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手加減だけはうまくできない  作者: ニャンコ先生
第02章 二百九十九プニール後の世界
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第06話 レベルアップの仕組み

今回も結局長くなってしまいました。


「ではこうなった以上、ついでに無敵スキルの発動を試してみましょう」


「はい、お願いします。先生、どうすればいいでしょうか」



 アズキさんは先生と呼ばれるのが気に入っているようだ。

 ゴホン、とわざとらしい咳払いでもったいをつけてから説明を始めた。



「まず、最初に警告させていただきます。

 わたしの指示なしで、無敵スキルを発動させないでください。

 この警告の理由については、順次説明していきます」


「わかりました。指示に従います」


「では『無敵スキル』の概要から。

 このスキルは、防御系スキルに分類されます。

 その効果は、スキル発動中に受けたダメージを無効化するというものです」


「なるほど」


「ではここで簡単なクイズを出します。

 このスキルの効果を確かめるには、どうしたらいいと思いますか?」


「スキル効果を確かめるには……。

 スキル発動中に、普段なら怪我するようなことをしたりされたりすればいいと思います」


「そうですね。正解です。

 荒っぽいやり方ですが、それでクロルさんが無事なら無敵スキルの効果を確認できたということになります。

 ではそれを実現するには、どうすればよいでしょうか。

 手っ取り早いのは、わたしがクロルさんを攻撃するというものです。

 ここまで、意見が一致しましたね」



 アズキさんは満面の笑みを浮かべている。

 そして、俺から合意を得ようとして、「ね?」と首を横に傾げてみせる。


 俺は悪い予感がしたが、「はあ……」とあいまいな返事をするしかなかった。



「さて、合意を得られたところで話を進めましょう。

 同種のスキルから推測すると、無敵スキルの発動時間はおそらく数秒間です。

 つまり数秒間のうちに、クロルさんを攻撃する必要があります。

 ですが、数秒間なんてあっという間です。

 きちんと打ち合わせをしなかったら、おそらくタイミングを逃してしまうでしょう。

 さて、ここで第二問!

 もし初回のテストでタイミングが合わなかったら、次はどうすればいいと思いますか?」


「えーと、もう一度スキルを発動させればいいだけの話ですよね。

 次はタイミングが合うように、色々対策をするでしょうけれども」


「その通りです。

 ですがスキルの再発動は、すぐにできると限りません。

 非常に長いクーリングタイムを必要とするものがあります。

 数時間とか半日、数日かかるものもあります。

 無敵スキルもその効果の強力さから推測して、おそらくそのタイプです」


「なるほど。

 今回の場合、失敗すると次のチャンスまでかなり時間がかかる、というわけですね」


「そうです。

 今の説明が、『勝手に無敵スキル発動を試してはいけない』という理由の一つです」


「ということは、他にも理由があるんですね」


「そのとおりです。もう一つ、重大な理由があります。

 その理由を理解していただくため、ステータスを開いてください」


「はい」



 アズキさんにうながされ、俺はステータスを開く。




【名前:

   クロル


 スキル:

   無敵          レベル0

   剣技          レベル1

   ─────】



「ステータス内容を報告してくださいますか」


「剣技スキルを覚えていますね。しかもレベル1です。

 だけど無敵スキルのレベルは0ですね。

 どうしてレベルに差があるのでしょうか。

 もしかして、『自力で獲得したスキルはレベル1から』とかそういうことでしょうか?」


「なるほど、やっぱりレベルが上がっていましたか。

 簡単に言うなら、それがスキルを勝手に発動してはいけないもう一つの理由です」


「ん? どういうことですか?」


「基本的に、すべてのスキルはレベル0からスタートします。

 もちろん剣技スキルも、その例外には含まれません。

 レベル1ということは、スキル修得後にレベルが一つ上がったということです。

 レベルの上昇条件はランダムです。

 偶然その一つに合致したのでしょう」


「ふむふむ」


「やみくもにスキルを使うと、レベルが上がってしまう可能性があります。

 つまり、スキル育成に失敗する恐れがでてくるのです。

 剣技スキルならば取得も簡単ですから、育成を失敗してもリスクは少ないです。

 なぜならスキルを消して最初からやりなおせば、失敗をなかったことにできるからです。

 しかし無敵スキルは、かなりのレアです。その方法がとれません」



 スキル育成などと言われても、話がピンと来ない。

 俺は「はあ」とぞんざいな相槌を返した。



「ステータスの『無敵スキル』に、意識を集中させてみてください。

 スキルの詳細が表示されるはずです」


「やってみます。

 ………………なにやら、ゴチャゴチャと表示されました」


「すみませんが、それを全て読み上げてください。

 もしもスキルの詳細を秘密にしたいのであれば、強制はしませんが……」


「それならかまいません。では、読み上げます」




【無敵スキル

 レア度:☆☆☆☆☆


 レベル:0/10


 解説:

  完全スキル依存型。このスキルの能力は、使用者の実力の影響を受けない

  発動後、ニ秒間、物理ダメージを完全に無効化する

  スキル再発動には、二十五時間というクーリングタイムが必要



 レベルアップ課題(条件および特典):


  即死級のダメージを無効化する              ☆☆☆☆☆

     →スキル発動時間が三秒間増える


  海抜三千メートルより高い場所で無敵スキルを発動する   ☆☆☆

     →再起動に必要なクーリングタイムがニ時間減る


  無敵スキルをあと二回発動する              ☆

     →再起動に必要なクーリングタイムが三十分間減る】




 俺は表示された内容を語った。



「なるほど、では、どちらを選択しますか?」


「どちら、とは?」


「難易度星五個のレベルアップを選ぶか、難易度星三個の方を選ぶか、ということです。

 無論二番目の星三個の課題については、協力ができません。

 ですので、そちらを選ぶのならば自力で解決願います。

 もちろん、星一個のものを選んでいただいてもかまいません。

 ですが、それはとてももったいないですね」



 その説明を受けて、俺は考える。



「……一つでも条件を満たすと、勝手にレベルが上がってしまうのでしょうか」


「その通りです。

 そして、他に提示されているレベルアップ特典は、消えてしまいます。

 また、レベルは基本10で打ち止めです。

 つまり十回しか、スキルの性能を上げることはできないということです。

 ですから、どのようにレベルを上げるかを吟味する必要があります」


「複数の条件を同時に満たした場合はどうなるのでしょう。

 たとえばこの場合、二番目と三番目は同時達成可能ですよね?」


「その場合は、リストの上位にあるものが優先されるようです。

 いずれにしろ一度のレベルアップでは、一つしか適用されません」


「なるほど。一つだけしか選べないんですね」



 ようやく分かってきた。俺はうなずく。



「そういうことです。

 ですから、よく考えて育ててください。

 おすすめは難易度の高いもの、つまり星の多いものですね。

 一般に、難易度の少ないものよりも、多いもののほうが特典内容は優れています。

 ただ今回の場合ですと、クーリングタイムの短縮を考慮してもいいかもしれません。

 今後できうるかぎりクーリングタイム短縮を選べば、短縮特化型にできます。

 そういう選択肢もある、ということです」


「短縮特化型ですか」


「ええ。

 他のスキルとの組み合わせによっては、短縮特化型が強いかもしれません。

 ですがやはり一般論としては、星の多い方を選ぶべきかと思います。

 発動時間二秒間と五秒間では、雲泥の差があります。

 敵の攻撃を無効化してカウンターをかませる使い方を考えるならば、発動時間をのばすべきです」


「そうですね。単純に時間が長ければ、攻撃を与える機会も余裕も増えます」


「はい。しかし、それだけではありません」



 発動時間をのばすべき別の理由があるのか。

 どういうことだろう……。


 奇襲を受けた時などの緊急回避に使うとしても、発動時間が長い方がいいことは確かだ。

 追撃を無効化できる時間は、長いほどいい。


 だけどこの話しぶりは、そういうことを言っているのではないようだ。


 せっかくの無敵というスキルだ。

 受身の使い方をするよりも、能動的に使ったほうがいいということだろうな。


 つまり、攻撃に用いるということだろう。


 となると、敵の懐に飛び込んで、無敵スキル発動中にしとめるのがベストか。

 アズキさんが言うところのカウンターとしての使い方だな。


 そうなると……。



「あっ、そうか!」


「お気づきになりましたか」


「相手も同系統のスキルを持っている可能性があるということですね」


「そうです。そういうことです」


「仮に相手も『無敵』スキルを持っていて、しかも同時に発動したとします。

 その場合なら、発動時間の長いほうが圧倒的に有利ですね。

 先に時間切れになった方だけが、ダメージが有効になるピンチにおちいりますから。

 もっとも、話はそう簡単ではないと思いますが……」



 すると何故かアズキさんが、俺の腕をつねった。



「なぜ、つねるのですか」


「正しい推論をしたので、ご褒美をあげたのですが?」



 アズキさんは腕を組み、不思議そうな顔で首をかしげる。


 まあ確かにこんな美人にさわってもらえるのだから、嬉しい気持ちの方が勝っている。

 つねられて最初は驚いたけど、何度もされているうちに慣れてしまったからね。


 けれどもそれを認めるのは、いろいろと誤解を招きそうだ。



「不満がおありですか? もっと別のご褒美をお望みですか?

 ほっぺたでもつねりましょうか?」


「いえ……、もう充分です。ありがとうございます」


「では、服を脱いで裸になってください。上半身だけでけっこうです」


「え?」



 ひょっとしてそれもご褒美だとでもいうおつもりですか!?

 と言いかけたが、俺はその言葉を飲み込む。



「クロルさんがスキルを発動させたら、わたしが渾身の一撃を叩き込みます。

 そうすれば、レベルアップの条件を満たせるはずです。

 しかしながら、無敵スキルでは衣服まで守れません。

 ですから、服を脱いでくださいと言っているのです」


「あ、ああ……、なるほど、服を傷めないための配慮でしたか」


「そうです。

 これまでの憎しみを全て込めますから、確実に昇天できるクラスの一撃になるはずです。

 レベルアップ条件は、充分に満たせるはずです。

 わたしの嫉妬パワーを、その身体で受け止めてくださいね」



 アズキさんが不穏な笑みをみせながら、刀を上段に構えてすぶりをはじめる。

 刀を振り下ろしたその後に、アズキさんのはつらつとした笑顔がこぼれる。


 怖い。正直に言って、ちょっと怖い。



 俺は上着を脱ぎながら、「お手柔らかにお願いしたいのですが……」と頼んでみる。



「いえ、仕損じてはまずいので、全力でいきます。

 摩擦熱を感じると思いますので、覚悟してください。

 物理ダメージではありませんので、無効化されないはずです。

 ちょっとした火傷のようになるかもしれません」


「えっ、熱いんですか!?」


「熱いです。熱いはずです。熱くあって欲しいです。

 それを考えたら、ちょっとだけ楽しくなってきました。

 こちらも刀一本を犠牲にするのですから、それくらいの対価は払ってくださいますよね」


「刀一本が犠牲に?」


「ええ、オーラで刀をまとうとはいえ、『無敵』が相手です。

 鉄の塊、いえ、もっともっと固いナデール鋼に全力で斬りかかるようなものです。

 当然、刀は使い物にならなくなります。

 でもいいのです。クロルさんがそれで火傷をするのであれば。安い代償です」


「あの……!」


「剣技スキルを思い出して、全身にオーラをまとわせてください。

 そして、スキルの発動を強くイメージします。

 本来はスキル発動までかなりの訓練を要しますが、天才のクロルさんなら余裕でできるはずです」



 アズキさんは憎まれ口を叩いているけれど、刀一本を俺のために犠牲にしてくれるのだ。


 刀一本、普通に考えて、安いものではあるまい。


 その心意気を無駄にしないためにも、下手な問答はやめておこう。



「やってみます」


「注意をひとつだけ。

 斬りかかられても、絶対に動かないでください。

 下手に腕をのばしてかばったりすれば、攻撃はそこで防がれ全てがムダになります。

 いいですか、チャンスは一度だけですよ。

 『今回失敗しても次があるさ』などと思わないでください。

 次回、つまり無敵スキルを二度目に発動した瞬間、難易度星一個の課題が達成されてしまいますから」


「……ああ、そういうことですか。分かりました」


「では、はじめてください」


「はい、よろしくお願いします」



 アズキさんが身構える。



 俺は全身をオーラでまとわせるようにイメージする。

 ぼんやりと身体全体が光る。


 これでいいのかな?



「いきます」



 俺がそう宣言すると、アズキさんがうなずく。



 無敵スキル発動!


 途端に全身が強い光を放つ。

 発動に成功したようだ。



 すぐさまアズキさんが、俺に斬りかかってくる。


 怖い!


 俺は目を閉じて、余計な反応動作をふせぐ。



 ギュッ。



 鈍い音がした。

 鎖骨のあたりからわき腹へと斜めに、何かがぶつかった感触がした。


 斬られたのだ。


 衝撃をうけて、俺は一歩あとずさる。



「……終わりました。それにしても、本当に一発でスキルを発現させるとは」



 刀との接触部位が、じわりと熱くなってくる。



「うわ、熱い! 熱い!」



 斬られた後が熱い。

 赤くじんわりと腫れあがってきた。

 触れると痛い。本当に火傷をしたようだ。



「手当ては必要ですか?」


「いえ、そこまでひどくはないようです。大丈夫です」



 俺はいそいそと服を着る。



「これで、無敵スキルが本物だという証拠を得られました。

 ご協力、感謝します。

 クロルさん、スキルレベルが上がったかどうか、念のため確認してくださいますか」


「わかりました」




【無敵スキル

 レア度:☆☆☆☆☆


 レベル:1/10


 解説:

  完全スキル依存型。このスキルの能力は、使用者の実力の影響を受けない

  発動後、五秒間、物理ダメージを完全に無効化する

  スキル再発動には、二十五時間というクーリングタイムが必要


 クーリングタイム中:残り約二十五時間



 レベルアップ課題(条件および特典):


  高低差二千メートル以上の落下ダメージを無効化する    ☆☆☆☆☆

     →クーリングタイムが十時間減る


  マグマの海に飛び込み、帰還する             ☆☆☆☆

     →スキル発動時間がニ秒間増える


  無敵スキルを発動せずに、一ヶ月経過する         ☆☆

     →クーリングタイムが一時間減る



 レベルアップ履歴:

  即死級のダメージを無効化する              ☆☆☆☆☆

     →スキル発動時間が三秒間増える】




「レベルが上がっています。

 それに、レベルアップの条件と特典が、ごっそり入れ替わっていますね」


「ランクの低い条件をすぐに達成してしまうような危険性はありませんか?

 次の課題をチェックしてみてください」


「えーと……、大丈夫ですね」


「そうですか。では、レベルアップおめでとうございます。

 刀を犠牲にした甲斐があったというものです」


「あ……、ありがとうございます」



 アズキさんは無言で、折れた刀の半分を拾いにいく。

 そして折れた破片を悲しそうに見つめると、俺をなんとも言えない顔つきでにらむ。



「その刀の埋め合わせとして、俺ができることなら何でも……」



 しかしその言葉を言い切る前に、アズキさんが俺の腕をつまみあげる。



「ではひとまず、つねらせてください。

 一分間ほどこうしていれば、溜飲もいくらか下がるでしょう。

 その間に、何をしてもらうか考えます」



 えっ、一分間も!?


 だがその時、驚くべき出来事が起こった。



【あなたの心の中で、わたしの言葉が響いていると思います。

 同様に、わたしにはあなたの心の声が聞こえます。

 ですがあわてず騒がず、そのまま何もなかったように装ってください】



 ……これは一体どういうことでしょう?



【詳細は省きますが、わたしの持つ能力、接触通信の効果です。

 さて、気づいているでしょうが、このまましばらく我慢してください】



 気づく? 何をですか?



【やっぱりあなた、わたしに触れられていても平気みたいですね。

 ふつう殿方は、こうして手で触れられるだけで強い不快感を覚えるはずなのよ】



 不快感なんてとんでもないです。

 もちろんつねられるのではなく、手を握られるとかそういう方がうれしいですが。



【……本題に入ります。

 これから、あなたに弟子入りの話をもちかけます。

 あなたを救うためです】



 救う……? 一体どういうことですか?

 俺、ピンチなんでしょうか。



【かなりの窮地に陥っています。

 正直なところ、弟子にするくらいでは、あなたを救えるかどうか難しいです。

 ところで、わたしと結婚する気はありますか?】



 えっ、結婚?! 突然なんですか!?

 そりゃこんなかわいい女の子と結婚できるなら、願ったり叶ったりですが……。



【では助かりたいと願うなら、わたしに求婚してください。

 ただし、言葉だけでは足りません。

 何らかの行動を起こしてください。

 わかりましたね?】



 は、はい。




 そこまでやりとりがすむと、アズキさんはようやく手をはなした。

 一分間という話だったが、実際にはもう少しかかっただろうか。


 しかし結婚って、話が飛びすぎだよな。

 今の話、俺の妄想だったんじゃないかと疑いたくなってくるよ。


 アズキさんは不機嫌そうな眼差しを俺にむけながら、ポツリとつぶやいた。




「決めました。刀の代償として、わたしの弟子になってください」


「……はい?」



 と答えつつも、俺は心の中で思う。


 あー、やっぱり今のやり取りは本物だったのか。



「わたしと同じ冒険者となり、弟子になってください。

 そうしていただけるなら、刀のつぐないは充分です。

 むしろ、優秀な人材がわたしの一派に加わると考えれば、お釣りが来るほどです。

 人脈というのは、宝ですから」


「はい、じゃあ冒険者になります。弟子にしてください」


「不服そうですね」


「え、いや、そんなことはないです。是非とも弟子にしてください!」


「確かに、あなたの方が才能はあるようです。

 わたしが師匠であなたが弟子では不服なのですね! 逆がいいと言うのですね!」


「いえ、そんなことは一言も……」


「にくらしいので、しばらく黙ってていてください!

 わたしの怒りをおさめるために、時間をください!」



 アズキさんは、ふたたび俺の腕をつねる。




 そしてこれみよがしに、何度もハーッとためいきをつく。


 しかしそのためいきは演技のようだ。

 接触通信とやらが俺の心の中で響く。



【疑いはほとんど晴れましたが、あなたが不審者であることに変わりはありません。

 身分を保証するようなものを何も持たず、経歴も不明。

 家族も知人も身よりもなし。

 王都へと帰還後、あなたに対してなんらかの処罰が下されるでしょう。

 良くて数年の幽閉、というところでしょうか】



 幽閉!? 疑いが晴れたら、俺は解放されるんじゃなかったんですか?



【残念ですが、隠密行動中の騎士団の進路に突然現れたのですから、疑いを全て晴らすのは困難です。

 あなたに悪意がないと証明できたとしても、作戦妨害の罪に問われることになるでしょう。

 騎士団の秘密を守るための口封じという意味もあります。

 それがあなたの現在の立場です。

 ピンチという意味、お分かりできましたか?】



 なるほど、ようやく話が見えてきました。



【そのピンチを救えるのは、現在わたしだけです。

 弟子になっていただけるなら、あなたを救う理由ができます。

 そうなったらわたしは、持てる特権とコネとネコと財力を駆使して、あなたを救いましょう。

 しかしそれだけでは、周りの人たちを納得させるのは難しいです。

 ですから、もっと強固なつながりをつくるために、今、この場で求婚してください】



 ありがたい話ですが、よろしいのですか?

 今の俺には、アズキさんにすがるしか道がなさそうですが……。


 背に腹はかえられぬ、とかいうやつだな。

 ネコの背中は撫でてもOKだけど、おなかをさわるのはNG、という意味だったと思う。

 違ってたらごめん。


 だけど、それでアズキさんに益はあるんですか?

 本当に俺でいいんですか?



【かまいません。いずれ家庭を持ちたいと考えていました。

 あなたのような才能を持つ方となら、優秀な子宝に恵まれるはずです。

 それに何より、わたしに触れて不快に思わない殿方というのは、あなたが初めてですので】



 こんなかわいい女の子にさわられて、嫌がる男子なんてどこの世界にいるというのだ。



「どうして、黙っているんですか?」突然、アズキさんが口を開いた。


「えっ、いや……、黙っていろと言われたので」


「あなたのそういうところ、嫌いです」


「……ごめんなさい」


「この際だから遠慮なく言わせてもらいますが、わたしはあなたのことが大っ嫌いです!」



 本心からあふれでてきたようにもとれるその言葉は、俺の心に深く突き刺さった。




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