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手加減だけはうまくできない  作者: ニャンコ先生
第02章 二百九十九プニール後の世界
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第07話 第三のスキル


 俺のことなんか、大っ嫌いか。

 面と向かってそんなことを言われるとかなりショックだ。


 だけどこれって、口説きやすいように話を振ってきてくれたんだよな。


 じゃあ、ストレートに返してみるか。



「そうですか? 俺はアズキさんのこと、けっこう好きですよ?」


「なっ……」



 突如、アズキさんの顔が真っ赤に染まった。

 こうやって口説かれることに慣れていないのか?


 自分から求婚しろと言っておいて、なんなんだこの反応は。




「訂正します。『けっこう』ではなく『かなり』好きです。

 さっき食事していて思ったんですが、話も合うし、かわいいし、親しみも持てる。

 出会ってからまだ数時間しかたっていませんが、お嫁さんに欲しいと思いました。

 それくらい好きです」


「なっ、なっ……」



 アズキさんの頭から、湯気が出ている。

 初々しさが本当にかわいい。



「どうでしょうか。もう本当に結婚しちゃいませんか?」


「なっ!?」


「アズキさんも俺のこと、まんざらでもないみたいですからね。

 だって本当に嫌いな相手になんか、さわりたくもないはずなんですよ」



 それを指摘すると、アズキさんはハッと気づいたように俺から手を離す。



「ひっ、人をからかうのもいい加減にしてください!

 そういうところ、大っ嫌いです!」


「からかうなんてとんでもない。

 そうやって照れてるところもかわいいです」


「ほ……、本気なんですか?」


「本気です。結婚しましょう」




 結婚か。


 一瞬、あのくすぐり少女の顔が浮かんだ。


 ひょっとしてあの子は、俺の運命の相手だったんじゃないだろうか。

 そうでなかったとしても、俺のことを好きだったんじゃないだろうか。



 いや、それは俺の思い上がりだよな。



 俺の人生の目標は、あのくすぐり少女に復讐を果たすということだけだった。

 しかしたった今、そこに前向きなものが加わった。


 アズキさんと結婚するということだ。

 楽しい結婚生活を営むということだ。


 楽しみが増えた。よろこばしいことだ。



「もういちど、もういちど確認します! 本気で言っているんですか!?」


「ですから、本気ですってば」



 そういえば、行動が必要だって言われてたな。

 それくらい『本気で』求婚しろってことなんだろう。


 俺はアズキさんの腰に手をまわす。

 するとアズキさんは抵抗せず、抱き寄せられる。


 俺の腕の中、アズキさんは瞳をうるませながら尋ねてくる。



「本当に、わたしでいいんですか?」


「あたりまえじゃないですか。あなたがいいんです」


「わたしの夢は、子供たちと幸せな家庭を築くことなんです。

 その夢に、協力してくださいますか」


「ええ、もちろん」


「では、契約成立です」



 うなじに手をそえると、次の行動を予測したようだ。

 アズキさんは瞳をうるませ、俺を見つめる。


 唇とくちびるが……。




「そこまでです」




 よく通る声が響き、俺たちは現実に戻される。


 そうなんだよな。俺たち監視されていたんだった。

 一瞬で興が冷めてしまった。



 馬車が並んでいる方から、騎士団の女性が近づいてきた。

 やさしそうだが、芯の通った強そうな女性だ。


 アズキさんがあわてて姿勢を正したので、俺もそれにならう。



「はじめまして、クロルさん。わたしはヨモギと申します。

 役職は明かせませんが、この騎士団でそれなりの地位についている者です」


「はじめまして。よろしくです、ヨモギさん」


「早速ですが、用件に入ります。

 姫様からクロルさんにプレゼントをあずかってきました。

 こちらのスキル缶をお召し上がりください」



 『姫様』という単語が気にかかった。

 けれど、今はそれよりスキル缶の方に関心が向いている。

 『姫様』からのプレゼントなのだから、何か特別なスキル缶かもしれない。



 ヨモギさんは、スキル缶を俺に差し出す。

 スキル缶には、先ほどと同じくかわいいネコの絵が猫かれている。

 俺はうやうやしくそれを受け取る。


 そして、何とはなしにスキル缶を確認する。


 するとスキル缶には『アイテムボックス:LL』と記されている。

 それを横目で見ていたアズキさんが、目を丸くして驚く。



「ア、アイテムボックスですか?!

 しかもLLサイズだなんて! 国宝級じゃないですか!」


「国宝級は言いすぎですが、まあ、そうですね。非常に価値のある品です。

 クロルさんにはあと一つ、スキル枠がありましたよね。

 どうぞ、こちらをお使いください」



 さっきから国宝級なんて言葉が飛び交っている。

 とてつもない値打ちがあることが分かる。


 二人の話し振りによれば、それをもらえるらしい。


 いいのか?

 もらっちゃってもいいのか!?



「得体の知れない俺なんかに、もったいなさすぎませんか?」



 俺からの『もったいないのでは?』との問いに、ヨモギさんは答えず、アズキさんに話を振る。



「アズキさん、このスキル缶を使わないとしたら、クロルさんに何のスキルを習得していただくのでしょうか?」


「はい、順当に『ダッシュスキル』を覚えていただく予定でした」


「そうです。そのことが問題になったのです。

 無敵、剣技、ダッシュというスキルが揃ってしまうことを、わたしたちはおそれたのです。

 これらのスキルは相性が良すぎます。

 三つのスキルがそろうと、騎士団にとっては、それなりの脅威となりえます。

 ダメージ無効化のスキルを頼りにダッシュで突撃し、事後の成り行きをおそれずに目的を完遂する。

 そんな戦い方が実現可能になります」



 ヨモギさんはそこまで説明すると、俺の瞳を見つめる。

 何もかも見透かされそうな、鋭い氷のような視線だ。



「クロルさん、あなたの人柄を疑っているわけではありません。

 ですが、信頼に足るほどの交友関係を結べたわけでもありません。

 ですからどうか、わたしたちのことをご不快に思わないでください」


「いえ、こんな素性の疑わしい男を近くに置いているわけですから、そういった危惧も当然の話です」


「ご理解、感謝いたします。

 では少しばかり、わたしたちのことをお話いたしましょう。

 その前に、一つだけ、約束をしてください。

 これから話す事を、誰にも口外しない、と」


「はい、分かりました。約束します」


「既にお気づきかもしれませんが、この騎士団は、女性だけで構成されています」


「ああ、やはり、そうでしたか。

 女性しかみかけないので、ひょっとしたらと思っていました」


「はい。そしてわたしたちの任務は、ある方をお守りすることです。

 わたしたちがお守りしているその方を、仮に姫様と呼ぶことにいたしましょう」


「はい」



 先ほど一瞬話に出てきた『姫様』の単語を思い出し、俺はゴクリとツバを飲んだ。



「姫様は、とてつもない能力をお持ちです。

 その能力とは、一瞬にして全てを焼き尽くす超魔導砲です。

 その威力は、戦略級、と言ってお分かりになりますでしょうか?」


「戦略級……ですか。地形が変わるレベルということでしょうか」


「そのとおりです。

 山脈を吹き飛ばすことも、巨大な湖を干上がらせることも、姫様ならば可能です。

 城や砦といったものは、姫様の前では役に立ちません。

 条件さえ合致すれば、大隊、いえ、師団クラスの敵をも殲滅できるでしょう」



 ヨモギさんの話を聞きながら、俺は『柱たる神』に立ち向かってきた男のことを思い出していた。


 あの男も山脈を吹き飛ばす威力の攻撃をしかけてきた。

 だがおそらく、それはあの男の実力ではない。

 何かの『道具』を代償にしていたように思える。

 つまり、あれは一度きりの能力、ということだ。


 しかし『姫様』は、あの男とは違うのだろう。

 制限はあるだろうが、何度も使える能力なのだ。


 だとすれば、姫様は超重要人物だ。


 姫様一人を守るためにこれほどたくさんの人間が動いていることからも、それがうかがえる。



「それほどの……」


「現在のわたしたちは、姫様のお力で城一つを実際に消滅させてきた帰りです。

 城といっても、高さ数百メートルの丘を少し改良した程度のものでしたが……。

 その丘をまるごと、文字通り更地にしてまいりました」


「数百メートルの丘って、もう『山』ですよね。

 それを更地にするって、とんでもない威力ですね。

 あー、いや、それを丘と形容せざるを得ないほどの破壊力を秘めているのですね」



 そして俺は次の言葉を呑み込んだ。

 つまり姫様は、もっと巨大な山脈をもチリアクタに変えてしまう能力を持っているということなのだ。



「ええ、そういうことです。

 ですから戦略級と申し上げております。

 しかしながら、そんな姫様にも弱点がございます。

 それが何か、お分かりになりますか?

 いえ、考えていただけますか?」


「弱点……、ですか?」


「そうです」



 俺は推測を始める。


 おそらく姫様の能力である超魔導砲とやらも、スキルによるものなのだろう。

 そして、この世界では、持てるスキルの数は限られている。

 また、スキルの数だけではなく、レベルにも上限がある。


 ならば、答えは簡単だ。



「俺はスキルのことについて詳しくありません。

 ですので、素人が考える一般論ならお話できます。

 一個人のスキル所持数が限られるなら、汎用型よりも特化型が強いはずです。

 いや、強いと言うと語弊がありますね。

 ある一つの目的に向けてスキル構成を特化させれば、そのジャンルには当然強くなる。

 ですが、他の分野では全く使い物にならない。

 そういう話ですよね」


「続けてください」


「おそらく姫様は、魔導砲の威力をあげるために、構成を特化していると思われます。

 そうであれば、それ以外の能力は、非常に低いと推測できます。

 たとえば近接戦闘能力は、ほとんどゼロと言っていいのではないでしょうか。

 先ほど話に出た『ダッシュ』のような俊敏さを補うスキルがない。

 防御系のスキルすら、おそらく持ち合わせていないのでしょう。

 となると、乱戦に弱い。

 もしも俺が敵国の将軍だとしたら、対人戦闘に特化した集団を送ります。

 そして、できれば包囲戦が望ましいですね」



 ヨモギさんの視線が、氷のように冷たくなった。


 しまった……。調子にのってしゃべりすぎた。

 心証が悪くなってしまったようだ。


 今はおそらく戦時下。

 うかつなことを話すべきではなかった。


 これではまるで、俺が敵国に雇われた暗殺者だと宣言しているようなものだ。


 ここからは、慎重に話さなければならないだろう。




「いや、あの……、あくまでも推測です。一般論です。

 どうか、誤解なさらぬようにお願いします」


「かまいません。

 わたしの立場から、姫様の弱点を申し上げることはできません。

 ですから、先ほどのような質問をさせていただきました。

 その質問にクロルさんが答えた、今のはそういう話です。

 さて、クロルさんに述べていただいた一般論、それを解決するために、わたしたちがいます。

 姫様にそういう弱点がなかっとしても、そういう風にみせかける必要があります。

 これ以上は軍事機密にあたりますので、うまく言えません」


「なるほど……」


「ですので今現在、クロルさんが姫様に手を出そうとしても、それは不可能です。

 わたしたちが確実に阻みます。

 そういった能力と手段を持っています。

 ですが……、外部からの不確定要素がまじれば、クロルさんの存在は不安材料となりえます。

 無論、それは1%にも満たない脅威ですが、そういった『確率』をできるだけ減らすのがわたしたちの仕事なのです。

 したがって、もしも今襲撃があったならば、わたしたちは姫様の無事をお守りするために、クロルさんを処分しなければならなくなります。

 たとえ、クロルさんが無実で善良な一般の方だとしてもです」


「処分、ですか……」


「ええ。あなたがこの場所にいたということは、外部を囲う守備隊に穴があるということです。

 古代竜の足跡から察するに、そう考えるのが妥当でしょう。

 その穴が、ミスから生じたものか、あるいは人為的にあけられたものか、わたしたちには判断ができません。

 好意的にミスか不幸な偶然の結果だと思いたいのですが、その判断は危険です」


「確かにそうですね」


「そういった次第で、飴とムチと言ってはなんですが、このスキル缶を提供することになったわけです。

 アイテムボックス、無敵、剣技というスキル構成であれば、たとえ交戦になったとしてもクロルさんは脅威になりえません。

 積極的にあなたを処分する必要がなくなります。

 ですから、このスキル缶をお召し上がりになってください」


「分かりました。ではありがたく頂戴いたします」



 これ以上の話は、時間の無駄だろう。

 俺はスキル缶を開ける。



 プシュッ、ツー、ペキッ。


 スキル缶をあけると、中にはイクラのお寿司が入っていた。

 ルビーのような粒々が、俺を魅了する。


 寿司をつまんで醤油につけ、俺は一息でほお張る。



 プチン、とイクラが割れる。中からとろりと蜜のような液がこぼれる。

 醤油と海苔、そしてご飯とイクラが交じり合う。


 マグロもうまかったが、このイクラも最高だ。




【スキル:『アイテムボックス』を獲得しました】




 よし、スキルもばっちり取得してる。


 だが、もう少し味の余韻にひたりたい。

 お茶も欲しい。渋いお茶が欲しい。だが、お茶はない……。


 今回もガリで我慢するか……。ガリガリ。



「それで、どうですか?」


「最高でした。最高においしかったです」


「いえ、味の感想を聞いているのではなく……」


「すいません、勘違いしていました。

 スキルですね。

 はい、無事、覚えることができました」



 俺は念のためにステータスをひらいてみる。




【名前:

   クロル


 スキル:

   無敵          レベル1

   剣技          レベル1

   アイテムボックス    サイズLL】




「ん、アイテムボックスって、レベルはないんですか?」



 するとヨモギさんが、ようやく笑顔を見せる。



「その驚きっぷりが演技ではないと信じたくなるアズキさんの気持ち、ようやくわたしにも分かりました」



 アズキさんもにこやかに笑った。

 そして俺の手の甲をつねってきた。


 あの……、これはご褒美なんでしょうか?




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