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手加減だけはうまくできない  作者: ニャンコ先生
第03章 王都マグロンタターク
35/39

第35話 二つの内容


 王宮前に、巨大な広場がある。

 そのステージに俺は立っている。



 俺が手を上げると、それだけで国民のみんなが興奮し、騒ぎ出す。


 俺の一挙手一投足を全員が注目しているのだ。



 これ結構楽しいな!



 右を向いて同じ事をする。


 視界内の国民みんなが嬉しそうにはしゃぎまわる。


 左を向いて同じ事をする。


 目に入った国民みんなが熱狂につつまれ、歓声をあげる。



 ……楽しい!

 思わず顔がにやけてくる!


 もう二、三回同じ事を繰り返したくなる!


 けれども、それをぐっとこらえて話を進めよう。




「余が、クロル・マグロン・タターク王である!」



 それを宣言しただけで、耳をつんざくほど民衆がどよめいた。

 爆音のような拍手喝采がわきおこった。



 みんな喜びすぎだよ!


 ここまでくると騒音だ!

 まるで一万メートル上空から地上に激突したかのような轟音だ!

 耳がおかしくなるよ!



 とはいえ、国民が歓喜に酔いしれるのもしょうがないか。

 この国にとって待望の王さまが登場したんだからね。


 それにしても『余』なんて一人称代名詞、初めて使ったよ。

 いくら王さまとはいえ、格好つけすぎかな?


 王さまらしさを演出するためとはいえ、少し恥ずかしい。

 だがそういう役柄を求められているのだから、甘んじて受け入れよう。



 さて、まずはみんなが知りたいことを告げるとするか。



「先刻、二度、天が光った。その理由を知らせよう」



 かの国が滅んだことは、いずれ明るみになる。

 だったらこの場で発表した方がいい。

 その方が混乱も少なくてすむはずだ。


 とはいえ、旧神が出現したという話は省略していいだろう。

 いらぬ不安をあおる必要はないはずだ。


 禁忌にふれてしまって、神兵に罰せられたということにでもしておくか。

 嘘ではないからな。




 俺はこれまでの経緯を説明する。




 俺が語る言葉は、神兵が声を拾って増幅し、街中に響かせている。


 みんなその声に耳を傾けている。




 それにしてもこういう説明って、やってみると意外に難しいものだな。


 まったくシュガーのやつめ、ひょっとしてこういう面倒ごとを押し付けるために俺を王さまになんて役にかつぎあげたのだろうか。

 こんな戦勝報告など、王宮のおえらいさんにでもやらせればいいものを……。


 まあ詳細を知っているのは今のところ俺だけだから、適任といえば適任なのだがな。





「二つめの通達に移る。

 余が、クロル・マグロン・タターク王である!

 ゆえあって、先ほど国王の座に即位した!

 見てのとおり、余はあまたの神兵をたばねる者!

 わが国は神兵たちの庇護を得た!

 よって、わが国は繁栄を約束されたも同然だ!

 通達は以上だ!」



 今までにないほど大きな歓声が響き渡る。

 その声色は、喜びと安堵に満ちているかのようだ。

 拍手もずっと鳴り止まない。


 国民の興奮はおさまる気配をみせない。



 そんな中一人の兵士が大声をあげた。見覚えのある顔だ。



「クロル・マグロン・タターク王陛下! バンザーイ!!」



 彼が心底うれしそうな顔でそう宣言すると、民衆がそれに続く。



「バンザーイ!」

「バンザーイ!!」

「バンザーイ!!!」

「バンザーイ!!!!」

「バンザーイ!!!!!」

「バンザーイ!!!!!!」

「バンザーイ!!!!!!!」

「バンザーイ!!!!!!!!」

「バンザーイ!!!!!!!!!」

「バンザーイ!!!!!!!!!!」



 このあたりが退出する頃合だろう。


 鳴り止まぬバンザイコールの中、俺はステージを降りて王宮へと向かう。



 目指すは王宮最上階最奥にあるというマタタビの間だ。

 そこでシュガー姫が待っているのだ。




 とはいえ宮殿内でも、さぞかし壮大な歓迎が待っているのだろう。


 その歓待をてきとうにあしらったとして、シュガー姫に会えるまでどれほどかかるやら。




 そう思って宮殿に入るが、予想ははずれた。




 メイドさんが一人、うにゃうにゃしく頭を下げて俺を待っていただけだった。



「お目にかかれて光栄です。

 クロル・マグロン・タターク王陛下」


「……出迎えがあると聞いていたが、あなた一人だけなのか?」


「はい。マタタビの間へは、わたくしが案内をつとめさせていただきます」


「頼む。それで、他の者はどうしているのだ?」


「みな、毒を仰ぎまして……」


「……そうか」



 なるほど。

 そういうことか。


 お偉いさん方が全員いなくなってしまったから、そういう役目を果たせる者が必要だったのだ。

 だから俺を王さまにしたて上げたのか。

 そうだとしても、自分でその役を果たせばいいものを……。



 いや、今さらあれこれ考えるのはやめておこう。

 俺を王にまつりあげた理由は、シュガー本人に確認すればいいのだ。




 さて、新たな疑問がもう一つ。

 なぜ王宮の者たちは、毒を仰ぐような真似をしたのか。

 メイドさんがその理由を知っているかどうか怪しいところだし、聞かれても困るだろう。


 まあ、それもこれも、シュガーに確認すればいい。




「こちらでございます」


「うむ、案内ご苦労であった」




 案内された一室に入ると、忘れようもない魅惑的な少女の顔がそこにあった。

 小生意気でにくたらしくて、それでいてときたま天使のように無垢な表情をみせるお姫さまだ。

 アズキと違うベクトルから、俺を魅了してくるシュガーだ。



 ようやくだ。ようやくここまでたどりついたのだ。



 俺が知りたいと願った全ての謎の秘密、それを彼女が解き明かしてくれるはずなのだ。




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