。肩をせばめれば、俺自身も入れそうだ。


 おっと、悠長に観察するのは後回しだ。

 制限時間は十秒間と限られている。


 俺は事前の脳内シミュレーションどおりに、さっと刀を入れて手を離す。


 これで完了である。



「ん、けっこう余裕があるんですね。十秒間って」



 そう感想を述べても、ゲートはまだ消えない。


 あ、消えた。



「なるほど、十秒間とはこのくらいの長さか。

 意外と余裕があるんですね」


「先程の無敵スキルで、発動時間二秒間のイメージが強く印象付けられたからそう感じるのでしょう。

 慣れてくれば、数回物を出し入れすることができますよ。

 ただし、あせっているとあっという間にすぎてしまいます。

 その点は気をつけてください」


「覚えておきます。アドバイスありがとうございます」


「クロルさんのアイテムボックススキル取得と発動を確認しました。

 これでクロルさんは、わたしたちの脅威ではなくなりました。

 これ以後、あなたは捕虜という扱いでわたしたちに同行することを認めます。

 わたしたちの指示には、必ず従ってください。

 あなたに関する疑いはほとんど晴れましたが、不穏な動きを見せれば実力排除もありえます」



 捕虜、か。

 はっきり言われると、むずがゆいものを感じるな。



「はい、分かりました。同行許可、ありがとうございます」


「『不穏な動き』の中には、アイテムボックススキルの発動も含まれます。ご注意を。

 許可なしに能力を行使しようとすれば、武装行為とみなします」



 あっ、そうか、やられた。

 折れた剣なんかをなぜしまわせたのか、その理由は能力を封じるためだったのだ。



「分かりました」


「ではアズキさん。あなたはクロルさん監視の任を解きます」


「え、ですが……」


「あなたはクロルさんに情が移りすぎました。

 ですから、騎士団の別の者を監視にあてます」


「……了解しました」


「クロルさん。あなたは、指定する馬車の中で軟禁とさせていただきます」


「軟禁ですか……。分かりました。捕虜ですもんね。了解です。仕方ないですね」



 ヨモギさんが腕をあげると、二人の女の子が駆け寄ってくる。

 どちらも『かわいい』子だが、表情が固い。

 二人の子は俺の左右から腕を掴む。

 両手に花ではあるのだが、嬉しいような嬉しくないような……。


 だってこの場合の『かわいい』ってのは、社交辞令の『かわいい』だもん!

 どちらと言えば『こわい』だもん!

 こわいの発音を『こぁわいー』ってゆがめて、ごまかしてるだけだもん!


 それに二人とも筋骨ムキムキで、視線が鋭すぎるんだもん!


 そんな失礼なことを考えていたら、二人からギロリとにらまれた。

 ああそっか、この二人も接触通信とかいう能力をもってるのかもしれないのだ。


 やばい!心を読まれたかもしれない!


 ごめんなさい! ふたりともすごくかわいいです!

 だから許してください!



「クロルさん、こちらへ同行願います」


「は、はい!」



 幸運なことに道すがら『失礼なことを考えおってー!』とか言われて首をしめられたりすることはなく、馬車の中へ連れて行かれた。




 今度の子達は、非常に無口である。

 名前も教えてくれない。

 なのでAさんBさんと呼ぶことにした。


 AさんBさんとも、馬車の中でじっと座ったまま、俺を凝視している。


 必要な会話以外は受け付けてくれない。

 ゆえに退屈である。




 まあそうだよな。

 アズキさんとあれだけ親しく話す仲になっちゃったから担当を換えられたのに、またこの二人と親密になっちゃったりしたら、換えた意味がないもんね。






 さて、しばらくしてのことだ。



「あのー、すいません。さっきお茶を飲みすぎちゃって、その……」


「自然的欲求による排出行為をご所望でしょうか」と、騎士団員Aさんが尋ねる。



 変な言い回しだが、意味は分かる。



「……あ、いや、違います。全然大丈夫です。

 ですがー……、ちょっと心配になりまして。

 もしそんな欲求を押さえきれなくなった場合、どうすればいいでしょうかね」


「大自然の中で放出していただくことになります。

 なお、我々が監視しますが、よろしいですよね?」と、騎士団員Bさんが尋ねる。


「えっ、監視?」




 するとどういうわけか、馬車の外から声が聞こえてくる。


 姿の見えない誰かが、俺の噂をしている。



「あっ、とうとうこのときが来たのね、待ってたわー」


「殿方は、立ったままなさると聞いておりますが、本当でしょうか」


「らしいわね。逃亡を阻止するため、前から監視させていただきましょう」


「任務ですから、しょうがないですよね。

 不本意ですが、張り切って観察させてもらいますわ」


「違う違う、まだだって、もうちょっとしてからみんな呼んで来て」


「えー、まだなのー。ざんねーん」



 物騒な会話である。

 この様子では、一体何人の女子から見られることになるのか分からない。

 これほど怖いことはない。



 ……ちょっとだけ想像してみた。


 俺が自然な欲求とやらを満たしているその最中を、女の子たちに前から監視される。

 『いや~ん』とか言われて、頬を染められてしまう。

 『任務だからしょうがないんです』と、真面目そうな女子が俺を注視する。

 『いっぱい出るなー。出過ぎだなー』と、恥らうことを知らない少女が高らかに笑う。

 『もっとよく観察させてください』と言いながら、眼鏡の子が何か記録をつけている。

 ケラケラと高らかに笑いながら、女の子が俺を指差す……。俺のナニを指差す。



 セクハラの嵐である。


 恐ろしい話である。


 背筋がゾーッと寒くなった。




 俺は王都とやらに到着するまで、余計な水分は一切とらないと心に決めた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ